2022年10月26日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●「実際に住んだことがある人」に聞いたランキング
テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第247回は、23日に放送されたテレビ東京系バラエティ特番『住んで良かった!街ランキングBEST100』(18:30~)をピックアップする。
「関東エリアの本当に住んでよかった街をランキングで発表していく」というコンセプトの特番だが、ポイントは「住んでみたい人」ではなく「実際に住んだことがある人」に聞いたランキングであること。
6つの項目から、印象や憧れなどではないリアルな声を拾っていくという。このところテレビ朝日系の『○○総選挙』を筆頭にランキングをベースにした特番は多いが、納得感やリアリティという点で一歩先を行けたのだろうか。
○■長嶋一茂と成田悠輔の異色MCコンビ
オープニングで長嶋一茂が「異色のコラボですね。“バカ”と“天才”っていう」と口火を切り、アメリカからリモート出演のイェール大助教授・成田悠輔氏が登場。実際、一茂と成田氏のMCコンビは斬新かつ新鮮であり、興味をそそられた。来年あたり、「数字が獲れるコンビ」と言われるようになっていても驚きはない。
まずは、アンケートの概要を紹介。「調査対象 対象者:1都3県(一部茨城県含む)在住の2万6,180人」が、1)交通便、2)環境、3)おしゃれさ、4)商業施設の充実度、5)飲食店の充実度、6)生活コスパ(家賃・物価)の良さという6項目を計10点満点で評価(1・2・4・5×1、3×0.5、6×2でウエイト付けし、集計した平均)するという。
さらに、LINEリサーチプラットフォームを利用したテレビ東京独自の調査であることも表示されていた。ただ、アンケートの参加者が「どこに住んでいたのか」「今どこに住んでいるのか」の割合によって結果が大きく変わりそうなだけに、納得感やリアリティという点で不安が残る。
ランキングは、50位からカウントダウン形式でスタート。50位は浦和で、東京へのアクセスの良さを紹介したあと、住人へのインタビューが始まった。LINEを使ったアンケートである以上、これらのインタビューは結果を受けてから行われたものだろう。
インタビューでは子どもがうなぎのおいしさをコメントし、番組は珍しいうな重自販機をピックアップ。さらに、すべて公立校で東大に行くという“ゴールデンコース”の存在を明かし、わざわざ学区内に引っ越した人などの声を紹介した。「住んで良かった」という内容が具体的かつ意外性があり、納得させられた人は多かったのではないか。
49位の川崎と48位の門前仲町はランキング発表のみで、その理由などはスルー。続いて47位の恵比寿は、まず埼玉県民に恵比寿の印象をインタビューして「おしゃれ」という印象が語られた。次に物価の高さがピックアップされ、「複数のスーパーを調査したところトマトが埼玉県の約2倍高かった」という実態をピックアップ。さらに、恵比寿ならではのオシャレ吉野家や高級レストランの『ジョエル・ロブション』などが紹介された。
ここで、スタジオの成田氏が「ぶっちゃけアメリカと比べると六本木とかでも安く感じます。ニューヨークは2~3倍する。幸福度低いですね」と語ると、一茂も「恵比寿は物価が高いとかあるけど、それでも安いんだよね」と同調。MCたちがVTRをフォローする形でバランスが取られた。
○■街のイメージや情報はやや古いか
46位の三鷹、45位の大船、44位の後楽園・春日はスルー。43位の海浜幕張は、通勤ラッシュ、アウトレット、大型ショッピングモール、区画整理によって静かで住みやすい、東京湾まで徒歩約10分などが紹介された。
42位の上大岡はスルー。41位の錦糸町は、東京スカイツリーが見える街、繁華街、サウナがピックアップされ、成田氏が「街中にサウナとか温泉があるのって、ニューヨークでもほぼない」と魅力を補足した。
40位の本八幡は、「千葉県だけど気持ちは都民」、サイゼリヤ1号店、毎朝大量の自転車であふれる北京通り、座って通勤するために始発の本八幡に向かうなど。39位の二子玉川はスルー。38位の新浦安は、今年8月にオープンした冷凍食品専門店、ディズニーリゾートに自転車で行けて花火も見えるなどを紹介した。
37位の府中、36位の南大沢、35位の調布はスルー。34位の神楽坂は、オシャレで品がある、ワインバーが80軒以上、花街ならではの小路と路地裏の名店などがピックアップされた。
33位の荻窪、32位の戸越銀座・戸越はスルー。31位の北千住は、5路線が乗り入れるターミナル駅、下町で物価が安い、駅周辺に10以上の商店街、近年大学が5つできてスイーツ店が増えているなど。
29位の東陽町は、有名店を含む10店がひしめくパン激戦区。同率29位の辻堂は、「海が近いだけ」からショッピングモールが次々にできて便利な街になったこと、サーフィンマンションや移住家族の家を立て続けに訪れた映像が流された。
27位のたまプラーザは、「セレブが住む上品な街」のみ。同率27位の高円寺は、商店街、人情、味のある居酒屋さん、安い店が多い、今回の調査でコスパ部門1位、1着1,000円以下の激安古着店が多いなどがピックアップされた。
ちなみに、筆者は高円寺に住んでいるが、紹介した店はさまざまな番組に出続けてきた店ばかり。数年前から「コスパがいい」というだけの街から抜け出して、洗練された店が増えている。つまり、この番組がピックアップする「街のイメージや情報としては、ステレオタイプで、やや古いのかもしれない」と感じさせられた。
●“住んでみたい街”1位は鎌倉だが…
26位の立川は再開発が進み、ショッピングモールが多いため、「リトル新宿」と呼ばれていることをピックアップ。昭和記念公園、吉祥寺や八王子へのライバル意識、立川まんがぱーく、タチヒビーチなどが紹介された。
25位の武蔵小山はスルー。24位の笹塚は新宿と渋谷に近い割にはコスパがいい、商店街、惣菜店など。23位の豊洲は大型商業施設のみ。22位の元住吉は、高級住宅地の武蔵小杉と日吉の間で物価が安い、おしゃれなチェーン店が次々に出店しているなど。21位の麻布十番と20位の大宮はスルー。19位の西荻窪は、個人店が多い、人気ラーメン店、居酒屋が密集、若者の人気上昇でおしゃれなショップが増えたことなどが紹介された。
18位の新宿御苑前は「東京のセントラルパーク」こと新宿御苑など。17位の経堂はスルー。16位の大井町は商業施設、公的施設、レトロな飲み屋街、15軒以上の焼肉激戦区など。
15位のさいたま新都心はスルー。14位の下北沢は、新宿、渋谷、吉祥寺に電車1本で行けるアクセス、新旧入り乱れた個性的な街、看板そのまま居抜きショップ、家賃3万円の部屋に住む若者が「経営者を目指している」ことを明かし、“夢を追う若者の街”と締めくくった。
ここで趣向を変えて、“今後住んでみたい街ランキング”を紹介。その結果は10位が神楽坂、9位が自由が丘、8位が表参道、7位が麻布十番、6位が江ノ島・腰越・片瀬江ノ島、5位が恵比寿、4位が吉祥寺、3位が横浜、2位がみなとみらい・桜木町、1位が鎌倉だった。
しかし、今回の趣旨である“住んで良かった街ランキング”で鎌倉は131位。成田氏は「憧れって要は『間違っている』ってことなんですよね」とバッサリ斬り捨てたが、そもそも鎌倉に住んだことのある人が今回のアンケートにどれだけ答えたのか、疑わしいところがある。
○■長嶋一茂の出身地・田園調布は?
