旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

東北大など、1.5~3nmの「スピン熱伝導物質」を簡便な手法で開発

2022年10月17日12時46分 / 提供:マイナビニュース


東北大学と科学技術振興機構(JST)は10月14日、アルカリ溶液を用いた簡便な化学的手法で厚さ数ナノメートルの「スピン熱伝導物質」の開発に成功したことを発表した。

同成果は、東北大大学院 工学研究科 応用物理学専攻 藤原研究室の木下大也大学院生(研究当時)、同・寺門信明助教(研究当時・JSTさきがけ研究者兼任)、同・藤原巧教授、同・工学研究科 技術部の宮崎孝道博士、同・工学研究科 応用物理学専攻の川股隆行助教(現・東京電機大学准教授)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の二次元物質に関する全般を扱う学術誌「npj 2D Materials and Applications」に掲載された。

ナノメートルサイズで集積化が進む電子デバイスにおいて、熱の蓄積や温度変動はデバイスの信頼性・パフォーマンスを低下させてしまう原因となる。その一方で、熱や温度差を貴重なエネルギー源とみなす動きもあり、そうした熱を効率よく逃がしつつ、再利用するために、素早く一様に排熱することに特化した既存の熱マネジメント材料に加えて、熱の流量を制御できる熱伝導可変材料の開発が求められているという。

そうした新材料開発に向けて研究チームでは、スピン熱伝導物質「La5Ca9Cu24O41(LCCO)」に注目してきたという。特殊な熱キャリアである「マグノン」を利用することで、LCCOの室温における熱伝導を高い状態(金属相当)と低い状態(ガラス相当)の間で電気的に制御することが可能と考えられている。

ただし、電気的制御が可能な領域は厚さ数nmの範囲に限られるため、薄膜合成や単結晶育成といった従来の作製法では試料の大部分が制御不可の領域で占められてしまい、熱流量の制御幅が低減してしまうことが課題だったという。そこで研究チームは今回、この課題を克服するためにLCCOのナノシート化に挑戦。ナノシート化することで、試料の厚さと制御可能な厚さをほぼ等しくし、熱流量を従来試料よりも広範囲にわたって制御できる構造を作製することを目指したという。


LCCOは室温において、鉄と同程度の最大のスピン熱伝導率をc軸方向にのみ示すほか、ナノシート化にあたって好都合なシート構造を持つことが特徴とされているため、LCCOの微結晶粉末が合成され、その粉末と10種類近くの酸性・中性・アルカリ性水溶液との反応性と、反応生成物がナノシートを含むかどうかの調査が行われた。

その結果、アルカリ性の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を用いることで、厚さ3nm以下の短冊型シート状物質の作製に成功したとするほか、透過型電子顕微鏡による構造の分析から、同物質はLCCOのナノシートであると結論付けられたとする。

また、今回の研究では、なぜ厚さ1.5nmまたは3nmほどのナノシートが形成されるのかなど、形成機構の完全な解明には至らなかったというが、そのヒントは得られたとする。今回の研究では、LCCO微結晶粉末のほかに、数mm角の比較的大きな単結晶試料を機械研磨することでも、厚さ100nm程度の短冊形シート状物質を剥離形成することに成功しており、このようなLCCOの持つ容易な剥離特性が、アルカリ溶液との化学反応によって促進されたことがナノシート形成の一因と考えられるとしている。

LCCOのようなスピン熱伝導物質は、ラマン分光においてtwo-magnonピークと呼ばれるマグノン由来の特徴的な幅広いピークを示すことが知られているが、今回のナノシートでもその観察に成功したという。これはナノシートになっても、マグノンによる熱輸送路が保たれていることを示す重要な結果と考えられると研究チームでは説明する。

なお、スピン熱伝導物質の特徴である異方的な高熱伝導性とその制御性を最大限に活かせる形態がナノシートだという。研究チームは、すでに半導体シリコンなどの基板にLCCOを成膜する技術を開発済みだが、今回の成果によって基板なしでの自立したシート(膜)形成が可能になることから、これによりほかの物質との複合化も容易になり、熱伝導可変材料の作製など、応用の幅が広がることが期待されるとしている。

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る