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『100分de名著』秋満吉彦P、名著×講師×伊集院光が起こす「ビッグバン」 100分であえて残す“問い”

2022年10月24日15時00分 / 提供:マイナビニュース

●いま起こっている問題と直結するものを読み解く
注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、NHK Eテレ『100分de名著』(月曜22:25~)の秋満吉彦プロデューサーだ。

難解で手に取ることをためらったり、挫折してしまう1冊の「名著」を、25分×4回=100分で読み解いていく同番組。現在の問題と直結するテーマの本を相当前から決める苦労や、深夜ラジオ並みに内面を語る司会・伊集院光の魅力のほか、名著に導かれるように歩んできたテレビマン人生を語ってくれた――。

○■番組が継続する視聴率以外の理由は…

――当連載に前回登場した元テレビ朝日・東宝プロデューサーの山田兼司さんが、秋満さんが手がけられている『100分de名著』について「テレビはフローのメディアですが、ストックのパワーもあって、下手な教科書よりも素晴らしいなと思ってます」とおっしゃっていました。

素晴らしい視点ですね。外部からの指摘で自分でも気付かなかった魅力に気付かされた感じがします。

――また、「カミュの『ペスト』の回はコロナ前に予言していたかのようで、あんなに難しい本をあんなに噛み砕いて分かりやすく伝えるのが素晴らしいと思っています」とも。

最初の放送はコロナの2年前くらいだったんですよね。緊急事態宣言下に再放送をしたら本放送より反響がありました。『ペスト』はパンデミックものですが、原発事故や全体主義の問題などいま私たちが置かれている状況にできるだけ解釈を広げて普遍的に扱ったんです。再放送の後に伊集院(光)さんと「あんだけパンデミックの問題からずらそうとしたのに、改めて新型コロナ禍の最中にみると、今のこと書いてあるとしか思えないよね。解説もそれにつながっていて名著ってホント恐ろしいね」って話しました。過去に作ったものを改めて見て驚いたという。そこを注目していただいているのは、さすが山田さんです。

――そもそも秋満さんが『100分de名著』に関わるようになったのはいつからですか?

僕は立ち上げメンバーではなく、2014年の7月から担当になりました。もともと『超訳ニーチェの言葉』とか『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』のような、名著を軟らかく噛み砕いて一般の人にも読みやすくする本がベストセラーになって、それをテレビでもできないかというのが企画の始まりだと聞いています。それで2010年に『一週間de資本論』というパイロット版がつくられたんです。ちょうど教養番組の切り替えの時期だということもあって、月替わりのシリーズにしたら後継番組としてなんとか成立するんじゃないかとスタートしたそうです。最初はもういつ終わってもおかしくないくらいの視聴率だったと前任者から聞いています(笑)

――それでも10年を超える長寿番組になりましたね。

もちろんいろいろな要因があるんですけど、ぶっちゃけるとその理由のひとつに、歴代の教養番組の中で最もテキスト(※)が売れたからというのがあるんですよ。テキストはしばらく書店に並んでいることが多いので、それをきっかけに番組の名前を知ってくれる視聴者もかなりいたそうです。

(※)…番組と連動して出版される書籍。

――ああ、なるほど!

僕は視聴者として見ている頃から大好きで、自分がやるなら絶対に長寿番組にしたいという気持ちがあったので、自分なりにコンセプトを作ったんです。それまではどちらかというと世界文学全集に出てくるような名著を丁寧に分かりやすく解説する伝統的な教養番組というイメージだったんですけど、僕は「名著は現代を読む教科書である」というキャッチフレーズを勝手につけて、いま現在起こっている問題とダイレクトに直結するものとして読み解くようにしました。先ほどの『ペスト』もそうでしたけど、普遍的な名著ってあたかも予言したかのごとく、いまの状況にぴったりなことが書かれているんです。そんな視点を大事にして、毎回名著を選んでいます。

11月7日スタートでアンコール放送されるル・ボン『群衆心理』も、「権力やメディアが群衆心理をいかに操るかという手口」や「人はなぜ陰謀論を信じてしまうのか」といった、まさに今起こっていることを分析した名著です。ぜひ多くの皆さんにご覧いただきたいですね。

●久米宏が「レギュラー番組を降りようと思った」きっかけに
――これまでの反響で驚いたことは何でしょうか?

