2022年11月02日05時00分 / 提供:マイナビニュース
●大人の鑑賞に堪えうるラブストーリーを
女優の川口春奈、アイドルグループ・Snow Manの目黒蓮らが出演するフジテレビ系ドラマ『silent』(毎週木曜22:00~)。本気で愛した人と、音のない世界で“出会い直す”、切なくも温かいオリジナルラブストーリーで、Twitterでは放送されるたびに「#silent」が世界トレンド1位にランクインし、見逃し配信ではフジテレビの全番組で歴代最高を記録するなど、今最も話題を集めているドラマだ。
プロデューサーを務めるのは、『SUMMER NUDE』(13年)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(16年)など、これまでもオリジナルのラブストーリーを手がけてきた村瀬健氏。今作への思いとこだわりを聞いた――。
○■「めちゃくちゃ才能のある人だな!」
このドラマの特徴は、恋愛描写の純度の高さだろう。最近のラブストーリーは特に、主人公カップルの行方だけでなく、“お仕事パート”など、登場人物を取り巻く周辺環境にも物語を用意しており、恋愛のみに時間を割く作品は少ない。しかし今作は、主人公たちが働く場面も当然登場するが、それは彼らの生活の一部を切り取るためのものであり、多くの物語を“誰かが誰かを思う”=“恋愛”(もしくは“友情”)を描くことに集中している。その考えは、村瀬Pの企画段階からあったものだという。
「会社から22年10月期の木曜10時という枠を任されたときに、大人の鑑賞に堪えうるラブストーリーを作ろうと思ったんです。“展開”で盛り上げるのではなくて、“好き”という気持ちを丁寧に描いていくことで物語を展開させる。そういうラブストーリーにしようと思って、この『silent』を企画しました」
脚本を務めるのは、昨年の『第33回フジテレビヤングシナリオ大賞』受賞者である生方美久氏で、これが連続テレビドラマデビュー作品。第1回(87年)の坂元裕二氏や、第2回(88年)の野島伸司氏と同じく、同局が“発掘”した逸材であり、昨年の受賞から早くもオリジナル作品を一任されるという大抜てきだ。
「“ヤンシナ”の審査員に僕も入っていまして。応募作品を読んだ時点で『めちゃくちゃ才能のある人だな!』と思ったので、この枠を僕が任されるより前、まだ次回作をやるかどうかも決まっていない段階だったのですが、『何か一緒にやろう!』とお声がけしました」という村瀬P。この物語の大きな核となっているのは、生方氏が最初に書いてきた登場人物たちの“プロフィール”にあるという。
「こういう話をしようとなったときに、生方さんが登場人物の設定はこんな感じという“プロフィール”を作ってきてくれたんです。それがA4ペラ1枚2枚とかの文量だったんですけど、とても良くできていて、それぞれの登場人物たちにどういう出来事があって、どういう人生を送ってきたのかがすごく分かるようなものでした」
その“プロフィール”によって、「僕も監督も、キャラクターがどんな人物なのか自然と頭に浮かべられるようになったし、生方さんもそれがあるからこそ、セリフを作るというより、登場人物たちが勝手にしゃべっているイメージで書いているんだと思います」と、ストーリーを作る上で大きな効果を発揮している。
○■キャスト陣も「本を愛してくれている」
今作は事件や事故など大きなドラマが起こるわけではなく、丁寧な会話のやりとりで物語を紡いでいくという、ある意味挑戦的な構成だ。このような作品作りは、生方氏への大きな信頼がもとになっている。
「彼女の才能を信じているので、良い意味で、好き勝手に書いてもらっています(笑)。そして出来上がったものに対して、僕らはそれが一番面白いと思っているし、そのまま受け入れているという感じですね」
とは言え、これまで多くのテレビドラマを手がけてきたプロデューサーの立場からアドバイスすることはないのか聞いてみると、「それはもちろん、細かい部分でアドバイスはいっぱいしています。あと、生方さんが書いてきたものはすごく良いんだけど、どうしても1時間では収まらない長さになってしまうんですよ。だから、いかに良さを残しながら削るかということをやっていますね。例えばある話で、これまで全くいなかった登場人物が出てきたんです。そのお話自体はすごく良かったんだけど、『この人はここで登場させたほうがより効果的だよね』とか、そういうアドバイスなどをしています」と明かす。
