2022年10月17日08時05分 / 提供:マイナビニュース
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京セラは10月13日、人間の能力を技術で拡張させる「人間拡張」技術について、同社の人間拡張技術コンセプト「舞(まい)」、および関連するシステム3点の開発を発表。同日に開催した記者会見で、新システムのデモンストレーションを行った。
「舞」をコンセプトとした京セラの人間拡張技術
京セラは人間拡張について、「人に寄り添う技術で、人間の能力の補完や向上、新たな獲得を行うこと」と定義し、人間が持つ身体・存在・知覚・認知という4つの能力を、テクノロジーで拡張させることを目指している。人間拡張技術は今後、ヘルスケア・医療・エンターテインメント・生産現場など幅広い分野での展開が期待されるとのことで、同社は研究開発本部のフューチャーデザインラボにて、研究開発を行っている。
フューチャーデザインラボ所長の横山敦氏は、京セラが掲げる人間拡張技術のコンセプトを「舞」と表現した。人に寄り添う技術の開発を通じて、QOLの向上やコミュニケーションの円滑化などへの貢献を目指すといい、将来的な見通しとして「社内の基盤技術や他社・アカデミアとのオープンイノベーションを活用することで、人間拡張の新規事業を開拓していく」と話す。
3つの人間拡張関連システムをデモと共に紹介
今回発表されたのは、「歩行センシング&コーチングシステム」「フィジカルアバター」「聴覚拡大ヒアラブルデバイス」の3システム。会見ではそれぞれ担当者が登壇し、システムについて紹介。会見後には、3システムすべてのデモンストレーションが行われた。
○ワコールとの共同研究で誕生した「歩行センシング&コーチングシステム」
京セラはワコールと共同で、歩行姿勢が与える印象に関する研究を行っており、その中で、日常生活の中で美しく正しい歩き方に変化するように働きかける「健幸(けんこう)システム」の実現を目指したという。
今回発表されたシステムでは、頭部(イヤホン)・腕(ブレスレット)・足首(アンクレット)に小型ウェアラブルセンサを装着し、それらのデータから姿勢計測をリアルタイムで計測することで、AIによる歩き方の印象評価や歩行姿勢の推定が行われる。印象評価結果はスマートフォンアプリで随時確認でき、歩行姿勢についても推定アニメーションを見ることができる。
会場で行われたデモンストレーションでは、印象評価が大きく4象限に分かれており、歩行姿勢が変化することで結果が変化していく様子が見られた。なお、目標とする歩行姿勢を設定した場合には、装着したイヤホンからコーチング音声が流れ、使用者が理想とする歩き方に近づくよう手助けを行うとのことだ。
京セラの村上エドワード氏は、「長年蓄積された知見を持つワコールのファッションの世界と、京セラが保有するテクノロジーという異分野が融合することで、新たな価値創出を目指していきたい」と語った。
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○リモート会議の課題解決に向けた「フィジカルアバター」
フィジカルアバターは、コロナ禍により一般化した「リモート会議」での課題を起点として生まれた人間拡張技術だという。
オフィスの会議室などに集合した参加者と、リモートでの参加者が混在する会議では、「対面しているローカルの参加者だけでスムーズに話が進みリモート参加者が介入しづらい」など、場所が離れていることによるストレスが課題となっている。
フィジカルアバターは、リモートからログインすることで、本体に搭載された360度カメラとマイクアレイを通じた映像・音声が届き、オフィスの状況をよりリアルに把握できる技術。上下への伸縮やうなずき、首の回転などの操作が可能で、対面した状態のように違和感なく溶け込めるようサポートするデバイスだという。またリモート側には、ローカル側の話者が可視化される仕組みも搭載されており、マスクを身に着けた中でも話者が区別できるとしている。
フィジカルアバターのデザインについて、京セラの杉本武士氏によると、「できるだけシンプルなデザインにしている分、フィジカルアバターから話者の声が発されることで、どことなくその人の顔に見えてくるという効果があることがわかっている」と話した。
○聞き逃した音を気付かせる「聴覚拡張ヒアラブルデバイス」
知覚や認知の能力を拡張する技術として、聴覚拡張ヒアラブルデバイスが発表された。このデバイスは、周囲音への注意を人間の代わりに行い、日常生活において聞き逃した音声を自動でリプレイするという。
同システムは、バイノーラルマイクを搭載した骨伝導イヤホンにAIシステムが組み合わさったもので、マイクから取得した周囲の音声をAIシステムが一時的に保持し、重要な音声を検知した際には、その音声が含まれる部分を切り出してイヤホンから再生する。デモンストレーションの担当者によると、デフォルトとして設定されている重要な単語に加え、スマートフォンアプリ上で単語を事前に登録することで、その単語を含む音声のリプレイが可能だという。
介護現場や接客現場など複数の作業や呼びかけを同時に処理することが多い場面や、突然開始されるため聞き逃しが発生しやすい駅や空港での場内アナウンスなど、さまざまな場面で同デバイスの活用が期待されるとのことだ。
聴覚拡張ヒアラブルデバイスにおいて骨伝導イヤホンを採用している理由について、京セラの金岡利知氏は「人間の耳をアシストする意味合いで、通常の周囲音が聞こえるタイプのイヤホンにしている」とした上で、「耳をふさぐインイヤー型のデバイスにも搭載可能だと考えている」と語った。
大幅な市場拡大が見込まれる人間拡張技術
横山氏によると、今回発表された3つの技術について、それぞれ研究開発を始める契機は異なっていたという。歩行姿勢のセンシングは、ワコールとの連携の中で生まれてきたアイデアが起点となっているのに対し、フィジカルアバターは、コロナ禍において研究所内で実際に表出したコミュニケーションの課題に対する解決策として、「所員の間でディスカッションを交えながら具体化していった」とする。また、ヒアラブルデバイスについては「熱い想いを持った所員のアイデアから研究が始まった」とのことで、「研究所としてのベースには、所員からの提案をブラッシュアップして研究開発を進めるという姿勢がある」とする。
加えて横山氏は、人間拡張技術における今後の見通しについて、「人間拡張技術の市場規模はこれから拡大すると考えており、2025年には1兆円規模を超えるという調査結果も目にした」といい、事業としての可能性に期待をのぞかせる。また、今回発表した技術についてはいまだ研究開発の最中で、他社を含め共創を進めているという。今後は「技術の実証を進めながら、適宜商品化にもつなげていきたい」と展望を語った。
なお、今回発表された3つの人間拡張技術は、2022年10月18日から10月21日まで幕張メッセにて開催される「CEATEC2022」で展示されるとのことだ。