2022年11月30日07時00分 / 提供:マイナビニュース
●ispaceの第1歩が刻まれたGLXPへの参戦
日本発の宇宙スタートアップ・ispaceの月面ランダーが、いよいよ11月30日(つまり本日)、米国から打ち上げられる。同社の挑戦が始まってから、すでに12年。その間、紆余曲折がありながらも、諦めることなく開発を続け、ついに打ち上げまで辿り着けたことは、その最初期から取材で関わってきた記者の一人として、感慨深いものがある。
2022年11月30日15時追記:「HAKUTO-R」ミッション1の打ち上げは、打ち上げを行うスペースXのロケット「Falcon9」に一部確認作業が必要となったため、2022年12月1日の17時37分(日本標準時)に延期されました。
マイナビニュースでも、これまで多くの記事でispaceについて紹介してきたので、いろいろと思い出す読者も多いだろう。打ち上げを直前に控え、ここで改めて、同社のこれまでの取り組みを振り返ってみよう。
Google Lunar XPRIZEへの参戦
同社のこれまでの挑戦は、大きく前半と後半に分けられる。前半パートで取り組んだのは、月面ローバーの開発である。
そのきっかけとなったのは、月面レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)だった。このGLXPは、「月面に着陸して500m走ったら優勝」という、いま考えても非常にチャレンジングな賞金レース。これに出場を決めた欧州チーム「White Label Space」(WLS)が、ローバーを開発するパートナーとして、日本に声をかけたのが始まりだった。
この相談を快諾したのが、東北大学の吉田和哉教授。これにより、欧州側がランダー、日本側がローバーを開発するという日欧協力チームが誕生し、日本チームの母体として、ispaceが2010年9月に設立されている。
2011年8月には、初めてローバーのプロトタイプが公開。10kg以下という厳しい重量制限があるため、小型ながら変形する機能を持たせたという、非常にユニークな4輪ローバーになっていた。
しかし、この欧州チームが早々に脱落。ローバーだけでは月に行けないため、日本チームは存続の危機に陥ったが、他チームのランダーへの相乗りという手段を選択、活動の継続を決めた。いま振り返れば、ここで諦めなかったことが現在へと繋がっており、大きなターニングポイントだったと言えるだろう。
その後、ローバーの開発はさらに進み、中田島砂丘や鳥取砂丘でのフィールド走行試験なども行われた。
だが、相乗り先のランダーも二転三転。当初は米国のAstroboticに決まっていたのだが、同チームの撤退によって、2016年末にインドのTeamIndusへと変更していた。そのTeamIndusも、GLXPの期限ギリギリになってから、資金不足が判明。結局、打ち上げができないという事態になり、2018年3月末、GLXPは「勝者無し」という形で終了となった。
●独自のランダー開発で月に挑む
同社独自の月探査ミッションへ
そして後半パートは、ランダーの開発である。
GLXPで同社が痛感したのは、やはりランダーがなければどうにもならない、ということだった。ただ、ランダーの開発には、ローバーよりも遙かに大きな資金が必要で、求められる技術分野も増える。宇宙での実績がまだ何も無いスタートアップには、やや荷が重いスケールのビジネスになってしまう。
しかし同社はそれに踏み切った。GLXP期間中の2016年に、ランダー開発の構想をスタート。2017年12月、独自の月探査ミッションを公表し、同時に、100億円超の資金調達に成功したことも明らかにした。
ランダーを開発するために、まず足りないのは人材だ。衛星や探査機の開発経験があるエンジニアは、日本にはそもそも余るほどおらず、しかも転職が期待できるのは限定的だろう。そこで同社は、海外から積極的に人材を受け入れ、開発を加速。現在、25カ国以上、200名以上という、インターナショナルな組織に成長した。
同社が開発したシリーズ1ランダーは、宇宙機としては小型であるものの、この規模のものを構想からわずか6年で完成させ、打ち上げに臨むことができたというのは、正直なところ驚きである。途中で計画の変更や遅れなどはあったものの、ここまで辿り着くことができただけでも、大きなマイルストーンだと言える。
もし月面着陸に成功すれば、日本初の快挙。そして、民間による世界初の月面着陸になる可能性も高い。まさに歴史的な偉業である。
とはいえ、1回目から簡単に成功するほど、宇宙は甘い世界ではない。民間初の月面着陸に挑んだイスラエルの「Beresheet」は、周回軌道までは到達できたものの、着陸には失敗。記憶に新しいところでは、日本初の月面着陸を目指した超小型探査機「OMOTENASHI」は、ロケットから分離後のトラブルで通信が途絶し、着陸を断念している。
今回のミッションには、ペイロードとして、JAXA/タカラトミーらが開発した超小型ローバー「SORA-Q」も搭載されており、このランダーが月面に無事着陸したら、日本初の月面ローバーまで実現するというオマケが付く。まずは打ち上げに成功し、ランダーから無事に電波が届くところを見守りたい。