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下肢の筋肉は鍛えて肥大化しても重く動かしにくくなることはない、早大などが確認

2022年10月31日20時25分 / 提供:マイナビニュース


早稲田大学(早大)などは10月28日、鍛えられた男性スプリンターの下肢は、一般成人男性と比べて大きく発達しているにも関わらず、両者における股関節周りの「回転の動かしにくさ」に有意差はなく、そのため筋量の分だけ男性スプリンターは素早い動きが可能となることを明らかにしたと発表した。

同成果は、筑波大学体育系の佐渡夏紀助教、日本大学医学部の一瀬星空助手、早大 スポーツ科学学術院の川上泰雄教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米スポーツ医学会が刊行するスポーツ医学と運動科学を扱う機関学術誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載された。

物体の運動は回転と並進の力とそれぞれの方向への動かしにくさ(慣性)で決まり、基本的に関節の回転を通じて行われる身体運動では、特に回転の動かしにくさが運動の出来映えに大きく影響する。全力疾走への力学的要請に合致したスプリンターの「股関節屈曲・伸展の筋群の特異的な発達」という特異的な筋形態は、要求される「力」への適応というプラスの側面だが、鍛えられて筋が肥大すると重くなり、「動かしにくさ」を増やしてしまうマイナスも生じてくると考えられてきたものの、両者のバランスを詳細に調べた研究はなく、アスリートの身体形状のバランスについては不明だったという。

回転の動かしにくさは「質量」×「回転軸-物体間の距離の2乗」であること、ならびにスプリンターの筋発達が部位によって異なることから、研究チームは今回、「鍛えられたスプリンターの下肢は必ずしも動かしにくくない」という仮説を立てたとする。

そして、全力疾走では特に「下肢のスイング」に関わる力学的要請が大きいことから、股関節周りの下肢の回転のしにくさ(身長と身体質量で正規化された股関節周りの下肢の慣性モーメント)を主要評価項目として、男子スプリンターと一般成人の下肢の比較を行うことにしたという。


その結果、身体質量に対する下肢の質量比は、スプリンターは一般成人に比べて有意に大きいにも関わらず、下肢の回転のしにくさに有意差はなかったとする。これは、股関節に近い大腿だけで質量比に差があり、股関節から遠い下腿と足に有意差がないことが要因だという。動かしやすい(慣性が小さい)下肢は、同じ力発揮によってより大きく加速することを意味する。つまり、回転のしにくさを増やさない「先細り」なスプリンターの下肢の特徴は、素早い下肢のスイングが求められる全力疾走に対する最適解といえるとする。

下肢の組成を詳細に解析すると、スプリンターと一般成人の質量比の差は密度より体積に依存すること、大腿・下腿・足のすべてで筋の適応は起きるが、(骨や脂肪組織を含めて)質量比として表出するのが大腿だけであることが判明。スプリンターの先細りの下肢は、「大腿は大きくなりやすく下腿はなりにくい」という形状変化の身体部分間の差を反映していることが示唆されたとする。

今回の研究では質量分布を詳細に検証するために、MRI画像を用いた解析も行われ、研究チームが独自開発した解析プロセスが用いられた。MRI画像の取得方法が工夫された結果、2mmごとに取得される下肢500枚以上の画像のすべてで、ピクセルごとに組織を判別することが可能となり、筋体積などを調べた従来の3次元形態解析と比べて高い空間分解能が実現されたとする。

従来、「身体を鍛えすぎると重く動かしにくくなる」という認識がアスリートの間にあったという。しかし今回の成果は、スプリンターの場合はそうしたデメリットがそれほど大きくないことが定量的に示され、トレーニングの積極的な実施を後押しする1つのエビデンスとなったと研究チームでは説明するほか、今回用いられた手法は広く応用できる可能性があり、力学的な動かしにくさを調べるのはもちろんのこと、各種組織の分布を高い空間分解能で調べることもできるとのことで、詳細な組成解析が進んでいくことで、たとえば「トレーニング介入前後」「太る/痩せる」「加齢」などの要因によって、どのように身体組成・形状が変化していくかといった基礎的な知見が積み重ねられていき、身体能力の発揮において望ましい「身体つき」の在り方への理解が深まっていくことが期待されるとしている。

また身体組成には性差があり、トレーニング適応による慣性の側面にも性差があると考えられるとするほか、今回は下肢が扱われたが、日常的に身体を支える下肢に対して、身体支持の負荷から解放されている上肢についてはトレーニング適応をより明確に反映することが予想されるという。

なお、今回の研究による「スプリンターと一般成人の間で質量と回転のしにくさの差が対応しない」という知見は、身体の形態的適応に関する今後の研究における「動かしにくさ(慣性)」という視点の重要性を示唆していると研究チームでは説明している。

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