2022年11月14日17時56分 / 提供:マイナビニュース
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大阪大学(阪大)、国立がん研究センター(国がん)、慶應義塾大学(慶大)、理化学研究所(理研)の4者は11月11日、ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)という指標を用いて「遺伝的がんリスク体質」を定量化し、がんのさまざまな特性に与える影響を網羅的に調査した結果、遺伝的がんリスク体質を持つ人は、がんになりやすいだけでなく、若い年齢でがんを発症する傾向にあり、がんの特徴である体細胞異常の蓄積が少ないことが明らかになったことを発表した。
同成果は、阪大大学院 医学系研究科(遺伝統計学)の難波真一大学院生、同・岡田随象教授(理研 生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー/東京大学大学院 医学系研究科 遺伝情報学 教授兼任)、国立がん研究センター研究所(分子腫瘍学分野)の斎藤優樹特任研究員(慶大 医学部 内科学(消化器)助教兼任)、同・片岡圭亮分野長(慶大 医学部 内科学(血液)教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、がんに関する全般を扱う学術誌「Cancer Research」に掲載された。
ゲノム全体で、がんへのかかりやすさに影響を与える数百~数千個のバリアント(ヒトゲノム配列上に存在する数百万か所の個人差)をまとめて評価することで、遺伝的がんリスク体質を反映する指標にPRSがある。このPRSを計算して遺伝的がんリスク体質の人を発見することで、がんの早期発見につなげることができると期待されている。
しかし、PRSに反映される遺伝的がんリスク体質が体細胞異常や診断時年齢といったがんの特性にどのように影響を与えるかはわかっておらず、PRSを医療現場で活用するための障害となっていた。これまでは、特定の種類のがんや特定のドライバー変異だけに注目した研究がわずかに存在するだけであり、遺伝的がんリスクが多様ながんの特性に与える影響を網羅的に評価する必要があったという。
そこで研究チームは今回、さまざまな種類のがんに対して複数の計算手法を用いてPRSを構築することにしたとする。そして大規模ゲノムデータ(33万5048人)を用いて、PRSがどれだけ精度良くがんの発症を予測できるかが評価され、遺伝的がんリスクを強く反映する高精度なPRSが選定された。
高精度なPRSは7種類のがん(乳がん、子宮体がん、前立腺がん、膠芽腫、卵巣がん、大腸直腸がん、食道がん)に対して選定され、詳細ながんの情報が存在するゲノムデータ(2924人)についてPRSの値を計算することで、遺伝的がんリスクががんの特性に与える影響が網羅的に評価された。
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その結果、どの種類のがんであってもPRSが高いほど、がんの発症年齢が若いことが判明。これは、遺伝的がんリスク体質の人は若くしてがんになりやすいことが示されたと研究チームでは説明しているほか、PRSが高いほど、体細胞変異の蓄積(総体細胞変異数)が少ないことが示されたとする。年齢とともに体細胞変異の蓄積が増えることから、若い年齢からがんになりやすいことと矛盾しない結果としている。
さらに、PRSが高いほどコピー数異常の数や程度も小さいことも確認。この傾向は、メカニズムが異なる3種類のコピー数異常の指標(染色体長腕・短腕におよぶコピー数異常、限局性のコピー数異常、ヘテロ接合性消失が起きたゲノム領域の割合)で共通して見られたという。
がんが形成される過程の後期はゲノムが不安定になりコピー数異常が増加することが明らかにされている。この結果は、遺伝的がんリスク体質の人は、体細胞変異やコピー数異常の蓄積が多くなる前にがんを発症していることを示唆していると研究チームでは指摘している一方、ドライバー変異の数や個々のドライバー変異の有無については、PRSとの有意な関連は見られなかったともしており、これらの結果は、遺伝的がんリスク体質であるからといって、必ずしもがんの発症に必要なドライバー変異が少なくなるわけではないことを示唆しているとする。
PRSが診断時年齢や体細胞異常(体細胞変異、コピー数異常)といったがんの特性に与える影響は、どの種類のがんでも同程度の強さだったという。そのため、遺伝的がんリスク体質に関連するバリアントはがんの種類ごとに異なるが、同体質の特性はがんの種類によらず共通であると考えられるとした。
今後、研究チームでは、遺伝的がんリスク体質に対する理解をさらに深めることで、遺伝的がんリスク体質を持つ人のがん予防や個別化医療の実現に貢献することが考えられるとしている。