2022年11月04日11時30分 / 提供:マイナビニュース
●スタッフの思いがにじみ出た今秋最大の意欲作
主要18作がそろった2022年の秋ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、主要新作の初回放送をウォッチし、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコでオススメ作品を探っていく。
別記事(『silent』『アトムの童』『クロサギ』『PICU』…なぜ主演俳優が急激に若返ったのか? 2022年秋ドラマ18作の傾向分析)において2022年秋ドラマの主な傾向を【[1]主演俳優に若返りの波 [2]女性スタッフのさらなる躍進】の2つと分析。
おすすめドラマとして、『silent』(フジテレビ系 木曜22時)、『最初はパー』(テレビ朝日系 金曜23時15分)、『ファーストペンギン!』(日本テレビ系 水曜22時)、『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジ系 月曜22時)、『アトムの童』(TBS系 日曜21時)の5作を選んだ。
本記事では、それらを含む全作品のショートレビューと、目安の採点(3点満点)を挙げていく。
『PICU 小児集中治療室』 月曜21時~ フジ系
出演者:吉沢亮、安田顕、高梨臨ほか
寸評:厳しい現実から逃げない作風は『朝顔』チームらしいが、「PICU」が知られてない以上、北海道である必然性は感じず。完結する『Dr.コトー』の代替という意味なのか。主人公のキャラは応援せずにいられない。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『エルピス―希望、あるいは災い―』 月曜22時~ カンテレ・フジ系
出演者:長澤まさみ、眞栄田郷敦、鈴木亮平ほか
寸評:佐野亜裕美、渡辺あや、大根仁の思いがにじみ出た今秋最大の意欲作。仕事の質は高いが、「WOWOWか」という骨太なテーマだけに、思いの強さが視聴者層を限定した感も。「テレビ局が舞台」は令和に古い?!
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『つまらない住宅地のすべての家』 月~木曜22時45分~ NHK
出演者:井ノ原快彦、夏川結衣、吉行和子ほか
寸評:「逃亡犯の見張り」と「各家庭の問題」という2つのテーマに連動性が薄く、主人公の魅力が一向に見えてこないのが帯ドラマとしては厳しい。『あなたのブツが、ここに』の後だけに期待されたが……。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『警視庁考察一課』 月曜23時6分~ テレ東系
出演者:船越英一郎、名取裕子、内藤剛志ほか
寸評:「2サスアベンジャーズ」の呼び声通り、これ以上ない顔ぶれが集結。“考察”だけに会話ばかりの省エネな上に、事件解決への道筋も拙速という感が。深夜より金曜20時枠で中高年層に見せてあげたい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『君の花になる』 火曜22時~ TBS系
出演者:本田翼、高橋文哉、宮世琉弥ほか
寸評:本田の演技が酷評されがちだが、「各事務所から若手俳優を集め、レッスンを積ませてデビューさせる」というプロジェクトは、それだけで称えられるべき。しかし、なぜ放送が夏でなく秋なのか理解不能。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『ファーストペンギン!』 水曜22時~ 日テレ系
出演者:奈緒、堤真一、梅沢富美男ほか
寸評:すでに各局の番組で扱われた実話だが、「ドラマ」という発想は素晴らしい。森下佳子の脚本でハートフルに仕上がり、物語には不安なし。ただ演出のメリハリに欠ける分、感動が伝わりにくいのがもったいない。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
●実在の街や風景を生かしたリアリティと没入感
『親愛なる僕へ殺意をこめて』 水曜22時~ フジ系
出演者:山田涼介、川栄李奈、門脇麦ほか
寸評:“総合演出”松山博昭監督の映像はやはり重厚感がありつつ、カラフルでスタイリッシュ。残酷なシーンを正面から描き、弱々しくも前へ進む主人公に引き込まれる。原作ありの分、結末への期待値は低め。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『ザ・トラベルナース』 木曜21時~ テレ朝系
出演者:岡田将生、中井貴一、松平健ほか
寸評:実在する「トラベルナース」という題材選びとタイミングが絶妙。序盤は中井貴一が主演という感が強く、今後2人がバディとなっていく過程をどう描くのか。『ドクターX』同様の痛快劇ではなく感動寄り。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『silent』 木曜22時~ フジ系
出演者:川口春奈、目黒蓮、鈴鹿央士ほか
寸評:新人脚本家と若手演出家を抜てきした村瀬健Pの仕事が光る。コメディでバランスを取ろうとせず、恋のみをまっすぐに描くことで差別化。実在の街や風景を生かしてリアリティと没入感を生んでいる。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】
『Sister』 木曜23時59分~ 読売テレビ・日テレ系
出演者:山本舞香、瀧本美織、溝端淳平ほか
寸評:「姉妹の愛憎劇」は今春にテレ東が『汝の名』を放送したばかり。秘密や裏切りの連鎖とラブサスペンスという筋書きは見慣れたものだけに、視聴者の想像を上回る姉の狂気を見せていくしかないだろう。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
『クロサギ』 金曜22時~ TBS系
出演者:平野紫耀、黒島結菜、三浦友和ほか
寸評:前回の2006年から16年というタイミングは、前キャストを引きずりすぎずほどよいところ。2022年を舞台にしたことで詐欺の手法も現代的なものに変わり、ベテランで固めた助演が頼もしく、バランスは上々。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『最初はパー』 金曜23時15分~ テレ朝系
出演者:ジェシー、市川猿之助、賀喜遥香ほか
寸評:企画・原作の秋元康は、やはりこちら側の人か。お笑いやテレビをイジる脚本にも引き込まれる。総合監修を佐久間宣行が務めることで『ウレロ』のような緩急や間で笑いを誘う。小籔千豊の鬼教師が絶妙。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】
●定番要素で違和感なしの『アトムの童』
『祈りのカルテ~研修医の謎解き診察記録~』 土曜22時~ 日テレ系
出演者:玉森裕太、池田エライザ、椎名桔平ほか
寸評:いまだに視聴率にこだわりすぎて医療や事件ばかり扱う日テレドラマ不振の原因がハッキリ。コア層狙いで若い研修医の物語にしたが、群像劇の要素が乏しく、ジャニーズ俳優の生かし方もステレオタイプ。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】
『ボーイフレンド降臨!』 土曜23時~ テレ朝系
出演者:高橋海人、桜井ユキ、田中みな実ほか
寸評:アラフォー突入の35歳女性2人と23歳若者の年の差ラブコメディ。しかも若者は記憶喪失で、無垢なキャラ、圧巻の才能と女性向けファンタジーをたたみかけるプロデュースは潔い。有料配信が合いそう。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆ 期待度☆】
『ジャパニーズスタイル』 土曜23時30分~ テレ朝系
出演者:仲野太賀、市川実日子、柄本明ほか
寸評:「30分ノンストップの一発本番シットコム」は刺激的で贅沢な試み。脚本・金子茂樹、演出・深川栄洋、主演・仲野太賀の座組は魅力的だが、クセが強すぎて「笑えるのか?」意見が分かれそうな仕上がりに。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『最高のオバハン中島ハルコ』 土曜23時40分~ 東海テレビ・フジ系
出演者:大地真央、松本まりかほか
寸評:「令和の水戸黄門」というぶっ飛んだヒロインは健在。その大地と松本のかけ合いは前作よりも自然に見える。人々の悩みや不正をバッサリぶった切る痛快劇と名古屋ローカルネタが心地よいさじ加減。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】
『アトムの童』 日曜21時~ TBS系
出演者:山崎賢人、松下洸平、岸井ゆきのほか
寸評:ゲーム業界がテーマで主演は28歳の山崎賢人と、「『日曜劇場』は若い層も取るんだ」という決意表明に見える。「下克上」「仲間のチーム戦」「物作りへの情熱」「芸人を多数起用」などの定番要素で違和感なし。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】
『霊媒探偵・城塚翡翠』 日曜22時30分~ 日テレ系
出演者:清原果耶、瀬戸康史、小芝風花ほか
寸評:オカルトファンタジーは当枠でときどき放送されるが、けっきょく探偵モノばかり。清原の演技が良くても、演出に工夫を凝らしても、目新しさはなく、物語に引き込まれない。小芝の存在感が鍵を握るか。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら