2022年11月25日18時41分 / 提供:マイナビニュース
●CineBench / PCMark / Procyon / Stable Diffusion / POV-Ray / TMPGEnc / 3DMark
速報版をお届けしてからだいぶ時間が経ってしまったが、Ryzen 7000シリーズの完全版レビューをお届けしたい。といっても、実際はRyzen 9 7900Xのデータを加味しただけである。SandraとかRMMAなどのDeep Diveに関しては、こちらの冒頭でも書いたように、Raptor LakeベースのCore i9-13900Kと併せてお届けする事になるので、もう少々お待ちいただきたい。
○評価機材と余談
評価機材と言っても表1に示すように前回と全く同じで、ここにRyzen 9 7900Xを追加しただけである。OS VersionもDriverも全て同じである。Ryzen 9 7900Xも特に問題なく認識された(Photo01,02)。
ちなみにグラフ中の表記は
i9-12900K:Core i9-12900K
R9 5950X :Ryzen 9 5950X
R5 7600X :Ryzen 9 7600X
R7 7700X :Ryzen 9 7700X
R9 7900X :Ryzen 9 7900X
R9 7950X :Ryzen 9 7950X
となっている。また解像度表記は何時もの通り
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel
とさせていただく。なおベンチマーク入手先のURLやテスト設定などは完全に前回と同じなので、今回は割愛する。
これで終わるのもアレなので、ちょっとだけ余談を。そもそも今回のRyzen 7000シリーズでは、なぜか7800Xがスキップされた。「何で?」を直接David McAfee氏(AMD CVP&GM, Client Channel Business)に伺ったところ、「そもそもこの話はRyzen 3000シリーズに遡る。Ryzen 7 3800Xは、TDP 105Wの製品だった。で、Ryzen 7 3700Xは65Wだった。実を言えばRyzen 7 3700Xは当初X無しのRyzen 7 3700として発売予定だったんだが、あまりにも性能が高いのでXを付けた格好だ。これが次のRyzen 5000シリーズにも引き継がれ、Ryzen 7 5700XはTDP 65Wで提供される一方、Ryzen 7 5800XはTDP 105Wで提供された。つまりXが付きながら65Wの製品と105Wの製品が混在していた訳だ。今回Ryzen 7000シリーズの発表にあたり、我々は名前を整理することにした。Ryzen 7 7700Xは、Core i7-12700Kとかi7-13700Kが競合となる。これに合わせた格好だ。また今後TDP 65Wの製品を発売する場合は、そこにXは付かない事になると思う」という返事が来た。要するに省かれたのはRyzen 7 7800Xというよりも、TDP 65WのRyzen 7 7700Xであり、TDPが105Wになるにあたり競合と数字を合わせるべくRyzen 7 7700Xになったという訳だ。その意味では、これまで800X番台が担っていた「シングルダイ最速」の座は、今後は700X番台に切り替わった、という格好である。
○◆CineBench R23(グラフ1)
CineBench R23
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
Ryzen 9 7900XのMulti Thread性能は、CineBenchで言えばCore i9-12900Kと同等レベルであり、Ryzen 9 5950Xと比較しても負けていない(そしてSingle Thread性能ではRyzen 9 5950Xを大きく引き離す)というあたりは流石というべきか。予想は出来た結果だが、悪くないと思う。
○◆PCMark 10 v2.1.2563(グラフ2~7)
PCMark 10 v2.1.2563
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
こちらも概ね順当と言うべきか。Overall(グラフ2)を見ると、ほぼ製品のポジショニング通りで、Core i9-12900Kと互角以上の性能になっている。Test Group~Contents Creation(グラフ3~6)もほぼ想定通り。Application Score(グラフ7)も悪くない。後で出てくるが消費電力はその割に低く、少なくともRyzen 9 7950Xよりはまともと言うか、現実的な消費電力に収まっている。それでいて価格も安い訳で、普通に高速なマシンが欲しい、というのであればRyzen 9 7900Xあたりが一番現実的かもしれない。
○◆Procyon v2.1.459(グラフ8~11)
Procyon v2.1.459
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
Overall(グラフ8)を見ると、概ねRyzen 9 7950Xに若干及ばない程度で、悪い結果ではない。Detailを見ると、なぜかOffice Productivity(グラフ11)のWordが妙に数字が悪い(その代わりExcelは最高速、というのも妙である)が、大きな問題になるほどの違いでもない。概して言えばOverallの評価そのままという感じだ。
○◆POV-Ray V3.8.2 Beta2(グラフ12)
POV-Ray V3.8.2 Beta2
Persistence of Vision Raytracer Pty. Ltd
http://www.povray.org/
こちらの結果はCineBenchに近い結果になる。厳密に言えばAll CPUの結果でRyzen 9 7900Xのスコアが微妙にCore i9-12900Kに及ばないのは、動作するバイナリの違いのためかと思うが、傾向としてはほぼ同じと見て良いかと思う。One CPUではRyzen 9 7900XがRyzen系列の中で最高速、というのもどうかと思うが。
○◆Stable Diffusion UI(グラフ13)
Stable Diffusion UI
cmdr2
https://github.com/cmdr2/stable-diffusion-ui
こちらで利用したバージョンは古いので、Raptor Lakeのベンチの際に利用したv2.28とは傾向が大きく異なるので注意。こちらは所要時間だから短いほど高速な訳だが、御覧の通りRyzen 9 7900XのスコアはほぼCPU性能を反映していると見て良いかと思う。
○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25(グラフ14)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.23.25
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
H.264からHEVCへのトランスコード(4K)の処理性能だが、御覧の通りRyzen 9 7900XはRyzen 9 7950Xに次いで2番目であり、Core i9-12900Kを上回っているあたり、きちんと性能が出ている事は疑う余地はない。消費電力も考えると、かなりバランスの良いスコアだと思う。
○◆3DMark v2.22.7359(グラフ15~18)
3DMark v2.22.7359
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
当然ながらCPU差の影響が少ない3DMarkで、大きな違いが見いだせるかというと難しく、実際Ryzen 9 7900XのスコアはRyzen 9 7950Xと大きな差は見いだせない(グラフ15)。強いて言えば一番差が出やすいPhysics/CPU Test(グラフ17)の結果を見るとそれなりに差があり、ここでは概ねCore i9-12900Kと同等程度(Timespyではちょっと負けてる)だが、この結果が実際のゲームに反映される可能性が少ない事を考えると、概ね大差なしとしてしまって良いのではないかと思う。
●ゲームその1:Borderlands 3 / F1 22 / Far Cry 6 / Metro Exodus
○◆Borderlands 3(グラフ19~25)
Borderlands 3
2K Games
https://borderlands.com/ja-JP/
平均フレームレート(グラフ19)を見ると、Ryzen 9 7900Xは2Kで120fps超えで、ここではRyzen 9 5950XやCore i9-12900Kよりも良い成績であるが、その先はほぼ同一というのはこれまでも見て来た結果そのままである。フレームレート変動の2K(グラフ22)を見ても、Ryzen 7000シリーズで一塊になっている中に綺麗に入っている格好だ。
○◆F1 22(グラフ26~32)
F1 22
EA Sports
https://www.ea.com/ja-jp/games/f1/f1-22
何故かこれのみ、Ryzen 9 7900Xの性能がすこぶる悪い(グラフ26)。ちょっと判り難いがRyzen 7 7700Xとほぼ重なっており、これは最大/最小フレームレート(グラフ27・28)やフレームレート変動(グラフ29~32)でも確認できる。何でRyzen 7 7700X/Ryzen 9 7900Xのみピンポイントで性能が低いのか、は残念ながら不明である。
○◆Far Cry 6(グラフ33~39)
Far Cry 6
Ubisoft Entertainment
https://www.ubisoft.com/ja-jp/game/far-cry/far-cry-6
Far Cry 6ではRyzen 9 7900XのフレームレートはほぼRyzen 9 7950Xに等しい程度(グラフ33~35)で、フレームレート変動(グラフ36~39)でもほぼグラフは重なっている。Core i9-12900Kには及ばないとは言え、Ryzen 7000シリーズの中では優秀として良いと思う。
○◆Metro Exodus PC:Enhanced Edition(グラフ40~46)
Metro Exodus PC:Enhanced Edition
4A Games
https://www.metrothegame.com/
こちらはフレームレート(グラフ40~42)とフレームレート変動(グラフ43~46)を見ても他と差を見出しにくいというか、同等という以上の結果ではない。
●ゲームその2:Division 2 / Tomb Raider / Watch Dogs
○◆Tom Clancy's The Division 2(グラフ47~53)
Tom Clancy's The Division 2
