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京大など、ベリリウムを含む化合物の特性を予測する「電子的記述子」を発見

2022年10月24日19時07分 / 提供:マイナビニュース


京都大学(京大)は10月21日、高融点・高剛性・高熱伝導などの優れた特性を有する、原子番号4番の軽元素「ベリリウム」を主成分とする金属間化合物の空孔生成や水素固溶に相関を持つ「電子的記述子」を明らかにしたことを発表した。

同成果は、京大 エネルギー理工学研究所の向井啓祐助教、東北大学の笠田竜太教授、量子科学技術研究開発機構の金宰煥博士、同・中道勝博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ構造を含む無機材料に関する全般を扱う学術誌「Acta Materialia」に掲載された。

将来的な非炭素電源として期待される核融合炉では、燃料生産を効率的に行うための「中性子増倍材」として、ベリリウムを主成分とする金属間化合物「ベリライド」を使用することが検討されている。同材料は極限環境で使用されるため、化学的に安定で中性子照射に強く、水素同位体を放出しやすい特性などが求められている。

触媒化学の分野では、dバンド中心(d軌道のエネルギー準位の中心位置)が化学的反応性を決定する電子的記述子(材料の電子構造の特徴を数値化した変数)として広く知られている。ある値で触媒活性が最大となる「Volcano plot」が得られるため、これを指針とした材料開発が行われてきたという。

このように特性と関連性の高い記述子が発見されると、データベースを活用した情報駆動型の材料開発が可能になり、新規材料の開発を効率化することが可能となるが、d電子を持たないベリリウムが主成分となる化合物の場合、どのような記述子が材料特性と関係性を持つのかはこれまで明らかにされていなかったとする。

そこで、今回の研究では、既存のベリリウム金属間化合物42種類を対象に、密度汎関数理論に基づく第一原理計算が実施され、「空孔生成エネルギー」と「水素の固溶エネルギー」が計算されたほか、電子で満たされた軌道の中心位置を「占有バンド中心」と定義し、各原子の各軌道に射影した部分状態密度からバンド中心が計算されたという。

具体的には、軟X線発光分光器が用いられ、4種類のベリリウム化合物(純粋なベリリウム、チタンとの化合物の「Be12Ti」、バナジウムとの化合物「Be12V」、ジルコニウムとの化合物「Be13Zr」)から発生するベリリウム-カリウム(Be-K)線の発光スペクトルの分析が行われたという。


ある元素をベリリウムに添加して金属間化合物化すると、六方最密構造から別の結晶構造に変わると同時に、電子構造にも大きな変化が生じる。たとえばBe12X(X:前期遷移金属)の場合、遷移金属のd軌道との混成により、ベリリウムの占有pバンド中心は右(高エネルギー側)にシフトする。

さまざまな記述子と空孔生成エネルギーの関係の分析が行われた結果、この占有pバンド中心は、ベリリウムの空孔生成エネルギーと強い相関を持つことが判明したとする。回帰式の当てはまりの良さ示す決定係数R2は0.85だったという。また、軟X線発光分光法により評価された占有pバンド中心は第一原理計算の結果とよく一致しており、同記述子は高い精度で実験的に評価できることが示されたという。

また、Be12Xにおける3種類の水素固溶位置(i1~3サイト)を対象に、これらの記述子と水素の固溶エネルギーとの相関が調べられたところ、占有pバンド中心は水素固溶エネルギーとも相関を持ち、バンド中心が高エネルギー側にシフトするほど、水素の固溶エネルギーが小さくなる傾向が示されたほか、ある程度高エネルギー側にシフトすると、それ以上水素の固溶エネルギーが変化しないことも判明。これは、占有pバンド中心が高エネルギー側にシフトするほど、水素の反結合性軌道への電子充填が減り、水素との結びつきが相対的に強くなることが理由と考えられるとする。

今回の研究では、密度半関数理論に基づく第一原理計算により、軽元素材料の特性と結びつきの強い電子的記述子が解明されたが、同記述子について研究チームでは、データベース上のバルクの結晶構造からただちに計算でき、実験的にも評価可能であるため、材料開発の設計指針として有用であることが考えられるとしている。

なお、ベリリウムは毒性があることから使用施設が限られていることに加え、核融合環境を模擬した実験(例:中性子照射試験)には一定の費用と期間を要する。情報駆動型の材料開発により、目的の物性と資源量のバランスを考えた材料設計を行うことで、核融合用のベリリウム機能材料の開発を加速させられることが期待されるという。また今後の研究では、さまざまな物性と強く関連した記述子の探索を進め、高機能なベリリウム化合物の開発に貢献したいと考えているとしている。

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