2022年11月01日19時15分 / 提供:マイナビニュース
●
名古屋大学(名大)、東京大学(東大)、京都大学(京大)、東北大学、大阪大学(阪大)の5者は10月31日、NASAのMMS衛星編隊に搭載された「低エネルギー電子計測装置」(FPI-DES)と電磁場の計測データの解析によって、地球近傍の磁気圏外の宇宙空間で電子が「ホイッスラーモード波動」と呼ばれるプラズマ波動にエネルギーを供給している現場を捉え、電子から波動へのエネルギー輸送率を直接計測し波動の成長率を観測に基づいて導出することに成功したと発表した。
同成果は、名大宇宙地球環境研究所の北村成寿特任助教、同・三好由純教授、同・中村紗都子特任助教、同・小路真史特任助教、東大大学院 理学系研究科の天野孝伸准教授、京大 生存圏研究所の大村善治教授、同・嶋浩嗣教授、東北大大学院 理学研究科の北原理弘助教、同・加藤雄人教授、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所の齋藤義文教授、阪大大学院 理学研究科の横田勝一郎准教授らを中心とした国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
宇宙空間では、無数のプラズマ(荷電粒子)が行き交っていることが知られているが、天体の近傍を除けばその密度は非常に低く、荷電粒子同士の衝突はほぼない「無衝突状態」となる。同状態では、電場や磁場によって荷電粒子の加速や散乱が引き起こされていると考えられており、特に、プラズマ波動を介するものが効率的な過程として、宇宙空間のさまざまな領域で働いているとされる。
従来は間接的な研究が多く行われてきたが、近年はエネルギー輸送率の直接観測による、どの種類の相互作用がどの程度の大きさで起きているかを実証する研究が実現され始めている。今回の研究でも、より高周波の電子に強く関連するホイッスラーモード波動について、電子から波動へのエネルギー輸送率の直接観測の成功と、それに基づく成長率の導出、非線形成長理論との整合についての解析が試みられたという。
今回の研究では、2016年12月25日に高度約5万4000kmで起きた磁気リコネクション付近において、MMS衛星編隊がホイッスラーモード波動を観測、同時にFPI-DESと電子ドリフト計測器(EDI)による高い時間分解能で電子を観測したデータが解析に用いられたという(3日後の28日には高度約6万5000kmの時期シース領域でも同様の観測が追加で報告された)。
FPI-DESは超高時間分解能で全方向から来た電子を計測可能だが、その時間分解能でも解析には不十分で、今回の研究では電子の観測データを約200マイクロ秒という極限まで分解する工夫がなされた。そして、その電子の観測データと電磁場の観測データに対し、「波動粒子相互作用直接解析(WPIA)法」が適用された。
●
その結果、数100eVのエネルギーを持った電子の一部に特徴的な不均一「ジャイロ非等方」が生じていることが検出されたという。ジャイロ非等方は、サイクロトロン共鳴速度付近に限定されて見られ、同共鳴の過程によってエネルギーを失いつつある粒子の方が多く、その失った分のエネルギーが波動に供給されていることを示すものだったとする。
また、非線形理論で予測される効率的な波動成長が起きうる条件について、従来の単独衛星による観測では実現不可能だった詳細な評価が行われた結果、観測結果が理論とよく整合することが実証されたともする。非線形理論では、ジャイロ非等方を生成しやすい条件について理論的に示されているものの、ジャイロ非等方の程度については簡単には予測不可能だとのことで、今回の研究により、実際に観測できる程度に顕著なジャイロ非等方が生じることが観測実証されることになったとする。
さらに、そのジャイロ非等方を持つ電子が担う電流量と波動の振幅から波動の成長率の計算が行われたが、このほとんど仮定を置かない手法で直接的に成長率が導出できた点も新たな成果だと研究チームでは説明する。
なお、今回の研究成果は、宇宙空間のさまざまな領域で生起しているホイッスラーモード波動(を含む電磁サイクロトロン波動)に、非線形成長が重要な役割を果たしていることを直接的に示す先駆けとなるもので、今回扱われたホイッスラーモード波動に限っても、磁気圏内では、放射線帯の相対論的高エネルギーへの電子加速(「キラー電子」とも呼ばれる)、高エネルギー電子の大気への降り込み、脈動オーロラの生成といった多様な現象に関連しており、これらの現象の理解に新たな裏付けを与えるという。
またWPIA法は、今後のJAXAの地球電磁気圏・熱圏探査計画「FACTORS」や、国際共同による木星探査計画「JUICE」などの宇宙探査計画でも活用が期待されており、今回の成果を土台として、多様な波動粒子相互作用の研究における展開、プラズマ物理研究の進展における理解に貢献していくことが期待されるとしている。