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北大など、星間分子雲中の氷微粒子上でOHラジカルが動き始める温度を確認

2022年11月25日15時10分 / 提供:マイナビニュース


北海道大学(北大)と理化学研究所(理研)は11月24日、新開発の手法を用いて、星間分子雲中に存在する極低温の氷微粒子の表面上で、化学反応を起こしやすい化学種の「OHラジカル」が動き始める温度を調べることに成功し、その温度が-237℃であることを発表した。

同成果は、北大 低温科学研究所の宮崎彩音大学院生、同・渡部直樹教授、理研 仁科加速器科学研究センターの中井陽一専任研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

星は、最低温度-263℃という極めて低温の星間分子雲から誕生する。星間分子雲は極低温のため化学反応が起こりにくい環境にもかかわらず、有機分子を含む多種多様な化学種が存在することが、これまでの観測により解明されてきた。

こうした化学種は原子や単純な分子から複雑化(分子進化)してできたもので、星間分子雲に浮遊している氷微粒子(氷星間塵)が重要な役割を果たしていることが知られている。氷微粒子は、ケイ酸塩鉱物や炭素質物質の周囲を主に水分子(H2O)からなる氷が覆った、0.0001mm程度の微粒子とされている。

氷微粒子上での化学反応の鍵を握るのは、ラジカルと呼ばれる非常に化学反応を起こしやすい化学種とされており、中でも、H2Oから水素原子(H)が1つ取れたOHラジカルは氷微粒子上に大量に存在し、さまざまな分子の生成に大きな役割を果たすと考えられている。

OHラジカルは氷微粒子の表面に比較的強く結合しているため、氷微粒子の温度が上がり、それが表面を動き回る温度になってはじめて分子進化は活性化する。つまり、氷微粒子上での分子進化について理解を深めるためには、OHラジカルが動き始める温度を実験により決定することが重要と考えられてきたのだが、氷表面に存在するOHをH2Oと区別して感度良く観測することは困難で、これまでその情報は得られていなかったという。

そこで研究チームは今回、新たな観測手法の開発を行うことにしたという。


具体的には、北大 低温科学研究所で独自に開発された真空実験装置内に宇宙に浮遊する極低温氷微粒子を再現し、紫外光を照射して一部の水分子をOHラジカルと水素分子に分解する(H2O→OH+H)ことで、氷表面にOHラジカルを生成させることにしたとする。そして、その生成されたOHラジカルをレーザー光で氷表面から引き放し、放出されたOHラジカルを別のレーザーを用いて分析検出することで、氷表面に存在するOHラジカルの観察が行われた。

OHラジカルが氷表面を動き始める温度に達すると、OH同士が化学反応を起こす(OH+OH→H2O2(過酸化水素))ため、OHラジカルの数が減少する。この温度とOHラジカル数の関係を調べることで、氷表面に存在するOHラジカルが動き出すのに必要なエネルギーが測定された。

また、実験から決定されたOHラジカルが動き始めるのに必要なエネルギーから、さまざまな温度条件でOHラジカルが氷表面を動き回る速さが算出された。研究チームによると、氷微粒子上での化学進化は10万年というタイムスケールで考える必要があるとのことで、10万年の間に氷星間塵の表面をくまなく動き回れる温度が見積もられたという。

その結果、極低温の宇宙環境に存在する氷微粒子表面では、およそ-237℃を超えるとOHラジカルの動きが活発化し分子進化が促進することが判明したとする。星間分子雲における星の生成が進むにつれて、その環境の温度は徐々に上昇していく。これは、-263℃程度の極低温で氷表面に蓄積されていたOHラジカルが温度上昇に伴い動き始め、活発な分子進化が起きることを意味するという。研究チームでは、今回の研究で決定された温度を用いて化学進化のシミュレーションを行うことで、OHラジカルの関わる分子進化過程をより正確に理解できることになると説明している。

なお、星間分子雲の氷微粒子表面では、OHラジカルだけでなく、さまざまなラジカル種も分子生成に関わっているが、OH以外のラジカル種が氷微粒子の表面でどのように振る舞うかは、まだ詳しくはわかっていないという。そのため、これらの化学種にも同様の手法を適用し、氷表面での動きやすさを調べることで、宇宙の氷微粒子表面における分子進化の全容に迫ることが期待されるとしている。

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