2022年11月26日13時00分 / 提供:マイナビニュース
●赤髪で日の丸と情熱を表現! すべての批判を自分が受ける覚悟も
中東カタールで開催中のサッカーのW杯で、日本代表が歴史的な勝利をあげた。4度の優勝を誇る強豪ドイツ代表とのグループステージ初戦で、後半にあげた怒涛の連続ゴールで2-1と逆転に成功。世界を驚かす大番狂わせを演じた。劣勢続きだった前半から一転、躍動感と前への推進力を取り戻した日本を縁の下で支えていたのは、大一番を前にして髪の毛を赤色に染めた36歳のDF長友佑都(FC東京)だった。さまざまな立ち居振る舞いを介して熱量を伝え、団結力を呼びかけ、日本代表チームを含めた周囲を巻き込んでいった鉄人の奮闘ぶりを、カタール入り後に残した激アツな言葉とともに振り返る。
頭皮がチクチクと痛む。無理もない。今月に入って2度も髪を染めた。W杯が開催されるカタールへ向けて日本を発つ前に金色に。そして、ドイツ代表とのグループステージ初戦を直前に控えて赤色に。どんなに痛くても、長友佑都は後悔していない。
日本が通算3度目のベスト16へ進出した、前回ロシア大会前にも長友はド派手な金髪姿に変身している。このときは直前の監督交代などで、混乱をきたしていたチームに喝を入れるためだった。そして、4年前の験を担ごうと今回も金髪に染めた。
しかし、金髪は序章にすぎなかった。ドイツ戦前日の22日。赤髪になった長友に誰もが驚かされた。どのような意図が込められていたのか。長友本人が笑顔で明かす。
「まずは日の丸の赤と、あとは僕の情熱とチームのみんなの情熱が燃え盛っている状態を表現しました。チームの何人かにどんな色がいいかと聞いたら、赤という意見がけっこう出たし、僕自身も赤しかないと思っていたので。W杯に対して僕だけでなく、チームのみんなも思いを燃えたぎらせているんだと感じて、これだと思いました」
日本を背負う覚悟と情熱を表現しただけではない。金髪以上に赤髪は目立つ。世間の耳目を、あえて自分自身に向けさせたいという狙いも長友は込めていた。
4度のW杯優勝を誇る強豪ドイツを相手に、日本が世紀の大番狂わせを演じた余韻が色濃く残るハリーファ国際スタジアム内の取材エリア。W杯独特のプレッシャーから若手選手たちを守る手段のひとつが、実は赤髪だったと長友は明かしている。
「ここまで派手なことをやってダメだったら、すべての批判を自分が受けるぐらいの覚悟でやっていましたから。なので若手には本当にのびのびと、何も考えずにプレーしてほしい、という思いも込めていました。かなり頭皮を傷つけましたし、おっさんになってくるときつい部分もありますけど、それでも赤色にしてよかったと思っています」
○■ドイツ戦前に“侍”に例えてチームを鼓舞「強い気持ちで臨もうと」
日本にとって7大会連続7度目のW杯。森保一監督が選んだ26人のメンバーのうち、W杯経験者はわずか7人だった。特に攻撃陣には1人もいない。不安はないのかと問われた森保監督は経験者をリスペクトしながら、自ら選んだメンバーにこう言及した。
「経験のない選手たちの『W杯で成功したい』という野心を持ち、戦ってくれるエネルギーに期待した。伸びてきている経験の浅い選手たちの芽も大切にして戦いたい」
GK川島永嗣とともに4大会連続でW杯代表に選出され、36歳とフィールドプレーヤーでは最年長になった長友もひと役買った。未知の世界となるW杯へ、どのようなマインドで臨めばいいのか。ドイツ戦前のミーティングでは自らマイクを握った。
「侍の例え話をしました。いくら武器を作り、鍛錬して技を磨いても、いざ戦になったときに目の前の相手にビビってしまえば、すべてが無駄になる。サッカーもまったく同じで、戦術的な部分を詰め、技術もみんながそれぞれ磨いてきても、目の前のドイツ選手にビビっていたら戦術も技術も絶対に生きない。なので、目の前の相手を何がなんでも潰すぐらいの、そのぐらいの強い気持ちでみんな臨もうと」
過去3度のW杯から、日本が世界を相手に勝ち抜いていくために最も大切なキーワードも見つけた。それは「団結力」となる。選手一人ひとりの心を結びつけるために、大会が近づくとともにイタリア語の「Coraggio(コラッジョ)」を意図的に連発した。
日本語で「勇気」や「勇敢さ」を意味する「Coraggio」を、ミーティングを含めて、機会があるたびに絶叫した。ドイツ戦後の取材エリア。逆転ゴールを決めたFW浅野拓磨が取材に応じているところへ、長友は「Coraggio」と大声で近づいてきた。
暑苦しいと思われてもかまわない。自身の姿を見れば条件反射的に「Coraggio」を、そして一致団結してW杯を戦う尊さを連想してくれればそれでいい。
カタール入り後の練習でも率先してランニングの先頭を走り、すべてのメニューで誰よりも大声を張り上げてドーハの空へ響かせた。チームで最年少の21歳、MF久保建英は長友が放つ存在感を問われてこんな言葉を返している。
