2022年10月20日11時21分 / 提供:マイナビニュース
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大阪公立大学(大阪公大)は10月18日、Ca・Mg・Feなどを含む輝石の一種「単斜輝石」のFeイオンの状態を、薄片結晶を使った「メスバウアー分光法」を用いて調べたところ、Ca含有量が50%程度の単斜輝石の結晶においては、ポジション「M1席」にあるFeイオンのメスバウアーピーク比を決めるテンソル値(3×3の行列で表される物性値)がFeの含有量とは無関係に一定で、Ca固溶量によって変化することを明らかにしたと発表した。
同成果は、大阪公大大学院 理学研究科の篠田圭司教授らの研究チームによるもの。詳細は、日本鉱物科学会が刊行する欧文学術誌「Journal of Mineralogical and Petrological Science」に掲載された。
輝石は化学組成が(Ca,Mg,Fe)SiO3と表現されるように、Ca・Mg・Feなどを含む主要な珪酸塩鉱物で、多くの岩石に含まれている。その物性を明らかにすることは、輝石の高い存在量から、岩石鉱物研究において大きな意義があると考えられているという。
また、鉱物の構成原子が各々どのような状態であるかを調べることは、その物質を理解するためには必要不可欠だとする。中でも、岩石鉱物に普遍的に存在する鉄の価数(Fe2+とFe3+)とその量比は、鉱物生成時の地下での環境や、鉱物生成後の地表での履歴を知るという理由で、極めて重要な情報とされる。
主要な珪酸塩鉱物中で鉄イオンは、酸素イオン6~8個に囲まれた位置に存在し、このような位置はMetalの頭文字を取ってM席と呼ばれており、輝石の結晶構造中には2種類のM席があり、それぞれM1席、M2席と呼ばれているという。
今まで、輝石のM1席を占めるFe2+のメスバウアースペクトル比を決めるテンソル値は、特定の固溶成分においては明らかになっていたが、輝石固溶体全体では、テンソルの各成分がどのように変化するのかは不明だったという。固溶成分が変化したとき、テンソル成分がどのように変化するのかがわかれば、どのような成分の輝石をメスバウアースペクトル測定しても、信頼のおける解析が可能になるとされている。
メスバウアー分光法は、Coの放射性同位体「57Co」が、Feの安定同位体「57Fe」に放射壊変する際に発生する、14.4keVのガンマ線を用いた分光法で、吸収スペクトルの違いにより鉱物中のFeイオンの状態を知ることが可能だという。このガンマ線は輝石の結晶構造中のFeイオンにより吸収され、そのメスバウアー吸収スペクトルは1対(2本)の吸収ピークとなる。2本の吸収ピークの総強度を分母に取り、高速度側のドップラー速度の吸収ピークの強度を分子に取った値が、メスバウアーピーク比と定義されている。
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今回の研究では、輝石の結晶軸に対し、どの方向からガンマ線が入射しているのかを正確に定めることが最も重要だったという。同じ結晶でも、薄片の向きによって吸収ピークの値が大きく変化するからだ。そのため研究チームはまず、輝石のX線回折実験を数多く行うことにし、結晶方位を正確に確認した輝石の薄片を多数製作することにしたという。
そして製作された薄片結晶のFeイオンの状態が、メスバウアー分光法を用いて分析されたところ、Ca含有量が50%程度の単斜輝石の結晶において、M1席にあるFeイオンのメスバウアーピーク比を決めるテンソル値が、Feの含有量とは無関係に一定であること、Ca固溶量によって変化することが明らかにされた。
地球科学の分野では、輝石の物性解明は大きな課題であり、今回の研究により、その1つが明らかにされたこととなると研究チームでは説明するほか、鉱物薄片を用いたメスバウアー分光法で、Feの詳しい分析を行っている研究者にとっては、実用的なデータとなるとする。ただし、今回の研究ではCaに富む単斜輝石のM1席については明らかにできたが、M2席の同様のテンソル量については、明快な答えには至らなかったとしており、今後、M2席の強度テンソルを明らかにするべく、継続的にこの課題に取り組んでいくとしている。