13位の仙川はスルー。12位の流山おおたかの森は、子育てが充実しているため全国1位の人口増加率であり、ショッピングモール、送迎保育ステーション、ファミリーサポートセンター、児童手当の助成などのサポート、さらに大型温浴施設が紹介された。
11位の聖蹟桜ヶ丘は、『耳をすませば』のモデル、牧場、移住者の家を立て続けに取材、物件の安さ、夕陽の絶景など。10位の武蔵小杉は、交通の便利さ2位、タワマン、ビル風などがピックアップされ、成田氏は「日本人が住む需要は減っていく。外国人の投資目的。パリも同じで地元民が苦しんでいる」などとコメント。ここでも歯切れのいい語り口で番組にスパイスを利かせていた。
9位の三軒茶屋、8位の横浜はスルー。7位の溝の口は、川を隔てた二子玉川より安い、昭和風味の飲食街、たまいグループ、出会った人とすぐに仲良くなれる街など。
6位のみなとみらい・桜木町は、「移住した」という88歳女性の家を取材。飲食店の充実部門2位、野毛に600軒の飲食街など。5位の越谷レイクタウンは、イオンレイクタウンで商業施設の充実度1位、デューク更家の無料レッスン、食べ放題天国。4位の藤沢は、江の島、コスパ部門3位、魚介の詰め放題、デカ盛り店などが紹介された。
ここでカウントダウンを一旦休んで、51位から100位までを一気に紹介。ランクインしなかった街の住人に対するフォローだろうが、その理由や獲得ポイントが明かされず、乱暴な印象が残った。納得感やリアリティを打ち出したコンセプトだけに、「ここにランクインした街」「ここにすらランクインしなかった街」の住人はモヤモヤを感じたのではないか。
案の定、一茂の出身地・田園調布はランク外。ただ、これも前述したように、「田園調布に住む人がLINEのアンケートに答えたのか」と疑わしいところがある。
3位の元町・中華街は、「観光地でありながら家賃相場が安い」という紹介のみで終了。2位のセンター北・南は、横浜の港北ニュータウンにあってグリーンラインとブルーラインが通る、大型商業施設・レジャー施設・公的施設のすべてがそろう、1㎞の間に10軒超のスーパーが並び立つなどがピックアップされた。
○■納得感は微妙でもエンタメ度は上々
最後に発表された1位は吉祥寺。都心へのアクセス、1㎞以内に1,000軒以上の店、井の頭恩賜公園などが挙げられ、「街と自然の調和で愛されている」などが理由として紹介された。
ただ、この結果を見て、「『ここに住んでいる自分が好き』『この街に住んでいることを人に言いたい』というような自己肯定感の高い人が多い街ほど上位に来るのではないか」と感じてしまった。
上位では、10位の武蔵小杉、9位の三軒茶屋、8位の横浜、6位のみなとみらい・桜木町、3位の元町・中華街あたりにも吉祥寺と似たものを感じさせられる。当番組は「印象や憧れではないリアルな声」が売りのランキングだったはずだが、上位に行くほど首をかしげてしまった。
このランキングは商業施設や飲食店の比重が高いのだが、たとえば「自分の住む街にあるより隣街や沿線にあるくらいのほうがいい」という人も少なくないだろう。結果的に、「“憧れ”と言われる街のランキングとそれほど変わらない結果だったのではないか」という印象が残った。
そもそも関東は大きく分けて主に、独身層に人気の街、ファミリー層に人気の街、両者が混在する街の3つがあり、異なる魅力がある。だからこそアンケートの回答者は独身者が多かったのか、ファミリー層が多かったのか、それとも、同じくらいなのか。その割合によって結果は異なるだろう。
ちなみに1位の吉祥寺が7,980ポイントで、50位の浦和が7,380ポイントと、その差が小さかったのはなぜなのか。この手のアンケートは項目や採点基準によって結果が大きく変わるだけに、その難しさを改めて感じさせられた。
今回の特番を見て納得感やリアリティを感じた人はあまり多くなかったのではないか。ただそれでも、ランキングというコンテンツは、いろいろ言いながら家族や友人たちと見たり、SNSで盛り上がったりできるエンタメ性が高い。
番組を通して、地道な現地取材と丁寧な編集は素晴らしかったし、交通や衣食住の情報を散りばめたバランスも上々。これだけ街の紹介をすれば、内容的にかぶってしまうものだが、たとえばグルメ1つとっても料理や店が似ないような構成が徹底されていた。『住んで良かった!街ランキング』は、今回の気づきや反省を踏まえつつ、年に一度程度の放送を期待したい。
○■次の“贔屓”は……初の2時間特番で明石家さんまも登場!『ワルイコあつまれ』
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、29日に放送されるNHK Eテレの教育バラエティ番組『ワルイコあつまれ』(21:00~)。
昨年9月に新しい地図が出演する特番としてスタートしたあと、今年1月1日の放送を経て、4月からレギュラー放送がスタート。香取慎吾の“慎吾ママ”が見られるほか、3人が『SMAP×SMAP』(カンテレ・フジテレビ系)以来のコミカルなキャラクターを演じている。
初のゴールデンタイム放送となる今回の特番には、明石家さんまや山本耕史らが出演するなど、その内容は豪華そのもの。新しい地図にとってこの番組はどんな意味があるのか。今後の可能性も含め、掘り下げていきたい。
※当初予定していた『イタズラジャーニー』は、日本シリーズ中継のため休止となります。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら