2022年11月10日08時03分 / 提供:マイナビニュース
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2022年10月26日、産業技術総合研究所(産総研)は、わずか0.5μLの水滴でもスムーズに滑落する透明皮膜の開発に成功したと発表した。では、この透明皮膜はどのようなものなのか。また、この皮膜によってどのようなことが期待されるのか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
小さな水滴でも滑落する透明皮膜とは?
産総研の極限機能材料研究部門材料表界面グループの中村聡特別研究員、穂積篤研究グループ長は、小さな水滴も滑落する透明皮膜の開発に成功したという。では、なぜ中村研究員らは、この研究を手掛けているのだろうか。
まず、親水性を付与する表面処理法を施した基材表面は、曇りにくく汚れを落としやすくする性質があるため、自動車や建材用の窓ガラスなどに用いられている。しかしその一方で、親水性が高いために水分子との相互作用が強く、水滴が基材表面を滑落しにくくなり、基材表面に長くとどまりやすくなる。その結果、水垢やカビ、不快な臭いの発生の原因となることが課題だという。
これを受け研究チームは、これらの課題を解決すべく新しい表面処理技術を開発してきた。市販で入手可能な、両端に-Si(OR)3基が付いた双頭型のシランカップリング剤とテトラアルコキシシランを混合して前駆溶液を調製。この溶液を塗布したガラスなどの各種基材を高速回転させて皮膜を形成する「スピンコート」を実施し、加熱・乾燥させると、膜厚が300nm程度の透明な皮膜が得られたという。さらに、この皮膜をアルカリや酸溶液に所定時間浸漬すると、親水性がさらに高まり、水滴の滑落性も大きく向上したという。
これにより、わずか0.5μLの微量な水滴でさえスムーズに滑落する透明皮膜の開発につながったのだ。
なお、アルカリ処理を施した皮膜の上を、微量の水滴(0.5μL)が滑落していく様子の動画も公表されているので、ぜひご覧いただきたい。
いかがだっただろうか。今回開発した透明皮膜は、大気中に放置すると、浮遊している有機物の付着によって親水性が低下するものの、水で軽く洗浄するだけで親水性が速やかに回復し、優れた防汚性も示したという。今後産総研は、企業に連携を呼びかけ、水になじみやすい性質と水滴が流れ落ちやすい性質を兼ね備えた皮膜の機能強化を図り、3年以内の実用化を目指していくという。
齊田興哉 さいだともや 2004年東北大学大学院工学研究科を修了、工学博士。同年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、2機の人工衛星プロジェクトチームに配属。2012年日本総合研究所に入社。官公庁、企業向けの宇宙ビジネスのコンサルティングに従事。 現在は、コンサルティングと情報発信に注力。書籍に「宇宙ビジネス第三の波」、「図解入門業界研究 最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ~くわかる本」など。テレビ、新聞、Webサイト、セミナー・講演も多数。 この著者の記事一覧はこちら
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