2022年11月29日17時08分 / 提供:マイナビニュース
AWSのサービスは科学的かつ技術的にパフォーマンスを向上
クラウドプラットフォームを使う場合、自分でそのパフォーマンスを設計する必要はなくなる。ノードのパフォーマンス(プロセッサ、メモリ、ストレージ)、ネットワークのパフォーマンス、共有ストレージのパフォーマンスを設計する必要がない。必要な性能が満たされているサービス、プランを選べばよくなり、問題はその料金が予算以内に収まるかどうかということになってくる。
これが可能であるのは、クラウドサービスプロバイダーのエンジニアがパフォーマンス設計を行って実装しているからだ。プロバイダーはコストを抑えながらセキュリティも確保し、その上でパフォーマンスを引き上げるため、常に取り組みを続けている。ユーザーからその努力が見えることはほとんどないが、経営と技術を踏まえた判断があって成り立っている。
Amazon Web Servicesの年次イベント「AWS re:Invent 2022」が11月28日(米国時間)に開幕した。基調講演では、AWSユーティリティコンピューティング担当シニアバイスプレジデントPeter DeSantis氏が、同社が提供するどのようにしてサービスの「パフォーマンスの引き上げ」に取り組んでいるかを説明した。同氏は、クラウドの向こう側で働くエンジニアたちは着実に科学的かつ技術的にパフォーマンスの引き上げに取り組んでいることを紹介した。
一口にパフォーマンスといっても、検討すべき領域はいくつもある。DeSantis氏は次の4つの切り口から、パフォーマンスの引き上げについて説明した。
ハードウェア
ネットワーク
サイエンス
ソフトウェア
本稿では、ハードウェアとネットワークの高速化について取り上げる。
ハードウェアの高速化
クラウドプラットフォームのパフォーマンスの最たる基盤となるのは、ハードウェアの高速化だ。例えば、AWSにおけるハードウェアレベルでのパフォーマンス向上の取り組みとしては、AWS Graviton3プロセッサやAWS Nitro System、そしてこれらを活用して構築されたプラットフォームおよびそのサービスなどがある。
DeSantis氏は基調講演で、これらプロダクトおよびサービスの最新バージョンを発表した。まったく新しい製品や技術を投入するというのではなく、AWSがこれまでに構築してきたこれらハードウェア技術を順当に発展させたというのが今回の発表だ。
ハードウェアに関する基本的な設計はすでに成熟しているように見え、AWSはその技術開発を順当に進めて高速化を実現している。
AWSネットワークプロトコルの適用対象を拡大
現在のインターネットおよびローカルネットワークは、転送プロトコルとしてTCPを活用している。これは多くのケースでよく機能している。AWSはこの部分の高速化にも取り組んできた。
その成果物がSRD (Scalable Reliable Datagram)だ。AWSがデータセンターで活用するネットワークはクラウドプラットフォームを実現するためのネットワークだ。そこには多くのノードが集まって1つの単位を構成ししており、そのまとまりの中で頻繁に通信が行われる。この状況はTCPにとってもうまく機能するが、AWSはこの状況により適した転送プロトコルとしてSRDを開発した。
SRDはAWSが使うようなクラウドプラットフォームでの動作によく適合しており、一定のパスではなく複数のパスを通じてパケットを転送する仕組みを使うなどして、高速な転送を実現している。
転送プロトコル「SRD」自体は新しい技術ではない。AWSは数年前にすでにこの技術を発表している。今回はこのSRDをAWSのほかのサービスに拡張するといった内容が発表された。つまりネットワークについてもハードウェアの進化と同じ戦術が取られている。
AWSが利用するケースでTCPよりも高速なSRDという転送技術は開発済みだ。次のステップとして、この技術の適応範囲を可能な限り広げていくというアプローチを取っていることが説明された。
地道な取り組みの積み重ねがユーザーを助けている
こうしたパフォーマンス向上の取り組みはトランスパレンシーに行われているというのも大きなポイントだ。開発および実施・運用する側は大変かもしれないが、この成果物を利用するユーザーはクラウドプラットフォームの向こう側でこうした改善が行われていることは気にする必要がない。
いつのまにかパフォーマンスが改善していたり、より高いパフォーマンスを提供するサービスが追加されたりしている。ユーザーは何も変えることなく、パフォーマンスの向上を享受することができるのだ。
AWS re:Invent 2022で発表されたパフォーマンスに関する基調講演の内容は、新しい技術の導入はあるものの、画期的な技術やサービスを導入してパフォーマンスを引き上げるというものではなかった。
いずれもこの数年間でAWSが発表済みの技術の延長線上にあるものであり、これらを順当に高速化し、適用する範囲を広げていったという発表だ。
ハードウェアやネットワークは新しい技術の導入によって激的にパフォーマンスが向上するといったことは、そう頻繁には起こらない。大切なのは向き合っている状況をよくモニタリングし、分析し、それを改善する方法を見つけて取り組むことだ。この地道な作業を根気よく続けることが、着実なクラウドプラットフォームのパフォーマンスの向上につながる。
2022年の発表はこうした状況を意識させるものだった。問題を一気に解決する銀の弾丸なるものは基本的に存在しない。計画・実行・確認・改善(PDCA: plan–do–check–act)の積み重ねがクラウドプラットフォームのパフォーマンスの向上につながるのであって、想像以上に堅実な高速化が取り組まれていることを実感させる講演だった。