旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

東大、運動の上達で脳内で情報が上流から下流へと引き継がれることを発見

2022年10月20日17時51分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)は10月19日、自発的もしくは外的刺激という2つの異なった文脈に基づいて同じ運動を開始する課題を行っているマウスの脳活動を、前頭葉前方に位置する「高次運動野」(M2)とその後方に位置する「一次運動野」(M1)において単一細胞レベルで詳細に測定した結果、M2浅層部の神経細胞は文脈情報という抽象度の高い活動を、M1深層部の神経細胞は具体的な動作と一致した抽象度の低い活動を安定して示すのに対し、その中間に位置するM1浅層部の神経細胞や高次運動野から一次運動野へと入力する神経細胞では、個体の運動成績の向上に伴い、抽象度の低い活動から高い活動へと動的に変化することを発見したと発表した。

同成果は、東大大学院 医学系研究科の寺田晋一郎助教、同・松崎政紀教授、生理学研究所の小林憲太准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。

ヒトの動作は、自発的に開始する「内発性」と、視覚や聴覚などの感覚刺激によって開始する「外発性」とに分けることが可能とされており、この両者は、これまでの研究から脳内での情報処理経路が大きく異なることが想定されていたという。また、前頭葉のM2では各開始信号依存的な神経活動が見られていたのに対し、その後方のM1では同一の活動が生じることもわかっていた。これは前方から後方へ向かうに連れて、処理する情報が抽象的な内容から具体的な動作へと移り変わっていくということだという。

ただし、領野間で実際にどのような情報が送られているのか、どのようにして異なった活動は同一の活動へと収斂するのか、またそれらは個体の学習状況に依存するのかといったことは、依然として不明だったという。そこで研究チームは今回、マウスに対し、自発的、もしくは音キューに応じてレバーを引くことで報酬を得られるという、内発性・外発性の運動課題を行わせることにしたとする。


具体的には、理学および光遺伝学により神経活動の抑制が行われ、M2とM1の課題への関与に対する調査が行われたところ、M2もM1も課題遂行に必要だが、運動を開始した後ではM1へと運動実行機能は移行しており、2領野が階層的に情報処理を担っている可能性が示唆されたとする。

また、M2とM1の相互作用の状況を調べるため、独自開発した「超視野2光子顕微鏡」によるカルシウムイメージングにより、両領域の浅層部の活動が調べられたところ、内発性・外発性という開始信号の差異に応答する神経活動の存在が確認されたという。

さらに、領野間の伝達情報を詳しく調べるために、周辺の関連領域も含めてM2への入力からM1の出力までの網羅的な計測が実施され、機械学習を用いたデコーディング解析によって、各構造が集団レベルで持つ、運動開始が内発性か外発性かという情報を、「文脈依存性」として定量化が行われた。その結果、M2浅層部は常に高い文脈依存性を、M1皮質脊髄路細胞は常に低い文脈依存性をそれぞれ示したとする。それに対し、M2からM1へと投射する軸索や、M1浅層部の細胞の文脈依存性は実験日間や動物間で大きくばらつくことが判明したともする。

加えて、そのばらつきについて詳細な解析が実施されたところ、両構造における文脈依存性が高くなるほど、成功率や音への反応時間といった課題成績が良くなっていたことが判明したほか、M1浅層部の文脈依存性が高くなるほど、レバーを引く速度や時間、レバー軌道の再現性など運動の巧緻性が向上していたとする。個々の細胞レベルで見た場合、運動巧緻性が高い時には、M1浅層部では高い文脈情報と高い運動情報の両方を持つ細胞が増加していたとのことで、集団レベルでの高い文脈依存性と運動巧緻性の連動した増加が生じていたことが考えられるという。

一方で、このような活動の再編成がM1浅層部で起きていた際にも、同時に計測を行っていたM2浅層部の細胞では、集団レベルや個々の細胞レベルでも情報表現に大きな差異は生じておらず、その下流で、各文脈に特化して運動指令を生成する細胞群が再編成されることで、高い運動機能が実現したと考えられるとしている。

今回の研究成果は、大脳皮質の適応力の高い情報処理能力を示すもので、ほかの脳領野においても一般的に見られる現象の可能性があると研究チームでは説明しており、今後、さらなる研究が進むことで、脳を模倣した高性能な人工知能アルゴリズムの開発に寄与する可能性があるとするほか、内発性・外発性運動のメカニズムを解明することは、パーキンソン病の理解にも重要であり、新たな治療方法への発展も期待されるとしている。

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る