伊集院さんのラジオ(TBSラジオ『伊集院とラジオと』)にゲストに来たスタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんが、石牟礼道子の『苦海浄土』を取り上げた回を見ていたく感動してくれて「あれを見てアニメ化したいと思った」と言ってくれたり、『久米宏 ラジオなんですけど』(TBSラジオ)の最終回に伊集院さんがゲスト出演した際に、久米さんが「ラジオのレギュラー番組を降りようと思ったきっかけのひとつが『100分de名著』を見たことだ」っておっしゃってくれたりしました。久米さんは能楽師の安田登さんが講師を務めた『平家物語』の回を見てくださったそうなんですが、安田さんは朗読もご自身でやられたんです。久米さんはその朗読に驚いたそうで。実は安田さんは久米さんの番組にもゲストに来ていたんだけど、その本当のすごみを自分は引き出せなかったと。もちろんリップサービスが入っているとは思いますけどね。

爆発的な視聴率はないですけど、業界の重要な方々が熱心にご覧になってくださっているのも、生き残っている理由のひとつかもしれません。

――名著選びの難しさはありますか?

先ほど言ったとおり、現在起こっている問題とダイレクトに直結するような本を選ぶんですけど、難しいのはテキストの執筆があるということ。放送前月に刊行されるので、当然それまでに執筆していただかなければならない。その準備期間を考えると、だいたい1年前にネタを仕込んで、企画は最低8カ月前には決めなければならないんです。

たとえば、アメリカで白人の警察官が黒人の方を死亡させた事件をきっかけに「ブラック・ライヴズ・マター」という運動が起こりました。「この問題を考えるヒントになる名著を取り上げねば!」と思ったんですが、今から企画しても放送はどんなに早くても7~8カ月後になってしまう。放送される頃には運動も沈静化しているかもしれないと思ったんですが、差別問題は普遍的なものなので、あまり知られていない本なんですけどフランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』を取り上げました。そしたら放送前からテキストが増刷されるほど反響を頂きました。ちょうど、元首相の女性差別発言騒動や大坂なおみ選手が人種差別に抗議を続けている時期と重なったんです。どうやったら普遍的なテーマになるかを限界ぎりぎりまで考え抜いてやれば、多少タイムラグがあっても見てもらえるんだって勇気づけられました。
○■伊集院光に感じる「天性の地頭の良さと直感力」

――講師選びの基準はどのようにしているのですか?

研究者として優れているからといってこの番組に適しているわけではないんです。やっぱり伊集院さんという存在がいて、いまは安部みちこアナウンサーという司会がいる。その2人と講師の方との響き合いが起こったときに面白くなるんですよ。僕はそれを「語りの空間」と呼んでいるんですが、良いことを言って終わりではなく、応酬と響き合いが起こったときに視聴者を巻き込めるんですよね。

だから、実際に何度もお会いして、自分の論を語るだけではなく、相手からも引き出せるし、どんな変化球でも受け止められて「語りの空間」を立ち上げられる人かどうかを見極めて決めています。

――伊集院さんにはどのタイミングで題材を伝えるのですか?

伊集院さんは番組を引き受ける際に「自分は読まずに行きたい」とおっしゃったそうです。視聴者代表として何も知らない立場で臨まないと、視聴者を置いてけぼりにしちゃうと。だから収録の1時間くらいに初めて台本を見せます。しかも、伊集院さんのセリフの部分はほぼ「(感想)」としか書いてない(笑)。その打ち合わせのときに、概要を聞いて、この話にこのエピソードはハマるかな?って僕らに確認するんですけど、だいたい当たっていて、天性の地頭の良さと直感力のすごさを感じます。あと、ラジオなどでいろんな人と話をしているから引き出しも多いし、それが即座に出てくるんですよね。

――この番組は伊集院さんが深夜ラジオ並みに内面も語っていますよね。

そうなんです。ご本人が「俺、こんなこと言ってけど、深夜ラジオでも言いませんよ」っていう回が何回もありますから。ご自身がひきこもっていた時期の生々しいエピソードも赤裸々に話してくださり、それがまた胸に迫るような内容で、本当に感謝しています。

