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キャプテン吉田麻也が語るW杯優勝経験国連破の価値 目指すは8強進出「日本サッカー界の発展につながる」

2022年12月04日17時00分 / 提供:マイナビニュース

●「いろいろな層に楽しんでもらいたい」W杯の盛り上がりに喜び
日本代表が再び歴史を作った。中東カタールで開催中のサッカーW杯のグループE最終戦で、優勝候補の一角スペイン代表を2-1で撃破。ドイツ代表に勝利した初戦に続く番狂わせを起こし、2つのW杯優勝経験国と同居した「死の組」を1位で突破した。コスタリカ代表との第2戦で敗れてから4日。チームの立て直しに奔走したキャプテンのDF吉田麻也(シャルケ)は、代表人気の低迷が指摘されて久しい、日本サッカー界を取り巻く状況にも胸を痛めてきた。だからこそ、起爆剤となりうる2つの大金星と2大会連続4度目の決勝トーナメント進出に、34歳のベテランは何を思ったのか。スペイン戦直後を含めて、吉田が残した言葉とともにその胸中を追った。

記憶の糸をキャプテンのDF吉田麻也は必死にたどっていた。ドイツとの初戦に続いてスペインとの最終戦でも大金星をゲット。カタールW杯のグループEを1位で通過した、ドーハ郊外のハリーファ国際スタジアムの取材エリアで、日本代表の歴史を脳内検索し始めた。

「日本が2勝して次へ進んだこと、いままでありましたかね。僕が出たW杯では初めてですよね」

即興で呼び起こされたデータは間違っていなかった。日本がW杯のグループステージを突破するのは通算4度目。2002年の日韓共催大会は2勝1分けで、10年の南アフリカ大会は2勝1敗でそれぞれ突破しているが、ともに吉田がA代表に招集される前の大会だった。

一転して吉田が初めてW杯に臨んだ14年ブラジル大会は、1分け2敗の最下位で無念の敗退を喫した。そして、4年前のロシア大会では1勝1分け1敗の2位で突破した。しかし――。

「(前回大会で)コロンビアに勝ったときは、開始早々に相手に退場者が1人出ていたので。勝ったけれどもそれがあったから、みたいなのがあったので、ちゃんと勝ったのは(今大会が)僕的には初めてですね。2つ勝てたこととあわせて、シンプルにうれしいですね」

しかも勝利した相手が、W杯優勝4度のドイツと同1度のスペイン。国際親善試合を含めて、過去にひとつも勝てていなかった世界の列強国を劇的な逆転勝ちの末に連破した。

その間にはコスタリカとの第2戦で一敗地にまみれている。ドイツに勝ったのだから――という楽観ムードが漂うなか、日本時間の日曜日、それもゴールデンタイムの午後7時にキックオフされた国民注目の一戦で敗れた。決勝点は吉田の判断ミスから献上していた。

自陣のゴール前で先に間合いに収めたはずのこぼれ球を、クリアではなくパスを繋ごうと判断。前方にいたボランチの守田英正(スポルティング)への浮き球のパスは落下地点がずれ、高さも中途半端なものになった。守田が失ったボールを、コスタリカの選手に決められてしまった。

「僕個人としても日本代表チームとしても、たくさんの批判が起きると理解しています。こういう大きくて注目される大会で批判というものは特につきものだし、それをマネージできなければここには立てないと思っている。何よりも、ここですべてを投げ出すにはまだ早すぎる。自信と勇気を持ってもう一度立ち上がり、スペインに挑まなきゃいけないと思っています」

コスタリカ戦後に吉田が語っていた悲壮な決意に、スペイン戦を翌日に控えた11月30日には別の思いも加わっていた。それは日本サッカー界の未来に対する危機感でもあった。

「このような大会をきっかけにして、いろいろな層のサッカーファンに楽しんでもらいたい。それは間違いなく未来につながると思っている。日本代表が注目されている状況に関しては、正直に言って非常にうれしい。ここ最近は地上波でなかなかサッカーが放送されず、サッカーを身近に感じられる機会が少なかった。だからこそ、ここでグループステージを突破できるかどうかが、日本サッカー界にとって非常に大きいし、将来を左右するものだと思っています」

●コスタリカ戦の批判を受け止めながら覚悟と決意を新たに

日本国内でなかなか盛り上がりを見せないサッカー人気を象徴する出来事を、吉田は身を持って経験している。わずか半年ほど前。サッカー王国ブラジル代表を含めて、W杯カタール大会へ向けた強化の場となる国際親善試合が日本国内で4つ組まれた6月シリーズを迎えたときだった。

「ブラジル代表との対戦が決まって、たくさんの人からチケットを頼まれてすごく大変だったんですね。だから、代表は盛り上がっているのかなと個人的には思っていたんですけど。この間の札幌での試合でチケットが売れ残っていると知って、ちょっと自分の肌感覚とは違っていましたね」

