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近未来テクノロジー見聞録 第252回 卵白を使って海水を塩分とマイクロプラスチックに除去できる新しい方法とは

2022年12月01日08時03分 / 提供:マイナビニュース

2022年11月3日、プリンストン大学は、卵白を使って海水から塩分とマイクロプラスチックを除去する新しい方法を考案した、というプレスリリースを発表した。では、彼らはなぜこの方法を考案したのだろうか。そして、この方法とはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

卵白を使って海水から塩分とマイクロプラスチックを除去する新方法

まず彼らは、今回の研究で何をしようとしているのだろうか。その目的の1つは、水の浄化だ。つまり、安価で浄水できる新しい多孔質の素材を探し求めているのだ。

では、なぜ彼らは卵白に辿り着いたのだろうか。Craig Arnold博士は、サンドイッチのパンを見つめながら、次のように言ったという。

"And I thought to myself, this is exactly the kind of structure that we need(まさに、これこそが我々が求めている構造だ)."

そこでArnold博士は、研究室のメンバーに、炭素を混ぜたさまざまなパンのレシピを作るように依頼し、探していたエアロゲル構造を再現できるかどうかを確認させたという。しかし、実験は難航。最終的にパンではなく、卵白が候補として残ったというのだ。

その後彼らは、卵白を使ってエアロゲルを作成。そして、卵白で相互に接続された炭素繊維のストランドとグラフェンシートの構造を作成することに成功したのだ。

このエアロゲル構造が、卵白を冷凍し、乾燥させ、酸素のない環境下で900℃で加熱するとできるという。この新たな素材によって、海水から塩分とマイクロプラスチックをそれぞれ98%と99%の効率で除去できたとしている。

Arnold博士は、この卵白を使ったエアロゲル構造の作成について、まだ課題があると述べている。1つ目は、卵は安価で容易に入手できるものであるが、卵を使った浄水システムを構築するために卵のサプライチェーンを崩壊してはならないという点。2つ目は、この卵白で浄水した水の純度に、まだ改良や研究の余地がある点だという。

しかし卵白を使ったエアロゲルによる浄水機能は、製造コストが安く、エネルギー効率が高いというメリットがある。さらには、活性炭よりも浄水に関して優れている点が数多くあるともしているのだ。また、多くのエネルギーと余分な水を必要とする逆浸透のシステムと比較すると、この卵白によるエアロゲル構造でろ過するプロセスは、重力のみを使ったものであるためほとんど無駄がない。そして実際に、卵白タンパク質のエアロゲルへの変換を明らかにする理論的シミュレーションも実施しているという。

いかがだっただろうか。この卵白によるエアロゲル構造が期待されている点は、浄水だけではない。エネルギー貯蔵や防音、断熱などさまざまな用途への使用が期待される。昔から継続して行われている機能・性能向上や新発見や新発明なども重要だが、他の対象と比較して機能や信頼性、品質を損なうことなく保ちながらも、コストメリットを模索することに重点が置かれている点も評価すべき研究事例ではないだろうか。

齊田興哉 さいだともや 2004年東北大学大学院工学研究科を修了、工学博士。同年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、2機の人工衛星プロジェクトチームに配属。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。 現在は、コンサルティングと情報発信に注力。書籍に「宇宙ビジネス第三の波」、「図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」など。テレビ、新聞、Webサイト、セミナー・講演も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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