――最初の解説VTRを見た後に「わっかんないなー」みたいに伊集院さんが言っていると、「あ、当たりの回だ!」って思います。

そうそう、途中で突然「今、ちょっとわかりました!」ってスイッチが入ったように独自の解釈をしていくんですよね。伊集院さんはご自身で「無知との遭遇」って表現してますが、普段は頭のいい学生たちに囲まれている先生に、ご自身いわく「中卒で何の教養もない自分」が突拍子のない質問を投げかけると、“ビッグバン”が起こる。それがこの番組の醍醐味だとおっしゃっていて、そのとおりだと思います。伊集院さんの解釈で「論文が1本書ける」とおっしゃった先生もいらっしゃいました。

――伊集院さんと講師の方と解釈がぶつかることも、よくありますね。

そうですね。僕らの番組でよく誤解されるのは『100分de名著』というタイトルのとおり、どうせいいところだけ噛み砕いてたった100分でわかるみたいにしてるんでしょって。そんなの本を読んだことにならないと。でも、そうではなくて、いろんな解釈が出ることで、ちょっと“問い”が残るんですよ。全部わかったでは終わらない。なんかモヤモヤとか疑問とか、この先どうなるんだろうとか、そういうものをあえて残しているんです。

●“究極のマンガマニア”たちに打ちのめされた番組
――最近では「夏休みスペシャル for ティーンズ」と題して、加藤シゲアキさんを司会に起用していますね。

やっぱり若い人たちに興味を持ってもらいたいなと。でも、単に若い人に人気があるってだけではダメですよね。その点、加藤さんは小説を書いているのはもちろん、舞台の演出もやられている。実際お会いしたら、やっぱりアクセサリー的に小説を書いているわけではなく本気で純文学に取り組んでいることがわかったし、すごい才能だなって実感しました。番組でもあけすけに自分の体験を語ってくれて、素晴らしかったですね。朗読も『鬼滅の刃』の声優の花澤香菜さんと下野紘さんにやってもらって、間違いなく視聴者層を広げてくれました。

――特別編として手塚治虫や萩尾望都、水木しげるなどマンガも取り上げていますね。

4人がクロストークする『100分de幸福論』から始まったシリーズの一環でマンガも取り上げているんですが、結構若い人が見てくれているみたいですね。7月に放送した「100分de水木しげる」では、Twitterなどでもすごい反響がありました。「語りの空間」の複雑バージョンで4人が絡み合いながら、作品や作者の魅力が立体的に立ち上がっていって、僕も水木しげるは元々好きだったんですけど、こんなに深いんだって発見がありました。みなさん、熱量がすごくて、なんか目から火が出てるみたいで(笑)

――マンガをじっくり取り上げるという点では、秋満さんも関わられていた『BSマンガ夜話』と通じるところですよね。

自分のディレクター人生の中でも印象的で、今につながっている番組ですね。不定期の放送で純粋なレギュラー番組ではなかったのですが、僕は合計10本くらいやりました。“究極のマンガマニア”であるいしかわじゅんさん、夏目房之介さん、岡田斗司夫さんを中心にひとつの作品について語るんですけど、こんなに深く読めるんだって、「俺、浅かったわ」って毎回打ちのめされる感覚でした。作品を深く読み込む秘けつみたいなものを学ばせていただきましたね。間違いなく自分の原点のひとつです。

――中でも印象的な回はありますか?

大好きだった『ガラスの仮面』の回に、ゲストとして荻野目慶子さんに来てもらったんです。そしたら「私、(主人公の)マヤだったんです」って。それで普段あまり明かさないようなご自身のエピソードを語ってくれてました。マンガと実人生をここまでリンクさせている人はいないんじゃないかって驚きましたね。彼女の“自分語り”によって作品自体の魅力も豊かに膨らんでいく印象的な回でした。
○■『夜と霧』『モモ』…名著が人生を導いてくれた

――秋満さんはどうしてテレビの世界に入られたのでしょうか?

大学時代は哲学を勉強していて研究者になりたいと思っていたんですけど、そこまで経済的に余裕のある家ではなかったので、そろそろ就職しろというプレッシャーもあって、どうしようか悩んでいたんです。それが顔に出ていたのか、同じゼミの女の子が「この本読んだら良いんじゃないですか」とフランクルの『夜と霧』を薦めてくれて。そこに自殺をしたいという人が相談に行くというシーンがある。彼らにフランクルはたった一言だけ言うんです。「あなたには待っていることや、待っている人はいませんか」と。その一言で、それまで自殺しか考えられなかった人たちが、それぞれに大切な人や仕事のことを思い出し、自殺を思いとどまるんです。つまり自分中心で考えると、人は簡単に「もうダメだ」って折れてしまうけど、誰かのために生きようと決めると、人生の見方が180度変わる。人は人生の意味を考えてしまいがちだけど、あなたが人生から問われているんだと、フランクル本人から直接叱られているように思えて。ガーンと頭を殴られた感じがしました。

そこから、今まで自分のやりたいことは何かって考えていたけど、自分が求められていることはなんだろうって思い始めて、先生や先輩たちに聞いてみたら、「お前は話を聞くのが上手い」「お前にだとなんか本音を言っちゃう」って自分で気づいてないことを言われたんです。そこで、自分の聞く力を生かせるのはどこだろうと思い当たったのがマスコミでした。フランクルの著作に出会っていなかったら、いま自分はここにいません。

――NHKは地方局への転勤があるのが特徴ですが、その中で印象的な仕事は何ですか?

福岡や長崎、千葉などと東京を往復するように転勤をしているんですけど、一番心を揺さぶられたのは新人2年目で福岡局に勤務していたときのことです。1991年6月3日の雲仙・普賢岳の火砕流災害で43人の方が亡くなってしまいましたが、同時期に被災地にいたんですよ。被災者が避難している仮設住宅を取材しようと決意したものの、新人2年生なのでどうやっていいかわからない。そのとき、夜になると現実逃避するようにミヒャエル・エンデの『モモ』を読んでいたんです。

モモは何もしゃべらない。その代わり、モモが話を聞くとその人が元気になる。それでハッとして、とにかく徹底的に話を聞こうと思って、100軒くらいしらみつぶしに聞いていって、仮設住宅の地図に1軒1軒状況を書き込んでいきました。周りからはあきれられたんですけど、信頼する先輩からは「お前がやっていることはすごく非効率だけど、これが本当の取材だ。取材相手一人ひとりに丁寧に寄り添う姿勢を絶対に忘れるな」って言われて、深く心に刻んだのをよく覚えています。まさに『モモ』という名著に助けられて、取材する姿勢の原点をつかむことができた貴重な体験でした。その姿勢は『100分de名著』で講師の方に取材するときも心がけてます。

――人生の節々に名著の存在があるんですね!

こうした体験を積み重ねる中で、最終的に名著に導かれるように天職のような番組に就かせてもらえたなと深く感謝しています。

●テレビが持つ「人々の人生を巻き込む力」
――YouTubeやネット配信が盛り上がってきている中で、テレビの役割は何だと思いますか?

YouTubeやTikTokを見て思うのは、瞬間的に人の心を引く力は圧倒的だなと思うんです。しかも短い時間で通勤時間とかにスマホで気軽に見ることができる。その快感を1回味わうと離れられないのはよくわかります。NetflixやAmazon Primeの作品を見ても最初の数分でクライマックスが来て惹きつけている。そういう素晴らしい部分は当然学ばなければならないと思うんですけど、一方で、一瞬の快楽を追い求めると負けてしまうと思うんですよね。

テレビに残された可能性があるとすると、それは人生を変える力があるということだと思うんです。僕がそれを実感したのは、島津有理子(元NHKアナウンサー)さんがNHKを退職したことです。彼女は2012年度と、2017年度から2018年度9月まで『100分de名著』の司会を務めてくれていたんですけど、番組で『生きがいについて』を読んだことがきっかけで、自分の本当の生きがいってなんだろうと深く考えたそうです。その後、いろんなご縁が重なり、最終的に小さい頃からの夢だった医者になるためにNHKを退職しました。

この出来事によって番組の影響力の大きさを思い知らされました。人生を変えるくらいのインパクトを持っているのがテレビなんだなあと。テレビ屋が時間をかけて綿密に練り上げた“ストーリー”には、人々の人生を巻き込む力が確実に生まれる。テレビに可能性あるとしたらそこではないかと、いま実感しています。

――今後どんな番組を作っていきたいですか?