Ubisoft
https://www.ubisoft.co.jp/division2/
平均フレームレート(グラフ47)で見る限りは、Ryzen 9 7900Xの2Kにおけるフレームレートは比較的高め(微妙にRyzen 7 7700Xには届かない程度)で、全体としてみれば高速な
部類に入ると思う(2.5K以上はもうそもそも製品毎の差がない)。2Kにおけるフレームレート変動(グラフ50)を見ると、300fps以上でブン廻っている冒頭10秒位では差が多少あるが、差があるのはその程度。その先はほぼRyzen 7 7700Xと同等といったところで、Gaming用にも十分な性能、として良い様に思える。
○◆Shadow of the Tomb Raider(グラフ54~60)
Shadow of the Tomb Raider
SQUARE ENIX
https://tombraider.square-enix-games.com/en-us
こちらも差があるのは2Kのみという感じである。平均フレームレート(グラフ54)を見るとRyzen 7 7900XはRyzen 9 7950Xにはやや及ばないが、その他のRyzen 7000シリーズとほぼ同じという感じで、性能的にはほぼ横並びである。2Kのフレームレート変動(グラフ57)を見ると、明確に差があるのは80~100秒の描画負荷がかなり軽いところだけである。面白いのはRyzen 5 7600X/Ryzen 7 7700Xは120秒~の部分でややフレームレートが下がっているが、Ryzen 7 7900Xはここでの落ち込みが無い。結局平均してみると同程度、という結果なのは面白い。
○◆Watch Dogs:Legion(グラフ61~67)
Watch Dogs:Legion
Ubisoft
https://www.ubisoft.co.jp/wdlegion/
差が大きく出るのは2Kだけ、というのはおなじみであるが、その2Kの平均フレームレート(グラフ61)を見ると、Ryzen 9 7900XはRyzen 9 7950XとかRyzen 7 7700Xと同じ程度の性能になっている。フレームレート変動(グラフ64)を見てもこれは明らかである。
●RMMT 1.1 / 消費電力測定 / 考察
○◆RMMT 1.1(グラフ68~69)
RMMT 1.1
Rightmark.org
http://cpu.rightmark.org/products/rmma.shtml
RMMTであるが、Ryzen 9 7900Xの傾向はRyzen 9 7950Xと非常に似た傾向を示した。つまり5 Threadからのアクセスの時が一番性能が良い、というものだ。なんでこんなことに? という話は流石に不明だが、ただ前回のベンチマーク結果がおかしいわけではなく、2ダイ構成のRyzen 7000シリーズに共通の特性であることが再確認できたわけだ。
これは要するにRyzen 7000シリーズで使われるIODの特性なのであろう。それがInfinity Fabricに起因するのか、Memory Controllerに起因するのかは断言できないが、シングルダイのRyzen 5 7600X/Ryzen 7 7700Xと3 Thread目以降の傾向が明白に異なるあたりは、どちらかというと前者の公算が高い様に思う。
○◆消費電力測定(グラフ70~76)
最後に消費電力測定を。テスト項目は以前と一緒なので説明は割愛するとして、細かく結果を見てみたい。
SandraのDhrystone/WhetstoneのRyzen 9 7900Xの消費電力は概ねCore i9-12900Kと同じ程度で、Ryzen 9 7950Xよりは50W近く下がっている。では効率的か? と言われるとそれはまた別の話で、表2にRyzen 9 7900Xも加えたDhrystone/Whetstoneの実行効率を示すが、悪くはないもののRyzen 9 7950Xの方が良好である。このあたりは、やはりコア数を多くして動作周波数を控えめにした方が効率が良い、という実例なのかもしれない。
ただそうは言ってもCineBenchでもTMPGEncでも、軒並み50W程低いというのはやはり省電力を考えると魅力的である。もっともそれを言い始めればRyzen 7 7700Xの方がより低い訳ではあるが、Gamingはともかくエンコードを考えるとデュアルダイの性能が圧倒的なのは事実で、このあたりどこでバランスを取るかという議論になる。まぁただこの消費電力であれば、少なくとも360mmラジエターは不要な感じだ。120mmでは不足かもしれないが、240mmで何とか収まりそうではある。
○考察
ということで速報版に間に合わなかったRyzen 9 7900Xの成績を補足させていただいた。こちらの最後にも書いたが、Ryzen 9 7900Xの推奨小売価格は\92,500。原稿執筆時点でのAmazonの価格は\93,434。ちなみにRyzen 9 9750Xは\118,990で、どちらも推奨小売価格より1,000円ほど高いが、まぁその程度である。今回の性能差で2万の価格差と考えると、確かにRyzen 9 7900Xの方がお買い得感は高いかもしれない。実際エンコードをメインにするのでなければ、Ryzen 9 7900Xで十分という感じだ。
問題は競合であって、本来の敵はAlder LakeではなくRaptor Lakeである。こちらのレポートも近日中にお届けするので、お待ちいただきたい。