2022年10月27日06時31分 / 提供:マイナビニュース
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TSMCが、中国の新興ファブレスICメーカーのBiren Technology(壁仞科技)から製造受託していたAI半導体チップの生産を停止したと米国、香港、台湾の複数メディアが報じている。
TSMCは、Biren Technologyの製品が米商務省産業安全保障局の規制対象になるかどうかについて結論に達していないが、法律を厳格に遵守する立場から、慎重を期して当面の供給を停止することを決めた模様である。ただし、TSMCからは、これまで同様、顧客との取引に関するためコメントは出ていない。
Biren Technologyは、これまで自社のAIチップについて、米国の規制の範囲外にあるとして主張してきた。なぜ、規制の対象がかくも曖昧模糊として受け取られているのか考察してみてみたい。
これまでも規制対象とされてきたNVIDIAとAMDの先進AIチップ
10月7日に米国商務省産業安全保障局が発表した半導体チップおよびコンピュータ製品に関する対中輸出規制対象は「certain advanced and high-performance computing chips and computer commodities containing such chips(特定の先端高性能コンピューティングチップとそれらを搭載したコンピュータ製品)」とされている。
ここで言っている特定とは何を指すのだろうか。NVIDIAは8月末、同社の先進AIチップである「A100」および「H100」の中国への輸出を事実上禁止する旨の書簡を商務省から受け取ったと発表している。一方のAMDの先端AIチップ「M1250」も同様の扱いを受けることになったことが明らかになった。商務省産業安全保安局は、これらの報道に対して各企業の個別の事柄にはコメントしないとしてきたが、10月7日になって初めて、これらの先端AIチップの輸出規制を明文化し公知した。
中国本土にあるロジック半導体メーカーに対して事実上輸出禁止となる半導体製造装置や部材に関しては、「Logic chips with non-planar transistor architectures (I.e., FinFET or GAAFET) of 16nm or 14nm, or below」として、16/14nmプロセス以下のFin FETやGAAFETなどの非プレナートランジスタ構造のロジックチップを製造するために使用されるものとされているが、半導体チップについては規制対象が特定の製品としか記されておらず、16nm以下のプロセスで製造された米国製半導体チップすべてが禁輸になったとの誤解が一部にみられるが、もしそうなれば、米国の半導体サプライヤの多くが、最大市場である中国での売り上げをほぼ失うことになり、事業そのものが窮地に追いやられることになってしまう。
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NVIDIA A100よりも性能が上とされる中国製GPU
TSMCがBiren Technologyから受託していたBiren GPUチップの1つは、7nmプロセスを用いた「BR100」で、各チップセットに770億トランジスタを搭載している。この製品がNVIDIAのA100より性能が優れているとの情報が世界規模で出回りはじめたことが、TSMCが製造停止に至った背景だと、業界関係者はみている。
著名なAIベンチマークであるMLPerfの最新結果(MLPerf Inference v2.1)によると、BR104が自然言語理解(BERT モデル)と画像分類の2つのベンチマークでシングルカードではトップクラスの性能と認定されたという。具体的には、BERTモデルでNVIDIA A100のシングルカード性能の1.58倍を達成し、その他のベンチマークでもA100の性能を超えたという。Biren Technologyは、この結果を大々的にWebサイトなどで宣伝したが、それが裏目に出て、TSMCが自主規制に踏み切ったとみられる。
米国商務省は、米国製スーパーコンピュータやAI向けの特定先端チップの対中輸出を事実上禁止(許可を必要とするが原則的には許可しない)するとしており、この中にA100が含まれており、この輸出制限は域外適用(米国以外の国々からの出荷に関しても適用)されることになっている。
中国顧客からの売り上げ減少が進むTSMC
それにしても、中国では、Huaweiの子会社であるHiSiliconといい、2019年に創設されたばかりのBiren Technologyといい、米国のトップレベルの最先端半導体チップと性能を競う企業が続々登場してきているのには驚かされる。米国は、これらの半導体が実際に台湾や中国で製造されぬように様々な規制をかけようとしている。
こうした規制の結果、TSMCの売り上げに占める中国からの売上比率は、Huawei/HiSiliconのKirinチップを受託生産していたころには20%台であったものが、2022年第3四半期には8%へと落ち込んでおり、今後も規制が続けば、さらに落ち込む可能性がある。