吉田が言及した「札幌での試合」とは、6月2日に札幌ドームで行われたパラグアイ代表戦を指す。札幌ドームでの日本代表戦開催は2014年9月以来、約8年ぶりだった。しかも、新型コロナウイルス禍の日本で長く設けられてきた、観客数の入場制限も撤廃されていた。

しかし、約4万2000人のキャパシティーに対してパラグアイ戦の観客数は2万4511人。6割に満たなかったスタンドはどうしても空席が目立った。対照的に8年前の2014年9月5日に開催された、日本対ウルグアイの観客数は3万9294人とほぼ満員だった。

メキシコ出身のハビエル・アギーレ監督の初陣だったウルグアイ戦には、実は吉田も出場していた。8年の歳月を経たギャップを前にして、余計にショックを受けたのかもしれない。

そして、パラグアイ戦の4日後に国立競技場で行われたブラジル戦。あいにくの雨に降られ続けながらも観客数は6万3638人と、改修後の国立競技場における最多記録(当時)を更新した。パラグアイ戦とのギャップが何を物語っていたのかは一目瞭然だった。

サッカー人気そのものは決して落ち込んではいなかった。ブラジル代表の来日は実に21年ぶり。FWネイマール(パリ・サンジェルマン)をはじめ、スーパースター軍団のプレーを生で観戦できる貴重な機会だっただけに、チケットは瞬く間に完売となった。

当時はイタリアでプレーしていた吉田のもとへも、何とかならないかと友人や知人から連絡が入っていたのだろう。日本代表よりもブラジル代表へ注がれた関心度の高さが、普段はあまりサッカーに関心を示さない、いわゆるライト層を数万人単位で国立競技場へ引き寄せた。

対照的に日本代表人気はピーク時に比べて明らかに低迷している。ブラジル戦を前にした取材で、日本国内の現状を問われた吉田が「難しいですね」と思わず答えに窮し、ようやく絞り出したちょっと笑えないエピソードが、パラグアイ戦とブラジル戦とのギャップだった。

しかし、劇的な逆転劇の末に勝利したドイツ戦を境に、潮目が明らかに変わった。それだけ望外の勝利だったのだろう。地上波を中心にテレビが大々的に伝え、ワイドショーを含めた報道を見聞きした老若男女が大きな関心を抱き、ライト層の幅を一気に広げた。

前述したように、コスタリカ戦は日本時間で絶好の日時に行われた。テレビ朝日系で生中継された平均世帯視聴率は42.9%と、他局を含めて2022年で最高の数字をマーク。生配信したインターネットテレビ局「ABEMA」の視聴者数も、開局以降で最多となる約1400万人を記録した。

テレビ朝日の推計では、地上波との合計は約6080万人に到達。国民の半分以上が森保ジャパンの戦いぶりを見守る近年稀に見る熱狂ぶりが生まれた。しかし、結果として千載一遇のチャンスを日本は逃してしまった。期待が一気に膨らんだ分だけ、失望という反動も大きかった。

批判されると覚悟した吉田だけでなく、プレーが消極的と映った途中出場のDF伊藤洋輝(シュツットガルト)ら若手にもネット上で非難が集中した。日本で起こっている事態を把握し、すべては自分たちがまいた種と逃げずに受け止めながら、吉田は覚悟と決意を新たにしている。

「これがサッカーの難しさだとあらためて感じました。難しい試合になるのは間違いないとわかっていたのに、一番起きてはならない展開になってしまった。ただ、まだ何もつかみ取ってないし、何も失っていない。決して焦らずに、その上でもう一度泥臭く戦わなければいけない」

コスタリカ戦後にこう語った吉田はキャプテンとして、スペイン戦までの3日間で極めて大きな仕事を担った。それは「戦い方を統一する作業」だった。卓越した技術とボールポゼッション術を持つスペインと、どのように戦うべきか。選手たちが抱く思いを集約して回った。

●戦い方を統一して挑んだスペイン戦 後半に勝負をかけて勝利

昨夏の東京五輪準決勝で、日本は延長戦の末にスペインに屈した。スコアこそ0-1ながらボール支配率で大差をつけられ、防戦一方で疲弊した日本は反撃に出る力をも削がれてしまった。

そして、システムと基本的な戦い方はそのままに、W杯での戦いではスペインのメンバーがスケールアップしていた。昨夏の借りがある東京五輪世代の攻撃陣は前線から連動してプレスをかけ続けたいと望み、ボランチから後ろの選手たちはリスクが大きすぎると難色を示した。

1人でも意見の相違があれば、戦い方の瓦解につながる。結果として守備のブロックをしっかりと形成して、両チームともに無得点の時間をできるだけ長くするプランが共有された。ただ、こうもつけ加えられていた。吉田は言う。「負けていたら前からはめにいく」と。

