2022年10月25日16時43分 / 提供:マイナビニュース
●
北海道大学(北大)、東京工業大学(東工大)、東京大学(東大)の3者は10月21日、Cb型小惑星「リュウグウ」と「イヴナ型炭素質隕石」(CI)の類似性を明らかにし、両者は天王星・海王星領域で生まれた可能性が高いことを明らかにしたと発表した。
同成果は、北大大学院 理学研究院の圦本尚義教授、東工大 理学院地球惑星科学系の横山哲也教授、東大大学院 理学系研究科の橘省吾教授を中心とする国内外の50を超える大学・研究機関の90名以上の研究者が参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
小惑星も多種多様で、サブカテゴリーも含めると、何種類にも分類される。特徴が異なるということは、約46億年前に誕生した際、太陽からの距離が異なる(=温度が異なる)など、条件の異なる場所で誕生したことが考えられている。しかし、それぞれの小惑星がどこで生まれたのかはまだよくわかっていない。
これまでの研究から、小惑星リュウグウは炭素の豊富なC型であり、より正確にはサブグループのCb型に属し、CIと同様の物質からできていることが明らかにされている。CIは隕石の中で最も揮発性元素に富んでおり、太陽の元素存在度比に最も近い組成を持つことが特徴だという。
揮発性元素に富むということは、冷たい環境で誕生したことを意味しているが、それだけではリュウグウやCIの生誕地を絞り込むのは難しい。それは、太陽系誕生当時の冷たい環境とは小惑星帯の外側領域ということであり、あまりにも広すぎるためだという。
チタン(Ti)やクロム(Cr)などの揮発性が小さい元素の同位体組成は、天体ごとにわずかに違いがあり、炭素質隕石(CC)と非炭素質隕石(NC)の2グループに分類される。CCとNCの間には隙間があるが、これは両グループが生まれた領域を木星が空間的に分断したためと考えられている。この説に従うと、リュウグウや炭素質隕石は木星の外側で生まれた一方、地球や非炭素質隕石は炭素質隕石と同位体組成が異なる木星の内側で生まれたことになるという。
そこで研究チームは今回、鉄の同位体組成を精密測定し、リュウグウとCIの誕生した場所を探ることにしたとする。はやぶさ2が採取したリュウグウ試料を水溶液化し、米・シカゴ大学のマルチ検出機付きICP質量分析装置により鉄の同位体組成が精密測定された。
●
測定の結果、リュウグウとCIの分析値には違いが見られず、両者の組成が似ているという先行研究が支持されたとする。また、両者の鉄の同位体組成は、ほかの炭素質隕石と明らかに異なっており、鉄とチタンの同位体比をプロットすると、新しい隙間が確認されたことから、両者はほかの隕石とはまったく異なる場所で生まれたことが示唆されたと研究チームでは説明している。
微惑星を生む原始惑星系円盤は、太陽から遠いほど冷たくなるため、木星を境にしてその内側では温度が高いため揮発性元素が失われやすく、同元素に乏しい微惑星が誕生する。その一方で木星より外側は温度が低いために凍ってしまって失われずに残りやすく、同元素に富んだ微惑星が生まれる。
近年、木星は生まれた場所から一時期は火星軌道近くまで太陽に近づいた後、もう1つの巨大ガス惑星である土星に引っ張られて遠ざかり、現在の軌道に落ち着いたと考えられるようになっている。このように太陽系最大の巨大惑星が動き回ると、太陽系内は強大な重力による共鳴現象により、周囲の微惑星を次々と跳ね飛ばしたことが考えられ、大部分の微惑星は外側に飛ばされるが、一部は内側に飛ばされ、小惑星帯にまで運ばれることがあるとする。
リュウグウとCIは、最も揮発性元素に富んでいることから、木星以遠で誕生したことは間違いないと考えられるほか、木星の重力共鳴現象により大量の微惑星が移動させられたとすると、天王星・海王星領域で生まれたと考えるのが自然だと研究チームは説明する。つまり、天王星・海王星領域で生まれた微惑星の中には、まず天王星・海王星の重力共鳴により励起され、木星でさらに内側へと追いやられ、小惑星帯まではるばる移動させられたものがあると考えられるとする。
そして、リュウグウのようなCb型小惑星は、その微惑星が破壊された破片の1つであり、いずれかのCb型小惑星が壊されたその破片が地球に落下したのがCIであることが考えられるという。
今回の研究成果により、リュウグウとCIの親戚関係の結びつきがますます強くなったと研究チームでは説明しているほか、引き続き、ほかの元素の同位体組成を明らかにすることで、さらにリュウグウの正体が明らかとなることが期待されるとしている。