2022年11月10日14時45分 / 提供:マイナビニュース
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東京大学(東大)は11月9日、ガリウム・バナジウム・セレンから成る強磁性絶縁体「GaV4Se8」において、固体中のスピンが作る渦構造の「磁気スキルミオン」によって熱流が曲げられる「トポロジカル熱ホール効果」の観測に成功したと発表した。
同成果は、東大 物性研究所の赤澤仁寿大学院生(研究当時)、同・山下穣准教授、韓国・Korea大学のHyun-Yong Lee准教授、東大 新領域創成科学研究科 物質系専攻の徳永祐介准教授、同・有馬孝尚教授、韓国・Sungkyunkwan大学のJung Hoon Han教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する物理とその関連分野を扱う学際的なオープンアクセスジャーナル「Physical Review Research」に掲載された。
電子の波動関数に直接作用し、固体の外から加える電場・磁場よりもはるかに大きな効果を物性にもたらすことから、固体中のスピン構造などが作る創発磁場の効果に注目が集まっている。その最たる例が、磁気スキルミオンであり、磁気スキルミオンでは数Tから数百Tという大きな創発磁場を作ることが確認されており、それに加えてトポロジーに保護された安定な渦構造のため、デバイスへの応用可能性も検討されている。
この磁気スキルミオンが生み出す創発磁場は、外部から磁場を印加したときと同じように金属中を流れる電子に作用し、ローレンツ力によるホール効果によって電子を曲げることが知られていたが、電子が流れない絶縁体では、どのような影響があるのかは不明だったという。
そこで研究チームは今回、磁気スキルミオンが発現するGaV4Se8における熱輸送特性を詳しく調べることにしたとする。
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調査の結果、磁気スキルミオンが発現する温度-磁場領域だけで、大きな熱ホール効果が観測されたとするほか、室温からの冷却途中の構造相転移温度で磁場を印加することで、試料中に形成される磁気スキルミオンの領域が広くなり、それによって熱ホール信号も大きくなることも判明したとする。
さらに、この磁気スキルミオン中の熱ホール効果が理論的に詳細に解析されたところ、スピンの波が熱を運ぶマグノン励起が磁気スキルミオンの生み出す創発磁場によって曲げられる「トポロジカル熱ホール効果」によって熱ホール効果が生じていることが明らかにされたともしている。
なお、今回の研究によって、電気の流れない絶縁体で、電荷を持たないマグノン流にも磁気スキルミオンの創発磁場が作用することが判明したことについて、研究チームでは、固体中のスピン構造が生み出す創発磁場の理解と応用を、大きく進展させる結果としている。