「どんな練習でも全力でみんなを鼓舞してくれる。ああやって盛り上げてくれる人がいることで、より質の高い練習ができている、というのはあると思う」
●心をひとつにして戦った日本「スタジアムの雰囲気も日本寄りに」
ドイツ戦では左サイドバックとして先発した。しかし、攻守両面で圧倒され続け、前半33分にはPKを決められて先制された。迎えたハーフタイム。森保監督が戦術変更を告げたロッカールームに、長友やキャプテンのDF吉田麻也の言葉が響きわたった。
「これ以上は失点しない。0-1のままなら、絶対に何かが起こるから!」
依然として1点をリードされていた後半12分に、長友はドリブラーの三笘薫との交代を告げられた。日本の攻撃力をさらに高めるための森保監督の采配。三笘や同時に投入された浅野にエールを送り、戻ったベンチで人知れず心を震わせている。
「ベンチの雰囲気が本当に最高で。誰一人として勝利をあきらめていないし、チームの和というものを感じました。選手ならば当然、試合に出られなければ悔しい思いも抱くんだけど、それを持ちながらもチームのために一緒に戦う。嫉妬で味方の足を引っ張るのではなく、いま何をすべきかを一人ひとりが考えていたので」
長友が求める団結力が目の前にあった。長友は対照的な光景としてドイツのベンチを、日本の戦いが変えた光景としてハリーファ国際スタジアムのスタンドをあげた。
「ドイツ代表のベンチと日本のベンチは、雰囲気がまったく違っていましたよね。心をひとつにして戦っている姿が見ている人にも感動を与えたからか、スタジアムの雰囲気もどんどん日本寄りになっていった。日本のサポーターのみなさんも大勢来てくださっていましたけど、外国人の方々も日本を応援し始めた。人間は心で動いていると考えたときに、訴えるものがあったんですよね。日本は本当にいいチームだと。みんなで戦っていると。ひとつになった心が、見ている方々に感動を与えたんだと」
森保監督は攻撃的な選手をさらに投入する。長友が可愛がる後輩の一人、MF堂安律がピッチに入ったのは後半26分。長友から「絶対にヒーローになってこい」と背中を押された堂安は、わずか4分後に同点に追いつく起死回生のゴールを決めた。
8分後の38分には浅野が目の覚めるような勝ち越しゴールを決める。堂安と浅野、そして堂安のゴールにつながるプレーを演じたMF南野拓実の3人は、ベンチで声を張り上げながら「1点差のままなら絶対にいける」と異口同音に語り合っていた。
ベンチを含めた全員による、もっといえばスタジアム全体を巻き込んだ熱量をほとばしらせて手にした勝利。長友は「ちょっと痺れました」と感無量の表情を浮かべた。
「ベンチで喜ぶどころか、ちょっと倒れそうになっちゃって。血がのぼりすぎて、マジでクラクラしていました。そのぐらいに格別だし、いままでのW杯で一番うれしい勝利ですよ。それぐらい大きなことを成し遂げた。初戦の大事さというのは僕が誰よりもわかっているから、何がなんでもこの試合は勝ちたかった。みんなに熱量があって、みんなで一緒に戦った。感動するレベルでしたね。チームがひとつになる、みんなの心をひとつに繋げることが大事と言ってきたのはこれなんですよ。いやぁ、最高のチームだわ」
○■次戦は27日コスタリカ戦「もう一度引き締めたい」
27日にはコスタリカ戦に挑む。過去6度にわたって日本が挑んできたW杯の軌跡を振り返れば、グループステージ初戦で勝ち点を獲得した02年の日韓共催大会、10年の南アフリカ大会、そして18年の前回ロシア大会はすべて決勝トーナメント進出を果たしている。
確率100%の軌道に乗っただけではない。W杯優勝経験チームからは3度目の対戦で、先制を許した試合では9戦目にして、ともに初めて勝利をもぎ取った。しかし、今大会はまだ何も成し遂げていない。一夜明けた24日には、長友はこんな言葉を残している。
「大事なのは勝ったからといって油断せずに、気持ちを切り替えなきゃいけないところですね。本当に素晴らしい勝利だったと思いますけど、次で負けてしまうと意味がなくなってしまうので。なので、もう一度引き締めたいと思います」
アメリカW杯出場を逃した29年前のアジア最終戦は、地名から「ドーハの悲劇」と命名された。一転して日本が放つ真っ赤な熱量が大国ドイツをも飲み込み、新たな歴史へと日本を導こうとしている。熱量の発信源をたどれば、赤髪姿の長友に行き着く。
「これで負けていたら『長友、調子に乗って』と相当な批判を食らっていましたよね。相当大きなリスクというか賭けでしたけど、やってきたことは間違っていなかった。自分を褒めるわけではないけれども、本当に上手くいっていますよね」
こう語った長友によれば、応援のためにドーハ入りしている夫人でタレントの平愛梨も「髪をちょっと赤っぽくしています」という。周囲を次々と巻き込み、無尽蔵でポジティブなエネルギーを共有しながら、長友の鉄人伝説はさらに紡がれていく。