2022年10月20日05時50分 / 提供:マイナビニュース
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大阪大学(阪大)は10月18日、最大16倍という伸縮性や可視光透過率85%以上という透明性に優れた上で皮膚に安定して密着し、エラストマーと導電性高分子のネットワーク制御により皮膚への優れた導電性を示す生体ドライ電極を開発したことを発表した。
また、同電極を用いた薄膜センサシートは、生体電位を無線計測する試験において、医療機器レベルの信号の質を示したことも併せて発表された。
同成果は、阪大 産業科学研究所(産研)の荒木徹平准教授、同・植村隆文特任准教授(常勤)、同・和泉慎太郎招へい准教授、同・関谷毅教授らの研究チームによるもの。詳細は、実験室レベルの基礎的な研究と産業の間を埋める新しい材料の応用研究に関する技術全般を扱う学術誌「Advanced Materials Technologies」に掲載された。
従来の医療機器における電極は、ゲルタイプまたはペースト状ウェットタイプであり、専門技師によって患者への装着が行われてきた。しかし、専門技師により多くの電極を装着する手間や、ゲルの肌残りによる違和感など、多くの課題があったという。
そうした課題を解決するため、近年はワイヤレスの生体電位計測システムが開発されており、皮膚の柔らかさを考慮した生体ドライ電極を利用しているケースが増えつつある。ただし、個人の体形の差異による電極の浮き、装着圧による痛みなど、長期使用に関わる欠点を改善する必要があるとする。
また、医療機関における生体電位のモニタリングは、外部ノイズの極めて少ない環境下で実施されるケースが一般的だ。もし、ワイヤレスの生体電位計測システムを、体温計や血圧計、体重計などのように家庭で簡便に利用しようとした場合、装着感や違和感が少なく、かつ高精度かつ低ノイズであることが強く望まれていた。
そこで研究チームは今回、独自の高分子ネットワーク制御技術を用いて生体ドライ電極を開発。それをゴムのように伸縮自在かつ透明な薄膜センサシートとして構築することで、感知しにくいワイヤレス生体電位計測システムを創出することにしたという。
この薄膜センサシートにおける最大の特徴は、生体電位計測において、医療機器と同等の信号の質である0.1μVオーダーを実現できる点だという。生体ドライ電極については、透明なものを含めて多くの研究報告があるが、人体で最も小さな活動電位である脳波を高精度に計測できる電極が開発された例は、これまでなかったという。
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低ノイズな信号計測を実現するためには、有機材料と無機材料の融合によって得られる高い導電性が重要だとする。具体的には、生体ドライ電極に利用している有機(高分子)材料は、極めて伸縮性の高いエラストマーと導電性高分子からなり、材料中でナノメートルからマイクロメートルサイズの相分離構造を形成することが可能だという。
この場合、形成された導電性高分子の凝集体が、厚み方向への特異的な導電性を発揮する。また相分離構造は、エラストマーの2次元ネットワークを形成し、厚み方向の可視光透過性と粘着力、面方向の高い伸縮性を実現しているとした。
さらに薄膜センサシートでは、肉眼では見えない銀/金コアシェルナノワイヤからなる無機(金属)材料が配線材料として利用されていることから、高導電だという。この配線のネットワークを強化する成膜技術を構築することで、これまで報告されているものよりも耐伸縮性が高められているとした。
生体ドライ電極を内蔵する薄膜センサシートは、皮膚/電極/配線/小型無線計測器における、イオンと電子伝導を高めたシステムといえるという。その結果として低ノイズな無線計測システムが実現し、身体動作を妨げない状態で、脳波による睡眠ステージ判定や、筋電による手指動作判定が実証されたとする。
また薄膜センサシートを、カメラ式光電式容積脈波記録法のターゲット部位に組み込むことで、ワイヤレス脳波記録中に脈波や血中酸素飽和濃度の計測も実現されている。