2022年11月05日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●「人に期待せず、すべてを受け止める」自身と重なった主人公役
数々の作品で独特の存在感を放ち、見る者を魅了する稲垣吾郎。11月4日に公開を迎えた映画『窓辺にて』では、「ここまで役作りをしない役はないのではないか」と言うほど、自然体で主人公を演じたという。稲垣にインタビューし、役と重なる自身の人生観や、新しい事務所で新たな一歩を踏み出してから5年経った今の気持ちを聞いた。
本作は、『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉監督によるオリジナル作品で、創作と恋愛を軸に描く大人のラブストーリー。妻の浮気を知るも何も感じない自分に悩むフリーライター・市川茂巳を稲垣が演じ、茂巳の妻・紗衣を中村ゆり、高校生作家・久保留亜役を玉城ティナが演じた。
稲垣は「今泉監督の作品はすごく好きで、以前から興味ありました」と言い、自分も参加したいという思いがあったと明かす。
「きっと自然に今泉さんの世界に溶け込むことができるのではないかなと思っていたかもしれません。割と前向きに考えてしまう男なので。映画は監督の色がとても出るもの。好きな映画があると、自分も出てみたいなという気持ちになって、この現場に俳優として呼ばれてお芝居したらどうなるのかよく考えるんです。今泉さんの作品もそういう風に見ていたので、今回参加できてうれしかったです」
今泉監督からは「ナチュラルな芝居」を求められたという。
「今泉監督は表現を最小限に抑えてほしい方。お芝居お芝居して見得を切ったり、型にはまった芝居をするのを嫌う方なので、爪痕を残そうとか、うまく演じようとか、そういうことはせず、役の気持ちを表現しすぎないように。今泉監督のスケール感にチューニングを合わせた芝居をするというのは、すごく面白い体験でした」
続けて、「より繊細な演技が求められましたが、繊細な演技をしようとするとおかしいし、お芝居って難しいですよね」と笑いながら吐露。「でも、書かれていることを真摯に受け止めてセリフを言うと、そう見える。それが監督の脚本のすごいところだと思います」と今泉監督の脚本を称えた。
今泉監督は稲垣をイメージして主人公・市川茂巳を書いたと話していたが、稲垣も「自分と重なり、感情をすごく理解できた」と言い、「彼がしゃべる言葉に共感を持つことができたので、お芝居しているようでしてない、そこに到達することができました」と手応えを口にする。
市川との共通点として「冷めているところ」を挙げ、「あまり人に期待しない。そして、すべてを受け止める。冷めているというより、ちょっとカッコつけているというか、斜に構えるところはもう直らないですよね」と説明。
「みんなが熱くなっていると急に冷めちゃったり、本当に悲しいときこそ悲しいと言えなかったり。無理に天邪鬼にやっているつもりはないですけど、悲しいときほどすっと冷めてしまう。自分でもよくわからないですが、人は結局、個人なのかなと。その中でほんの一瞬でも相手と心を通わせて生まれるものがあったら、その記憶でずっと生きていくこともできる」と語った。
また、「相手に依存はしないように。『相手に期待をしない』というのが僕の座右の銘なのですが、それはとても大事なことだと思っています」と座右の銘も紹介。
「相手に期待しすぎたら、その期待通りにならなかったときに苦しい。この作品も、浮気したら普通怒るでしょ? というのが一般論としてありますが、普通って何? って。相手に期待しすぎないというのも、優しさなのではないかなと思います」と話した。
冷めた感じや相手に期待しないという考えは、子供の頃からそうだったという。
「子供の頃から芸能界にいたので、いろんなことに動じない、ショックを吸収できる心になったのかもしれません。もちろん相手と分かり合っていくことも大切なことだと思いますが、分かり合っているつもりでいいのかなと。そういう僕の人生観とこの作品は重なるところがあって、共感できました」