「テレビ屋の声」という連載で言うのもなんですけど、ラジオを作ってみたいんですよ。情報があふれている時代に、いまだに音声だけで手足を縛っているように見えて、実は一番受け手と親密になれるのがラジオかなって。本や文化をゆるく語るようなラジオ番組を作ってみたいです。やりようによっては、とんでもない可能性を秘めているメディアだと思いますね。
○■“問い”を見つける大切さを教えてくれた『ガンダム』

――そんな秋満さんが影響を受けた“この番組”というと何でしょうか?

2つあるんですけど、1つはアニメ『機動戦士ガンダム』です。中学3年のときに見て、圧倒的に世界観を変えられましたね。どっちが正しいのかわからない悪と善の相対性。善の中にも悪があるし、悪の中にも善がある。あと、大人の怖さ、ズルさ、汚さ……すべて学びました。それでも富野由悠季という監督は、人間が変わりうるというのを信じていて「ニュータイプ」という新しい人類像を出す。すごい可能性も見せてくれるんだけど、それをまた続編で全部潰していく。結局「ニュータイプ」は戦争の武器にしかならないんだ、と。結局、何を言おうとしてるんですか、富野さん!って(笑)。世界を複眼的にみる視点、正解ではなく“問い”を見つけていくことの大切さを富野さんに教えてもらいました。『ガンダム』を見ていなかったらこの業界にはいなかったかも。いまもトークイベントにも行くくらいのファンです。

もう1つは70年代後半から80年代前半にかけてNHKで放送されていた『ルポルタージュにっぽん』です。『ルパン三世』の音楽も作曲した大野雄二さんがめちゃくちゃカッコいいテーマ曲を作っていて、寺山修司が競馬場に集まる人々のことをリポートしたり、ボブ・ディランが来日したときのファンの様子を村上龍が取材したり…と鋭い感性をもつ人物が社会現象を寄り添いながらリポートするすごい番組でした。その中で、ピンク映画の舞台裏を中西龍さんというNHKの名物アナウンサーがリポートした「ひとはピンクと言うけれど もうひとつの日本映画」という回が特に印象に残ってます。若き日の山本晋也監督とかアナーキーでめちゃくちゃカッコいいんですよ。世の中から「いかがわしい」と見下されているものたちが抱いている高い志、その“いかがわしい”現場を生真面目なNHKアナウンサーにリポートさせることでテーマをくっきりと浮き上がらせていくという逆張りの発想。たった1回きりの番組なのに鮮明に覚えています。今でも発想がマンネリに陥りそうなときに思い起こす番組ですね。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”を伺いたいのですが…

『進め!電波少年』を担当していたプロデューサーの土屋敏男さんです。特に、猿岩石の「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」「なすびの懸賞生活」など、すごくよく覚えています。『電波少年』は、ジャンルとしては「バラエティ番組」なんでしょうけど、僕は、「新しい形のドキュメンタリー」だと当時思っていました。「リアリティショー」という言葉は今でこそ定着して、ありふれた手法となっていますが、当時の日本では誰も試みていなかったのではないでしょうか。

人が極限状況に追い込まれたとき、どんな感情や表情をみせるのか? テレビ側があえてその状況を仕立て上げ、そこに人間を放り込む。いろいろと問題含みの番組でもありましたが、リップサービス抜きで、若き日の僕が、手に汗を握りながら毎回テレビ画面にくぎづけになった数少ない番組です。このたび、日テレを辞められ、新会社を立ち上げられるとお聞きしましたが、土屋さんの“次の一手”、ぜひお聞きしてみたいです。

次回の“テレビ屋”は…

元日本テレビ・土屋敏男氏

戸部田誠(てれびのスキマ) とべたまこと ライター。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。』などがある。最新刊は『売れるには理由がある』。 この著者の記事一覧はこちら

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