2022年11月02日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●「実際に住んだことがある人」に聞いたランキング
テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第248回は、10月29日に放送されたNHK Eテレの教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(21:00~)をピックアップする。
昨年9月に新しい地図が出演する特番としてスタートしたあと、今年1月1日の放送を経て、4月からレギュラー放送がスタート。香取慎吾の“慎吾ママ”を筆頭に、3人が『SMAP×SMAP』(カンテレ・フジテレビ系)以来のコミカルなキャラクターを演じている。
初のゴールデンタイム放送だった今回の特番には、明石家さんまや山本耕史らが出演するなど、その内容は豪華そのもの。この番組にはどんな魅力があり、新しい地図にとってはどんな意味があるのか。
○■いきなりSMAP解散にふれたさんま
オープニングでNHKの高瀬耕造アナが登場。まるで報道番組のように始まり、この日のラインナップがニューストピックスのように紹介された。
最初のコーナーは、子どもたちが記者になってゲストに遠慮なしの質問をぶつける「子ども記者会見」。今回のゲストはEテレ初出演の明石家さんまだけに、その図式は『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)を彷彿とさせた。
質疑応答に入る前から、さんま節がさく裂。いきなり「いろいろ騒動があったのは7年前なのか。僕は間に入って大変でした。でもこうしてちゃんとみんな頑張ってやっているからうれしい」と切り出して視聴者の興味を誘った。これに司会役の稲垣吾郎が「さんまさんには我々も相談しておりました」と呼応。香取慎吾も笑みを浮かべたが、NHKだから見られるこのやり取りに、3人の充実感が裏付けされているようで安心させられる。
子どもたちの主な質問は、「ウソの話をホントにするってどういうこと?」「芸能界で敵なしですがHIKAKINよりすごい?」「YouTubeに出ない?」「コンプライアンスはどう考えている?」「お笑い芸人にはどうやったらなれる?」「今は芸人として売れるのはむずかしい?」「番組の収録おわりに反省会はする?」「どうしたらおもしろいキャラになれる?」「なやみはありますか?」「将来の夢はある?」「なんでここまで長く芸能界を続けられた?」「マスコミに追われるのはいやだった?」「いつまで仕事をつづける?」。
ここでも民放では見られないであろう質問があり、さらにさんまは子ども相手だからか、ボケるというより真面目に答え続けていた。そんなコメントの成果が現れていたのが「さんまの名言」というテロップ。
「笑いは狙っている」「ゲストに合わせて話を準備する」「書いたネタは面白くない」「いちばんの敵はユーチューバー」「最後までテレビでがんばりたい」「YouTubeには死んだ時に初めて出る」「さんまはがんばり屋さん」「SNSでエゴサーチはしない」「人の悪口は言わない」「すべては編集にまかせる」「笑いとは緊張の緩和」「27歳の秋 反省することをやめた」「反省会から絶賛会へ」「今日が頂点」「人生は人より楽しんで!」「どうしたら楽しめるかを考えることが楽しい」「ダメだったらやめることはできる」「死ぬときにひとつでも後悔がないように生きる」「後輩にカッコワルイ姿を見せるためにテレビに出る」「ひとりはさみしい」
芸能人に限らず一般人の参考にもなりそうな名言が多く、しかも年齢不問なのがすごいところ。「さすがEテレの番組らしい学びがある」と感じさせられた。
○■香取慎吾と山本耕史がボケ合戦
さらに、さんまはタメ口の少女に「キミ、昔オレとつき合ってた?」とツッコミを入れたり、「今、『オレたちひょうきん族』(フジ系)や『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系)はできない」と往年の視聴者が喜ぶワードを入れたり、「再婚は考える」とリップサービスしたり、MCではないさんまを見られる楽しさがあった。
最後は司会の稲垣が「子ども記者のみなさんは『家に帰るまでが記者会見』なので気をつけて帰ってください」と声をかけ、全員で「はーい!」と返事。さんまも子ども記者たちも終始、楽しそうで穏やかなムードが漂っていただけに、21時台というより19時台の放送が合いそうな感があった。
次のコーナーは、歴史上の人物に本音を聞くタイムスリップトーク「慎吾ママの部屋」。まずは前振りのように、過去に放送したトーマス・エジソン(寺脇康文)、豊臣秀吉(竹中直人)、紫式部(宮澤エマ)、クレオパトラ7世(三田佳子)、上杉謙信(高橋克典)の名言集を見せたが、あらためて名優たちの出演とユーモアあふれる役作りに驚かされる。
今回の特番では、山本耕史が土方歳三にふんして登場。香取が近藤勇を演じた18年前の大河ドラマ『新選組!』以来だが、いかにも視聴率が上がりそうな組み合わせだ。香取はこぶしを口に入れる当時の名シーンを再現しようとするが、「びっくりするくらい入らない」と失敗して笑いを誘う。一方の山本は、土方“トシ”三として田原俊彦のモノマネをしたり、ずん・飯尾和樹のネタをマネしたりなど、笑いの手数では負けていなかった。
最後は、土方が慎吾ママに新選組の法被を着せたことで近藤勇が憑依。2人の小芝居が始まり、近藤「まさかお前とまたこんな形で会えるとは思わなかった」、土方「こんな形で会うべきではなかった。だが最高だ」とオチをつけた。「大河ドラマや朝ドラを自らイジれる」のはNHKの特権であり、現在バラエティに力を入れているだけに、もう少し増やしていいのかもしれない。
●NHKならではの豪華な共演者たち
その後、香取が松木慎太郎(松木安太郎)、草なぎが草村航平(内村航平)にふんした「社会の体操選手権」、稲垣吾郎が88歳のユーチューバーにふんした「ユーチュー婆・ヨネキンの年伝説」、草なぎ、真矢ミキ、黒川智花、加藤清史郎ら出演の「ケミカルドラマ 闇に落ちる」、香取がワルネット香高(『ジャパネットたかた』高田明元社長)にふんした新企画「ワルイコTVショッピング」を立て続け放送した。
さらに、これまでに放送された「ケミカルドラマ」、「子ども記者会見」、草なぎ、稲垣、香取、それぞれの名場面集も放送。特に3人の個別名場面集は、今回の特番で放送されていないコーナーのプロモーションに近いものがあった。
これは、今回の特番を見た新たな視聴者に「他にもこんなに面白いコーナーがあるんですよ」「3人はこんなにハジけていて面白いですよ」と継続視聴を促すものだろう。事実として笑いが詰まった名場面集だったとともに、“バラエティ現役感”を見せるという意味で、3人にとっても有意義なコーナーだった。
『SMAP×SMAP』の放送終了からまもなく6年になるが、3人のバラエティにおけるスキルはほとんど変わっていないのではないか。むしろ活動の自由度が増した分、力が抜けて間が良くなったようにすら見える。『ワルイコあつまれ』はコントバラエティではなく、教育バラエティだが、もし民放の番組に完全復帰したら、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか興味深い。
今回の特番を通じて思わされたのは、一流のタレントや文化人を次々に起用できるNHKの強み。単に「NHKはお金と時間があるから」というより、新しい地図の格やスキルにふさわしい相手をキャスティングできるところに『ワルイコあつまれ』の魅力が感じられる。エンタメ性の高さという意味では、新しい地図のファンだけでなく、もっともっと注目を集めていい番組なのかもしれない。
新しい地図はNHKに俳優やMCなどで重宝されているほか、看板番組のゴールデン・プライム特番を放送したことで、今後も『紅白歌合戦』への出演がウワサされるだろう。歌唱でなくても『ワルイコあつまれ』をそのままコーナーとして生かすことを含め、その貢献度を踏まえるとジリジリと近づいている感が強い。
そしてこの番組が盛り上がるほど、新しい地図の民放バラエティ復帰は進んでいくだろう。「来年はいよいよそれが動きはじめるのではないか」と期待している。
○■次の“贔屓”は……『もしツア』の後番組に売れっ子が集結! 『イタズラジャーニー』
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、5日に放送されるフジテレビのバラエティ番組『イタズラジャーニー』(毎週土曜18:30~)。
今秋の改編は各局ともに動きが少なかったが、新番組で最も楽しみにしていたのがこの番組。「かまいたち、チョコレートプラネットという現在の超売れっ子がひたすらイタズラを仕掛けられる」というシンプルなコンセプトだけに、4人+進行役の渋谷凪咲がどう笑いに変えていくのかが見物だ。
20年にわたって放送された『もしもツアーズ』の後番組でもあり、局内での期待値も高いという。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら