2022年10月24日19時17分 / 提供:マイナビニュース
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関西医科大学は10月21日、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ早産児(22週0日から36週6日までの出生児)の腸内細菌叢(腸内フローラ)の特徴について検証し、発達障害のない定型発達(TD)児のそれとは大きく異なることを発見したと発表した。
同成果は、関西医科大 小児科学講座の藤代定志助教、同・金子一成教授らの研究チームによるもの。詳細は、自閉症とその関連障害に関する分野を扱う学術誌「Journal of Autism and Developmental Disorders」に掲載された。
ASDは頻度の高い神経発達症の1つで、コミュニケーションや社会性の障害、反復的かつ制限的な行動などを特徴とすることが知られている。
また早産児は、運動や言語の発達、認知機能や行動発達に問題が生じるリスクが高く、注意欠如多動症やASDの発症リスクも高いとされている。ASDの一般的な有病率は2~3%程度だが、早産児では8%程度と約4倍も発症リスクが高くなるという。
ヒトの体内には約40兆個以上の細菌が存在し、そのうちの90%以上が腸内に存在している(腸内細菌の数は100兆~1000兆とする説もある)。そうした腸内細菌叢は、ヒトの腸管内でバランスのとれた群集として共存し、脂質、タンパク質、難消化性物質の代謝や、短鎖脂肪酸などの生産を行っている。
近年、次世代シークエンサーを用いた16SrRNA遺伝子解析により、腸内細菌叢の詳細な解析が可能となり、その結果として腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)が、さまざまな疾患の発症に関与することが明らかになってきた。また腸内細菌叢と脳機能の間には、「腸脳相関」と呼ばれる相互関係があることも知られ、腸内細菌叢が脳機能におよぼす影響も注目されている。
これまでの研究から早産児ではASD発症リスクがおよそ4倍ほど高いことが報告されていたが、その機序や早産児の中でもどのような子がASDを発症しやすいのかについては、よくわかっていないという。そこで研究チームは今回、早産児を対象として、ASD児におけるディスバイオーシスの特徴を明らかにすることを目的とした研究を進めることにしたという。
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具体的には、在胎37週未満で出生し、5歳時点でASDと診断された小児患者7例(ASD群)と、同じく早産で生まれたものの定型発達の小児9例(TD群)を対象に研究を実施。対象児から採取された便中の細菌DNAにおける16SrRNA遺伝子解析が実施され、腸内細菌叢の多様性と細菌構成についての検討が行われたほか、腸内細菌叢に直接影響を与える抗菌薬やプロバイオティクスの使用状況、偏食の有無などのアンケート結果や出生状況および出生後の治療も解析に加えられた。
その結果、ASD群ではTD群に比べて腸内細菌叢の多様性が高いことが判明したほか、ASD児の腸内細菌叢の構成はTD群と比較して、生物分類の門レベル(従来の7分類で上から2番目)ではFirmicutesが多く、目レベル(7分類の4番目)ではClostridiales目が多いことがわかった。
また、種レベル(7分類の7番目)ではRuminococcus gnavus、Bifidobacterium longumが有意に多く、Megasphaera speciesとSutterella wadsworthensisが有意に少ないことが判明。この中でも、Ruminococcus gnavusは腸管粘液の主成分であるムチンを分解して粘膜層を脆弱化することが報告されており、この作用により腸内細菌が血管内に入り込み、ASDの発症に寄与している可能性があるという。
なお、今回の成果について研究チームでは、腸内細菌叢の観点からASDの病因を解明することや、腸内細菌叢をターゲットとしたASDの新たな治療法の開発につながることが期待されるとしている。