2022年10月24日18時39分 / 提供:マイナビニュース
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大阪大学(阪大)は10月21日、光の99.99%の速度で移動する電子ビームの周りに形成される電場の時空間分布を計測し、100年以上前にアインシュタインによって予言された「電磁気における特殊相対性理論」を直接的に実証することに成功したと発表した。
同成果は、阪大 レーザー科学研究所(ILE)の中嶋誠准教授、阪大 理学研究科 宇宙地球科学専攻の太田雅人大学院生(現・ILE 特任研究員)、阪大 産業科学研究所の菅晃一助教、関西大学の浅川誠教授、三重大学大学院 工学研究科の松井龍之介准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の物理学全般を扱う学術誌「Nature Physics」に掲載された。
アインシュタインが1905年に発表した「運動物体の電気力学について」という論文において、2つの相対性理論のうちの「特殊相対性理論」が提唱された(「一般相対性理論」の提唱は1915年)。その内容は、“光に近い速度で移動する物質は、時空の歪みの影響を受ける”というもので、その後、同論文で述べられた“時間の遅れ”や“静止質量”といった物理現象は、多くの研究者によって実験が行われ、検証済みとなっている。
しかし、論文のタイトルにある「電磁気」における特殊相対性理論の直接的実証に成功した研究報告はいまだに存在しないという。2015年に初検出された重力波も「アインシュタインが残した宿題」と呼ばれていたが、まだ論文のタイトルにも関係する大きな宿題が残されていたのである。
荷電粒子が生成する電場は、放射場とクーロン電場に二分することが可能で、放射場は、荷電粒子が軌道を曲げるなどの加速度運動を行う際に生成される。それに対してクーロン電場は、荷電粒子が静止していても移動(等速直線運動)していても、常に荷電粒子の周囲に生成されることが知られている。
高エネルギー電子ビームが生成するクーロン電場は、近年ではビーム診断などの応用面で研究されてきたが、相対論的クーロン電場の本質に迫る基礎的な研究は行われていなかった。そこで研究チームは今回、今まで行われて来た間接的な検証とは一線を画す、相対論的クーロン電場の時空間分布のスナップショット計測を行い、クーロン電場の相対論的性質を直接的な実験手法で明らかにすることにしたという。
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相対論的クーロン電場は、光に近い速度で移動する電子ビームに付随するため、それに追従するための超高速な電場計測が必要となる。そこで用いられたのが、テラヘルツ物理学で用いられて来た超高速電場計測手法「電気光学検出」だという。
今回の研究では、線形加速器で生成された高エネルギー電子ビームの周囲の電場における時空間分布を、ピコ秒の時間領域で計測。そして理論的に予想されていた、クーロン電場が電子ビーム進行方向に収縮した様子(電場の平面波)を可視化することに成功。これは「電磁ポテンシャル」のローレンツ変換の実証に対応していると研究チームでは説明する。
時間の遅れや静止質量という物理現象は、それぞれ、前者が「時間・空間」、後者が「エネルギー・運動量」のローレンツ変換から予想されたもので、今回の研究では、さらに金属境界を通過した電子ビーム周りの相対論的電場分布の発展を調べることで、平面的な電場の収縮がどのように形成されるのかも明らかにされた。
この電場分布の発展は、電子ビームの金属境界通過点を中心とする球面波として自由空間を広がるというもので、この球の半径と金属境界からの電子ビームの伝搬距離は一致するため、ビーム軸周りの電場分布に着目すると、その曲率はビームの伝搬と共に小さくなり、やがて球面は平面となるという。この実験結果は、「リエナール・ヴィーヘルト・ポテンシャル」と呼ばれる、電磁ポテンシャルのローレンツ変換とは異なる手法で導出された相対論的電場を記述する理論を実証しているという。
なお、実験で行われた特殊相対性理論の可視化はほかに類を見ず、相対性理論の最も直接的・直感的な実験結果の1つであるといえると研究チームでは説明しているほか、今回の研究で用いられた電場時空間分布の超高速計測は、理論の実証に留まらず、さらなる超高速・高エネルギー現象の研究を行う上でのプラットフォームになり得るとしている。