脚本への信頼はスタッフだけでなく、出演者からも“お墨付き”。「大作家先生ではないので、一字一句変えちゃいけないという感じでは全くないんですけど、セリフのディテールがとてもいいので、役者さんも本を愛してくれていて、強制するわけではないのに“てにをは”まで変えずにしゃべってくださっています」とのことだ。
●「世田谷代田駅」「タワレコ渋谷店」実際の場所でロケの理由
プロデューサーという立場で、村瀬P自身が特にこだわったというのが、リアリティを追求したロケーションだ。「連続ドラマは、みんなが自分の物語として見るのが一番いい。だからこの世界の、東京で起こっているドラマなんだっていうのを感じてほしくて、実際の場所をお借りして、リアリティを出していくことを意識しました」と強調する。
中でも珍しいのが、主人公が頻繁に使う「小田急線・世田谷代田駅」や、バイト先の「タワーレコード渋谷店」など、実在の駅名や店名が登場する点だ。
「小田急さんが連続ドラマに協力してくれるのは初めてだそうで、小田急さんにロケ地の相談をした際に、駅周辺がきれいで比較的乗降者数が少ない世田谷代田駅はどうですか、という提案があって、ロケーションもめちゃくちゃ良くて気に入ったので選びました」
「主人公がCD ショップで働いている設定になった段階で、一番有名だし、僕自身も学生時代から通っている“渋谷のタワレコ”に決めました。ありがたいことに、快く貸していただけました」
実際の場所を使わせてもらうことについて、放送後に思わぬ事態が起きた。「おかげさまですごく話題にしてくださって、聖地巡礼じゃないですけど、現場を見に来てくださる方が多くいらっしゃるようになったんです。近隣の皆さんに迷惑をかけられないので、そこを気遣いながら撮影をしていますね」と、うれしい悩みになっている。
映像にも、村瀬Pのこだわりが詰まっている。「風間(太樹)監督が映像をすごくきれいに撮るタイプで。撮影が片村(文人)さんというCM などを担当されている方なのですが、きれいな映像で映し出すことはこのドラマの世界観にぴったりだと思って、キャスティングと同時にスタッフィングも僕がしました。画角で言うとちょっと“緩め”にしてあって、2ショットでも余白が多い、そういう撮影を意図的にしてくださっています」と教えてくれた。
さらに、「芝居の“感情”のシーンは1テイクか2テイクで撮るようにしているんですけど、例えば、第1話のファーストシーン(=雪が舞う団地の場面)は、美術さんも照明さんもみんな頑張ってくれて、とっても大きなクレーンを借りて、何度も何度も、何時間もかけて撮りました」と、撮り方のこだわりも明かした。
○■視聴者の“考察”に驚かされる
そんな才能あふれる脚本と、丁寧に撮影された本作は、視聴者からの反響もかなり大きく、第3話のラストで登場した“テントウムシ”に対する視聴者の“考察”に驚かされたそう。
「“テントウムシ”が実は幸せを運ぶ虫だというのは、僕らが打ち合わせしたときにも出ていたんですけど、“テントウムシ”がスピッツの『魔法のコトバ』(※第1話で登場する主人公たちの思い出の曲)のジャケットにも描かれているっていうのは、僕らの遊び心でやっていたことだったので、そんなところまでまさか視聴者の方にも気づいていただけるなんて驚きました」
「シンプルで静かなドラマが、ここまで多くの方に受け入れてもらっているのはすごくうれしいし、感謝しています。視聴率もさることながら、(見逃し配信の)再生回数が多かったり、周りに話したくなる、語りたくなるドラマだと言ってくださるので、新しいテレビドラマの“モノサシ”みたいなものが生まれ始めているじゃないかなと思っています」と手応えを語る村瀬P。
物語は後半に差し掛かるが、視聴者の大きな反響を巻き込みながら、この静かなドラマがどんなストーリーを展開していくのか期待したい。
「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。 この著者の記事一覧はこちら