2022年10月21日07時00分 / 提供:マイナビニュース
●「MIPCOMカンヌ2022」で世界初上映
女優の長澤まさみが主演するカンテレ・フジテレビ系ドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』(24日スタート、毎週月曜22:00~)が、フランス現地時間18日夜、国際映像コンテンツ見本市「MIPCOMカンヌ2022」で、世界初上映を果たした。本作に出演する三浦透子と『大豆田とわ子と三人の元夫』などを手掛けたカンテレの佐野亜裕美プロデューサーがカンヌ現地に来場し、世界のエンタテイメント業界に向けて見どころを語った。
○■巨大スクリーンで鑑賞「集中して純粋に楽しめました」
グローバル規模で今、エンタテインメント性と社会性を兼ね備えたドラマが求められている。『エルピス ―希望、あるいは災い―』は、そんな作品の1つにあるだろう。
実在の複数の事件から着想を得て制作。スキャンダルでエースの座から転落したアナウンサー・浅川恵那(長澤)と仲間たちが、女性連続殺人事件のえん罪疑惑を追う中で、一度は失った“自分の価値”を取り戻していく姿を描く。
世界のエンタテインメント業界が注目し、歴史のある国際映像コンテンツ見本市「MIPCOMカンヌ2022」(17~20日)の開催期間中、南仏カンヌ現地でも本作は話題に上った。
現地時間18日18時30分から「アジア・ワールド・プレミア・TV・スクリーニング」として、第1話が世界初上映された直後には、三浦透子と佐野亜裕美プロデューサーがそろって登壇し、『エルピス』特別トークセッションが企画された。2人はグローバルリサーチ会社・WIT代表で、MIPCOMカンヌの名モデレーターとして知られるヴァージニア・ムスラー氏の質問に答えていった。
はじめに、上映会の感想を求められた三浦は「カンヌで上映されたことをとてもうれしく思います」と笑顔で答え、カンヌ国際映画祭と同じ会場のパレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレのメインホール「グランド・オーディトリウム」の巨大スクリーンで作品上映された体験について、「想像できませんでした。実は今日初めて完成した作品を観たのですが、物語に集中して純粋に楽しめました。そして、ドラマの力を改めて実感したところです」と語る。
続けて佐野Pが「もともと大きなスクリーンで流れることを想定して作ったわけではありませんでしたが、とても光栄でした」と感想を述べた。
○■女優として「本当にまだまだ勉強中」
三浦が演じるのは、恵那が劇中でコーナーMCを務める深夜の情報バラエティ番組『フライデーボンボン』のヘアメイク・大山さくら(チェリー)。若手ディレクター・岸本拓朗(眞栄田郷敦)に脅迫めいた相談を持ち掛けるなど、物語の鍵を握る役どころだ。
三浦は、自身の役について「チェリーは周りがどう言おうとも信じ続ける強さを持ちながら、えん罪という問題に闘い続ける女性。自分もこうありたいと思う姿を持っている魅力的なキャラクターです」と強い眼差しで話すと、ムスラー氏がすかさず「5歳でキャリアをスタートしたのですから、透子も同じように強さを持っているはずですよね? 女優として成功されているのですから」と切り出した。
すると、三浦は「ありがとうございます。成功してるって言ってくださるのはうれしいことです。でも、自分では全然そうは思えなくて。本当にまだまだ勉強中だと思っています」と、控えめながら素直な気持ちを伝えていた。
●生きづらさを抱える人たちに貢献できれば
本作が社会派と言われる理由についても明かされていった。佐野Pは「女性差別問題」を扱ったことについて「主人公の恵那の職業は、日本独特のもの。アンカーでもジャーナリストでもない“女子アナウンサー”という、自分の言葉で語ることを許されないポジションです。若くて美しい外見を持った女性だけが就くことができる職業として日本では存在しています。そのこと自体が大きな問題をはらんでいます。いろいろな日本の問題を象徴していると思うのです。そんな彼女が他者から評価されることから脱却して、自分の価値を取り戻していく。これがこの物語の大きな縦軸にあります。自分がドラマで描きたかったテーマの1つでした」と説明した。
えん罪事件を主軸に置いた理由についても聞かれると、佐野Pは「日本の司法制度は国際社会と比較すると、随分と遅れていると思っています。“人質司法”と呼ばれることが象徴するように、逮捕されたら罪を告白するまで拘留され、釈放されません。弁護士との帯同も許されない。遅れている仕組みであり、えん罪を生み出すケースもあります。作品を通じてこの問題を視聴者に訴え、日本の司法制度を変えるきっかけになる議論を作り出すことができれば本望です」と、臆することなく答えた。
これを受けてムスラー氏が感心していると、佐野Pは作り手としての思いも言葉にした。
「“ドラマは時代を映す鏡”という言葉が日本にはあります。生きている中でどうしたって感じてしまう生きづらさや、女性であるがゆえの生きづらさなど、こうした思いを抱えている人たちがもっと住みやすい社会になるようにドラマが貢献できればと日々思っています。だから、そうした観点でドラマ作りをしてしまうのかもしれませんね」
○■海外メディアも意欲作として報じる
再び、三浦に質問が投げかけられる。米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』に出演した三浦だが、「映画とテレビ、どっち好む?」と問われると、「それは難しい質問ですね」とかわすだけでなく、「テレビドラマをご覧になる方は人数として多いという印象を持っています。映画と比べると、正直なところ、テレビドラマは人気のある役者が出演し、作品に関わる人数も多い。大きな影響力を持つコンテンツという印象もあります。私自身はこの10年、映画の仕事をメインとしてきました。どちらが好きと言えるほど、テレビドラマのことをまだ知らないのが正直なところです。だから、もっと知りたいと思っています」と、冷静かつ前向きに答え、トークセッション全体を通じて堂々たる印象を残した。
本作が日本社会における女性差別の問題や司法制度の遅れを問いかける意欲作であることを報じた海外の業界メディアも多く、米最大手のエンタテインメント誌『Variety』もその1つにあった。今回の上映会を通じて、日本のテレビドラマ作りの一端を伝えることができたが、次に期待されるのは世界の視聴者にも届けられる日が来ることだ。24日から始まる日本での放送に続く話が待たれる。
長谷川朋子 はせがわともこ テレビ業界ジャーナリスト。2003年からテレビ、ラジオの放送業界誌記者。仏カンヌのテレビ見本市・MIP現地取材歴約10年。番組コンテンツの海外流通ビジネス事情を得意分野に多数媒体で執筆中。著書に『Netflix戦略と流儀』(中公新書ラクレ)。 この著者の記事一覧はこちら