●新しい地図は「グループではなく仲間」 草なぎ&香取から刺激も
2017年9月にジャニーズ事務所を退所し、草なぎ剛と香取慎吾とともに「新しい地図」を立ち上げてから5年が過ぎた。稲垣は「本当にいい時間でした」とこの5年を振り返る。
「30年も同じ会社で同じグループで同じような状況でずっとやってきたので、全く環境が変わって最初は不安もありましたが、やっていくと、できることも増えたし、ソロになったからこその仕事もいただけて。例えばラジオのパーソナリティーも、こういう役もそうだと思います」
そして、「グループだとどうしてもグループの中での自分の立ち位置や世間のイメージがあって、5色だったら、あなたは赤であなたは青、となってしまう。赤も青もあるのに。皆さんそれだけではないと思っていたと思いますが、グループの中での自分の居方やポジションを大切にしてきたので。今はそれがないからこそできる仕事もあるのかな」と、グループとソロの違いに言及。「逆にグループで培ってきたもののおかげでいただけている仕事もありますし、新しい地図としての5年間は本当にいい時間を送ってこられて幸せいっぱいです」と充実した表情を見せた。
また、感謝の思いを日々感じていると語る稲垣。「こうして活動できているのは応援してくださるファンの方のおかげだし、取り上げてくれるメディアもそうですし、支えてくれるスタッフの方もいて成り立っている仕事ですから、とても感謝しています」
草なぎと香取の活躍からも刺激を受けているという。「舞台『burst!~危険なふたり~』も見に行きましたが、素晴らしかったです。本当にこの人たち心がきれいだなと。120%の力で芝居をしていて、30公演あるのにペース配分を考えないで全力でやっていて、こういう姿を見てもらって喜んでもらえているのだなと。作品も素晴らしかったですが、仕事に対する熱量や情熱、向き合う姿勢、そこに改めてすごく影響を受けましたし、感動しました」
また、3人の関係について「僕らはグループではなく、1つの仲間。グループという形でやってきたことはあれがすべてなので、そういった意味でもグループという言葉は簡単には使いたくないという思いがあります。大切なものだったから」との思いを明かし、「新しい地図をグループと思って見てくれる人がいてもいいのですが、僕の中ではソロでみんな頑張って、たまに集まる仲間。歌やバラエティなど、これまでの財産を生かして3人だからできることもあるので、そういうことをやっていけたら」と語った。
今年12月8日に49歳を迎えるが、今後をどのように思い描いているか尋ねると、「今の環境が本当に幸せだから、現状維持できたら」と、現状維持を目標に。
そう言えるのは今が充実しているからであり、稲垣は「現状維持と言うとすごくつまらない言葉に感じるけど、いい言葉だと思いますよ」と述べ、「もちろんやったことないこともまだまだあるので、いろんな経験をしていきたいですし、ベースとして心も体も健康に。そこは気をつけながら、ファンの人たちとの絆も大切にやっていきたいです」と語った。
■稲垣吾郎
1973年12月8日生まれ、東京都出身。1991年CDデビュー。2017年9月に稲垣吾郎、香取慎吾と「新しい地図」を立ち上げた。2010年に映画『十三人の刺客』の演技で第23回日刊スポーツ映画大賞・助演男優賞、第65回毎日映画コンクール男優助演賞、2019年に主演映画『半世界』にて第31回東京国際映画祭で観客賞、第34回高崎映画祭で最優秀主演男優賞を受賞。近年は、映画『海辺の映画館─キネマの玉手箱』(20)、『ばるぼら』(20)、ドラマ『きれいのくに』(21/NHK総合)、『風よ あらしよ』(22/NHK BS4K・BSプレミアム)、舞台『君の輝く夜に~FREE TIME,SHOW TIME~』(18・19)、『No.9─不滅の旋律─』(15・18・21)、『サンソン─ルイ16世の首を刎ねた男─』(21)、『恋のすべて』(22)などに出演。また、『7.2新しい別の窓』(ABEMA)、『ワルイコあつまれ』(NHK Eテレ)などにレギュラ―出演中。