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東大、非磁性/強磁性の半導体の二層ヘテロ接合で新規の電子伝導現象を発見

2022年11月11日19時26分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)は11月10日、すべて半導体でできた非磁性半導体/強磁性半導体からなる二層ヘテロ接合を作製したところ、新しい電子伝導現象を発見したと発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科 電気系工学専攻の瀧口耕介大学院生(研究当時)、同・レ・デゥック・アイン准教授、同・白谷治憲大学院生、同・田中雅明教授、同・福澤亮太大学院生(研究当時)、東大 生産技術研究所の高橋琢二教授、福島工業高等専門学校の千葉貴裕講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

スピントロニクスや物性物理学において重要な研究対象の1つに、物質中での「対称性の破れ」がある。たとえば磁化は、物質中を流れる電子の「時間反転対称性」を破り、その特性に大きな影響を及ぼす。また「空間反転対称性」の破れによって、電子スピンの向きを分離させられることもわかっている。これを用いれば、たとえば上向きのスピンのみを輸送するといったことも可能になるとされている。

このように、対称性の破れはスピンや磁性と密接に関連しており、対称性の破れた物質中でどのように電子伝導が生じているかを明らかにすることは、基礎科学および応用上において極めて重要と考えられている。

対称性が関わる現象の1つに、「奇関数磁気抵抗効果」がある。通常、物質に磁場を印加した時の電気抵抗の変化は、磁場の向きを反転させても同じ(磁場に対する偶関数)になるが、時間反転対称性が破られている場合にはその限りではなく、磁場の向きを反転させても同じふるまいをしない場合があり、このことを奇関数磁気抵抗効果と呼ぶ。同効果は磁気センサなどへの応用が期待できるものの、磁気抵抗効果の大きさが極めて小さい(0.1~1%程度以下)という解決すべき課題があった。

そこで研究チームは今回、分子線エピタキシー法を用いた結晶成長により、すべてが半導体でできた非磁性半導体/強磁性半導体からなる二層の単結晶ヘテロ接合(異なる物質を積層した構造)を作製し、詳しく調べ得ることにしたという。


その結果、新しい電子伝導現象を発見することに至ったという。同現象での、磁場を反転させた場合の電気抵抗の変化(奇関数磁気抵抗効果)の大きさは最大27%で、これまでの記録を10倍以上も更新したとする。

今回作製された構造は、非磁性半導体であるInAs薄膜(厚さ15nm)と、アンチモン化ガリウムに鉄を添加した強磁性半導体「GaFeSb」薄膜(15nm)を積層した二層のヘテロ接合だ。同構造においては、伝導電子はInAs層に存在し、抵抗率の違いによりInAs層のみに電流が流れる。そして、GaFeSb層との界面において量子力学的な結合が磁化と電流の間に生じることにより、時間反転対称性の破れが生じる。

一方でこのヘテロ接合中では、側面付近の静電場が作るポテンシャルによって、部分的に電子が一次元のエッジチャネルに流れることが知られており、これが空間反転対称性の破れを引き起こす。このような2つの対称性が同時に破れていることによって、大きな奇関数磁気抵抗効果が生じることになるとした。

なお、上述の磁気的な結合と側面付近の静電場が作るポテンシャルは、どちらも電圧印加によって変調可能であるため、ゲート電圧という外場で奇関数磁気抵抗効果を変化させることにも成功したという。

今回の研究は、物質中の特異な対称性の破れによって、大きな奇関数磁気抵抗効果という物理現象が引き起こされたという点で非常に大きなインパクトがあるといえるとする。物質の対称性は、物性や機能を決める最も基本的な要因であり、それに起因した物理現象の開拓は学問的にも応用的にも広い分野で意義があると考えられるとした。

なお、研究チームでは今回のヘテロ接合にとどまらず、同様の対称性を持つほかの物質群においても、このような現象が生じ得ると考えているという。今回の研究を発展させることで、さらに大きく実用的な磁気抵抗現象が確認されれば、次世代のスピントロニクス・デバイスや磁気センサなど広範な応用が期待されるとしている。

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