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東大、「高速電波バースト」の出現銀河の特異性を発見

2022年11月30日18時36分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)は11月29日、アルマ望遠鏡を使って、「高速電波バースト」(FRB)が出現した母銀河における星の材料である分子ガスを観測した結果、これまでの最遠記録の距離となる約3億6000万光年彼方の母銀河から分子ガスを検出することに成功し、既存データも含めて合計6つの母銀河サンプルを用いて分子ガスの性質を調べたところ、一般的な星形成銀河や、ロングガンマ線バーストの母銀河、重力崩壊型超新星の母銀河とは異なる性質を持つことが明らかにされたと発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科 附属天文学教育研究センターの廿日出文洋助教、同・新納悠特任助教、台湾・國立中興大學の橋本哲也助教、台湾・國立清華大學のシュー・ツーイン学部生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

FRBは、マイクロ秒~ミリ秒という短時間に非常に強い電波パルスを発する天体現象で、大多数が天の川銀河外の銀河で発生していることがわかっている。2007年に最初の観測が報告されて以降、これまで数千例もの観測がなされているが、その起源天体は正体不明で、発生メカニズムも解明されていない。

起源天体の候補としては、マグネター(宇宙最強の磁場を持つ中性子星の一種)を含む中性子星や大質量ブラックホールなど、数多くのモデルが提唱されているが、仮説の域に留まっている状況だという。ただし、2020年に天の川銀河内のマグネターから同様の電波パルスが検出されたことで、マグネター起源説が注目を集めているが、ほかのFRBもマグネター起源なのかは不明となっている。

天体の形成にはその周辺の環境が大きく影響するため、FRBが出現した環境を研究することが必要だという。中でも分子ガスは天体を形成する材料であるため、起源天体がどのような環境で生まれたのかを探る重要な手掛かりとなる。たとえば、星の質量に対する分子ガスの質量の割合や、分子ガスが星の形成に利用される時間スケールといった、天体形成の理解に直結する物理量を調べることが可能とされている。

ただし、FRBが出現した銀河(母銀河)における分子ガスの観測はほとんど行われておらず、これまで3例に限られている。このうち、天の川銀河外で分子ガスが検出されたのは、おおぐま座の方向、約1200万光年という比較的近傍の銀河「M81」のみだった。遠方の銀河の場合、そこから届く信号は微弱となるため、高い感度を持った望遠鏡での観測が必要になることが、分子ガスの観測が行われていない主な理由である。

そこで研究チームは今回、ミリ波・サブミリ波帯で世界最高の性能を誇るアルマ望遠鏡を用いて、新たに3つの母銀河の観測を行うことにしたとする。観測には、分子ガスの指標として用いられる一酸化炭素分子輝線が使用された。その結果、これまでのFRB母銀河としては最遠方記録となる赤方偏移0.3214(距離およそ3光6000万年)の母銀河から、分子ガス輝線を検出することに成功したという。


また、過去に観測が行われた3つの母銀河と合わせて、合計6つの母銀河サンプルを用いて、分子ガスの性質を探ることにしたという。母銀河の分子ガス質量と星形成率(星がどれだけ多く作られているかという指標)の比較が行われたところ、一般的な星形成銀河との違いが確認されたとする。一般的な星形成銀河では、分子ガス質量と星形成率の間には相関関係があるが、FRB母銀河はそれとは異なり、広い範囲に渡って分布していることが確認された。

続いて、分子ガスの割合や消費時間についての調査が行われたところ、こちらもまたFRB母銀河は一般的な星形成銀河とは異なる分布を示すことが明らかにされたほか、大質量星の終末に起因すると考えられるガンマ線バーストや重力崩壊型超新星の母銀河とも異なる傾向が示されており、FRBの起源天体はこれらの起源天体とは異なることが示唆されるとした。

今回の研究により、FRBの起源天体を研究する新たな手法が提示されたが、現状では母銀河のサンプルが6天体と限られているため、統計的な議論を行うためには、サンプルの拡張が必要だと研究チームでは説明している。そこで現在は、分子ガス雲の速度構造を含め、アルマ望遠鏡を用いた新たな観測の解析が進行中としているほか、今後も母銀河の観測を進めることで、FRBの起源天体について迫っていくとしている。

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