2022年10月21日18時14分 / 提供:マイナビニュース
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理化学研究所(理研)、東京電機大学(電大)、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)の3者は10月20日、ガラスと水の電気的相互作用を利用し、圧力で水を流すことで電力発生可能な圧力駆動型の小型発電機を開発したことを発表した。
同成果は、理研 生命機能科学研究センター 集積バイオデバイス研究チームの田中陽チームリーダー(研究当時)、同・ヤリクン・ヤシャイラ客員研究員(NAIST 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 生体プロセス工学研究室 准教授兼任)、電大 未来科学部 ロボット・メカトロニクス学科の釜道紀浩教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
環境発電(エネルギー・ハーベスティング)技術において、歩行などにより発生する圧力(振動)を利用した振動発電が注目されている。しかし、従来の電磁誘導は小型化が難しく、圧電素子では歩行のような遅い動きでは効率が落ちるなどの課題があった。
そこで研究チームは今回、水とガラス流路壁の電気的相互作用を利用し、流路に圧力をかけて水を流し、水を水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)に分離することで、電力を発生させることを着想したという。この仕組みなら水がある限り発電が持続するため、歩行のような遅い動きでも十分に電力を発生させることが可能だとする。
ガラスで微細流路を作製して圧力で水を流せば、水中では負に帯電するというガラスの特性でH+は流路に入りやすくOH-は入りにくいため、イオンの分離が生じる。ここで流路の入口と出口をワイヤーで接続すると、電流が流れるというのが今回の発電機の仕組みであり、残った水は再び一定の割合でイオンの電離が生じるため、水を流路に戻せば繰り返し発電が可能だという。
電圧は圧力に、電流は流路数に比例するため、その積である電力を高めるには耐圧性の高い多数の流路を集積する必要がある。それを実現する発電機のデザインとして、円形状の微細ガラスフィルターを作製してゴムパッキンを装着し、耐圧性能の高いホルダーに組み込むという方法が検討された。フィルターの上下にはメッシュ状の電極が取り付けられ、外部の測定機にワイヤーで接続。広い面積から電流を回収できる構造とされた。
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集積流路は、作製が容易で圧力耐性も高い粉末状のホウケイ酸ガラスが用いられた。粉末のすりつぶし時間と焼成温度で、H+の流路となるガラスフィルターの細孔径が変化するため、複数の条件が試されたところ、定速(50mm/s)の水の流速で、最も電力が大きくなるのはすりつぶし時間5分(平均細孔径12μm)、焼成温度700℃であることを確認したほか、そのときの電圧は27V、電流は0.14mA、電力は0.8mWで、発電効率は0.021%であることも確認したという。
また、環境発電の実証を兼ねて、コンデンサを用いた蓄電回路を構築し、足踏みにより発電させ、各種電子デバイスを駆動させる実証実験を、ガラスフィルターの焼成温度は700℃で固定、すりつぶし時間を変える形で実施。その結果、電圧は先の試験結果に近い発生傾向となったが、水の流速が足踏みなので定速でないため、発電持続時間には大きな違いがあり、目の細かいフィルターほど長くなったという。その結果、電力に発電持続時間をかけたエネルギー量では10分(平均細孔径8μm)が最大となり、発電性能は電圧18V、電流0.26mA、電力4.8mW。そして持続時間は1.7秒、エネルギーは6.8mJ、発電効率は0.017%となったとする。
さらに平均細孔径8μmのフィルターを用いて、3種類のアプリケーション実証実験が行われた。1つ目はLED点灯実験で、小型のLED(3.3V以上で点灯)が、プレス中は点灯し続けることが確認された。2つ目の小型ファンの回転実験では、50回のプレスでコンデンサに5.2V蓄電し、スイッチを入れた瞬間に1秒近く回転することを確認。そして3つ目のワイヤレス通信実験は、コンデンサに0.2V以上の電圧が溜まれば自動的にシグナルが送信機から3m離れたPCに送られるもので、2回のプレス後に、モニター上で受信を確認できたという。研究チームによると、今回はプロトタイプとして比較的大型になっているが、原理的にはさらに小さく、靴の中に仕込める程度のサイズにすることも可能だとしている。
なお、今回開発された発電機は、歩行中の電子デバイスの無電源駆動や椅子やベッドでの人の動きの検知などゆっくりした動きを効率的に用いた環境発電としての利用が効果的だと研究チームでは説明しており、IoTへの応用では、歩行や椅子・ベッドなどでの人の動きを常にセンシング・通信してモニタリングするための健康管理デバイスなど、さまざまなシーンでの利用が期待できるとしている。