開始早々に隙を突かれてスペインに先制され、青写真が崩壊しかけた状況で必死に踏ん張り、0-1のままで戻ったハーフタイムのロッカールーム。誰からともなく声があがった。
「前からどんどんプレスをかけていこう」

異を唱える声は上がらなかった。スペインに負けた時点で、同時間帯に行われているドイツ対コスタリカの結果に関係なく敗退が決まる。虎穴に入らずんば虎子を得ず。リスクを背負い、鬼気迫る表情で前線から仕掛け続けたプレスが、スペイン守備陣をパニックに陥れた。

後半のキックオフから3分。バックパスを受けた相手キーパーとの距離を、FW前田大然(セルティック)が猛然と詰める。そして、キーパーからパスを受けた左サイドバックへ、待っていましたとばかりに右ウイングバックの伊東純也(スタッド・ランス)がプレスをかけてボールを奪う。

こぼれ球を拾ったのは後半から投入されたMF堂安律(フライブルク)。相手のマークが甘いなかを前へ持ち運んで強烈なミドルシュートを一閃。殊勲の同点ゴールを不敵に振り返った。

「あの位置でフリーにさせると、堂安律という選手は危ないんですけどね」

3分後には逆転ゴールが生まれる。右サイドから堂安が送ったクロスが合わず、反対側のゴールラインを割りかけた直後だった。前田、その外側を同じく後半から投入されていたMF三笘薫(ブライトン)が必死に追う。そして、三笘がぎりぎりでゴール中央へ折り返した。

ボールが来ると信じて詰めてきていた、ボランチの田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が体で押し込んだ。三笘が折り返す前にゴールラインを割ったとして、主審はゴールを認めなかった。しかし、直後にVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入する。

判定を待つこと約2分。ボールのほんの一部がゴールライン上に残っていたと判定され、田中のゴールが正式に認められた。歓喜の瞬間に抱いた心境を、三笘はこう語っている。

「1ミリでも(ゴールラインに)かかっていればいいな、と思っていました。(ゴールが)認められた後は(自分の)足がちょっと長くてよかったと思いました」

戦法を変えて後半へ臨む前に、吉田は「10分ぐらいまで前からプレスをかけにいこう」と声をかけている。前線からの連動したプレスは、自分たちの体力をも奪う諸刃の剣でもある。時間限定で乾坤一擲の勝負をかけ、東京五輪の悔しさを知る選手たちが数分の間に結果を出した。

●日本サッカー界の未来背負いクロアチア戦へ「新しい景色を見たい」
歴史的金星を再びもぎ取った余韻が残る取材エリア。日付が2日に変わったなかで、逆転勝利に抱く率直な思いを求められた吉田は「すごくうれしいです」と語った後に声を途切れさせた。

「……何か語彙力がなくてすみません。ただ、今日は夜も遅いので、しっかりと休んで明日から。ただ、またみんなと一緒にサッカーができるのは本当にうれしいですよね」

吉田のサイズは身長189cm体重87kgとフィールドプレーヤーでは最も大きい。豪快なイメージを抱かせるようで性格はきめ細かく、常に周囲への配慮も忘れない。だからこそ前任者の長谷部誠(アイントラハト・フランクフルト)から、代表のキャプテンを託された。

「自信を持っていい勝利だと思いますけど、自分たちの目標はあくまでもベスト8の壁を破ることなので。ここで気を緩めず、そしてここで満足せずにもうひとつ勝って、自分たちの手で新しい景色を見たい。それが日本のサッカー界の発展に、必ずつながると思っている」

勝って兜の緒を締めよ、とばかりに吉田はまだ通過点だと表情を引き締めた。それでも、夜が明けたばかりの日本国内の状況を思い浮かべながら、ワイルドな風貌をちょっぴり緩めた。

「例えば10年後ぐらいに代表へ新しく入ってきた選手たちのなかで、子どものころに『ドイツやスペインとの試合を見たから』というケースが増えれば、それも日本のサッカー界の進歩だと思う。そのときには僕がベテランたちの首を切りたいなと思います」

補足が必要な言葉を最後に残しながら、吉田は足早に去っていった。要は10年後には自分が代表監督を務め、子どものころにテレビ越しに見たカタールでの激闘に触発され、将来の夢を描いた日本代表選手たちの居場所を作るために、ベテラン選手を整理すると言いたかったのだろう。

吉田のジョークには追加すべき点もある。ドイツやスペインに続いて、前回ロシア大会準優勝の難敵クロアチア代表との決勝トーナメント1回戦でも日本が勝てば――初めてのベスト8進出をかけた4度目の挑戦は、5日18時(日本時間6日0時)にキックオフを迎える。

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