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リチウムイオン電池の正極の安定化にバイオマス由来の添加剤が有効、JAISTなどが確認

2022年12月01日21時05分 / 提供:マイナビニュース


北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)などは、微生物合成したピラジンアミン化合物「2,5-ジメチル-3,6-ビス(4-アミノベンジル)ピラジン」(DMBAP)が、リチウムイオン電池(LIB)の「LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極」の安定化に有効な添加剤であることを見出したと発表した。

同成果は、JAIST 物質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授、同・ラージャシェーカル・バダム元講師、同・アグマン・グプタ研究員、同・高森紀行大学院生、筑波大 生命環境系の高谷直樹教授、同・桝尾俊介助教、同・皆川一元大学院生らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

近年LIBにおいて、高電圧化に有効なLiNMC系正極(LiNixMnyCozO2;x+y+z=1)を活用するための研究が盛んに進められているが、同正極はやや不安定であるため、正極材料として安定化させるためには、添加剤を活用するなどのアプローチが必要だという。

JAISTの松見教授らの研究チームではこれまで、添加剤として「BIANODA」の合理的な設計法について報告済みだが、同添加剤の合成においては、材料の精製などがやや煩雑だったという。そこで今回の研究では、微生物合成によってDMBAPを合成し、LiNMC系正極用添加剤として検討することにしたとする。

BIANODAと同様にDMBAPもHOMO(最高被占軌道)が高く、重合性官能基を持つこと、正極活物質の劣化因子であるフッ化水素をトラップ可能な構造であること、遷移金属への配位子構造などを併せ持つなど、LiNMC系正極の安定化剤として理想的な構造を有しているという。この微生物合成を採用することにより、比較的複雑な構造を有する添加剤を簡易かつ低コストに、また低環境負荷な手法で合成することが可能になるとする。

また、筑波大の高谷教授らのグループでは、Pseudomonas fluorescens SBW25の遺伝子クラスターがDMBAPの微生物合成に有用であることを見出しており、さらにグルコースを原料としてDMBAPを発酵生産する組換え細菌も開発済みだった。

そこで今回の研究では、まずLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2/電解液(エチレンカーボネート(EC)/ジエチレンカーボネート(DEC)/ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6))/Li型ハーフセルにおいて、電解液に2mg/mlのDMBAPを添加し、正極安定化剤としての性能評価が実施された。


カソード型ハーフセルのサイクリックボルタモグラム(3.0~4.5V)の第一サイクルにおいては、DMBAP添加系では非添加系には見られない酸化ピークが観測され、添加剤に基づいた被膜形成挙動が示唆されたという。

DMBAPの量を変化させつつ充放電特性評価が行われたところ、電解液への添加量が2mg/mlの系において最善の性能が観測されたとする。DMBAP 2mg/mlを電解液(EC/DEC/LiPF6)に添加した系においては、1Cの電流密度における100サイクル後の放電容量は83.3mAhg-1であり、DMBAP非添加系の放電容量の42.6mAhg-1を大幅に上回ったことが確認された。またDMBAP添加系においては、リチウム挿入・脱離反応のオーバーポテンシャルの低下も観測された。さらに、DMBAPによる電池系の安定化効果はフルセルにおいても顕著だったとする。

次に、カソード型ハーフセルにおける界面形成挙動の解析のため、動的インピーダンス測定が行われた。各電圧下における、それぞれのインピーダンススペクトルに関する等価回路フィッティングが行われ、カソード側の界面抵抗の算出が行われた。すると、DMBAP添加系においてはすべての測定条件下において非添加系よりも抵抗が低く、DMBAPの界面抵抗低減効果が顕著であることが判明した。

加えて、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2正極を電解液(EC/DEC/LiPF6)中で保管された系においては、走査型電子顕微鏡像において形態の変性が観測されるが、DMBAPを共存させた系においては形態変化は抑制され、DMBAPによる安定化効果が再び示されたという。

これらの結果を踏まえ研究チームでは、LIBの開発においては、作用機構が異なるほかの添加剤との併用により、さらなる相乗効果につながることが期待されると説明してるほか、遷移金属組成の異なるさまざまなLiNMC系正極を効果的に安定化することも期待できるとする。

なお、今後は、企業との共同研究を通して将来的な社会実装を目指すとしており、特に電池セルの高電圧化技術の普及と電池材料のバイオマス代替促進を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待されるとしている。

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