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『ぶらり途中下車の旅』“取材先ファースト”で30年 街ブラ番組パイオニアの矜持

2022年10月14日12時00分 / 提供:マイナビニュース

●鉄道会社との信頼関係で運行車内も撮影
日本テレビの旅番組『ぶらり途中下車の旅』(毎週土曜9:25~)が、この10月で放送開始30周年を迎えた。土曜の朝にお出かけ気分にさせてくれる上、気軽に足を運べる路線チョイスも絶妙で、長年にわたって人気を博してきた。

30年前に比べ、旅番組があふれるテレビ界だが、街ブラのパイオニアとしてどのような意識で制作に臨んでいるのか。総合演出の佐藤一氏に話を聞いた――。

○■面白い店が見つかりにくい路線は…

旅の路線を決めるにあたって大きな要素となるのは、オープニングの画。「例えば『山手線をやりたい』というよりは、『今、新宿御苑の花がきれいだから紹介したいね』ということから考えます。季節感を考えて、土曜の朝に見てもらって『ちょっと行ってみようか』と思っていただけるような場所を選んでから、『新宿をスタートするなら何線にしようか?』となって、うちのディレクターはベテランぞろいで情報の蓄積がありますから、『前にあそこを歩いてたらちょっと面白い店があったから、山手線をやろうか』という感じです。もちろん、その回の前後で路線や地域がバラけるようにしています」という具合で選定する。

最多乗車路線は、172路線を放送してきた中で73回を占めるJR山手線。東京の大ターミナルを網羅しており、立ち寄る場所が尽きないのもうなずける。

一方、面白い店が見つかりにくいというのは、意外にも京王井の頭線。渋谷、下北沢、吉祥寺とネタが豊富なイメージがあるが、「ほかは住宅街の駅が多くて、路線の距離も短いので、結局いつも同じ駅になっちゃうんです」という。つまり、路線の距離が長くなると見つかりやすいということで、「今は、南栗橋(東武日光線)から中央林間(東急田園都市線)まで、川越(東武東上線)から元町・中華街(みなとみらい線)までつながっているので、昔よりはやりやすくなってますね」と、拡大する直通運転の恩恵もあるそうだ。

新しい路線が開業すると「すぐ食いつきますね!」というが、「日暮里・舎人ライナーではえらい目に遭いました(笑)」と苦い経験も。

普通の番組では、運行中の電車内の撮影はNGだが、『ぶらり途中下車の旅』が許されているのは、「やはり30年間、先輩スタッフたちから鉄道会社をすごく大切にしてきて、信頼関係を築いてきたからだと思います」と胸を張った。

○■最重視するのは店の人の“人柄”

路線が決まると、ロケまで1カ月から1カ月半ほどかけて、旅人が訪ねそうな場所を歩く。「ネットも一応見ますが、『ネットの情報は当てにするな』と言っていて、実際に歩き回って面白そうなところをチェックしておきます」と、足で稼ぐ王道のスタイルを貫く。

歩いていて最初に着目するのは、旅人が気になりそうな外観や看板のインパクト。面白そうな店が見つかると、番組名を名乗らず一般客として入ってみるが、その際に最も気にするのは、店の人の“人柄”だという。

「“料理がおいしい”って、何なら3分で終わっちゃうんです。そこから話が広がるのは、どうしてそのお店をやってらっしゃるのかとか、そういう話なんですよ。だから、珍しい料理や商品があったときに、『これはどうやって考えたんですか?』とか旅人が聞きそうなことを聞いていく。その受け答えで人柄が分かるので、ぶっきらぼうな方でも『これは行けるかもしれない』となることがあるし、むしろバンバンアピールされるとこっちが引いちゃうこともあります」

現在は、約60分の放送で6~8軒を取り上げているが、以前は14軒程度も立ち寄っており、30分枠時代には、8~10軒取り上げていたという。当初は週末のお出かけ情報という要素が強かったが、歴史を重ねるに連れて、1軒1軒の物語に時間を費やすようになったのだ。

さらに、旅人が何もないところを歩く情景を増やしたそうで、「いろいろ旅番組が増えてきた中で、こういうシーンを増やせば旅の自然な雰囲気を共有していただけるのではないかと」と差別化。歩く姿を、旅人の顔を映さず後ろから追うのも、大きな特徴となっている。

●新旅人発掘でなぎら健壱「俺のこと忘れてないよね?」
これまで様々な旅人が登場してきたが、この起用においても重視するのは“人柄”。その上で、他の旅番組ではあまり見かけない人というのをポイントに置いており、「芸人さんはわりとあちこちで出てらっしゃるんで、入れてないですね」という。

そこで重宝するのが、いわゆる“バイプレーヤー”と呼ばれる俳優陣。本業のドラマや映画のように台本がある番組ではないにもかかわらず、お店の人や街行く人々との軽妙なやり取りが見事だ。

最多出演は太川陽介で、10月8日までの全1,517回の放送のうち、112回もぶらり旅。一方、昨年あたりから新顔の旅人が増えており、「いろんな視聴者層の方にも見ていただきたいと思っているんです。従来はいわゆる番宣系の方を受け入れてなかったんですが、各番組にこちらから声をかけて、『1回だけでいいですから、旅してみませんか?』とお願いしています」と狙いを明かす。

そんな新顔たちの中で特にハマったというのは、A.B.C-Zの塚田僚一と、Kis-My-Ft2の横尾渉のジャニーズ2人。「伝え聞いた話ですが、横尾くんは『毎週でもやりたい!』と言ってくださってるみたいです(笑)」と、お気に入りの番組になったようだ。

こうした制作側の方針に、おなじみのなぎら健壱から「俺のこと忘れてないよね?」と連絡があり、佐藤氏は「慌ててお願いしました(笑)」とブッキングしたことも。なぎらレベルの常連になると、いろいろな場所で知り合いが増えてくるそうで、「池袋の立教通り歩いていて、以前行ったお店が気になって『あそこどうしてるかな?』って寄っていかれました(笑)」と、“ぶらり散歩”を満喫している。

番組のロケ後にプライベートで再び訪れる旅人も多いのだそう。「かとうかず子さんが訪れた渋谷の明治通り沿いの冷麺の店があって、おいしそうだったんで僕も行ってみたんですけど、前にかとうさんが娘さんと並んでらして(笑)。他の方も、結構そうやって行ってるみたいですよ」と明かした。

長寿番組だけに、ロケ中には思わぬ出来事も。「(林家)たい平さんが、向こうからやってくるお友達に『何やってんの?』って声かけられてました」とった例があり、こうした出会いのハプニングはよくあるそうだ。
○■滝口順平さん死去で「この番組は終わりだと思った」

そんな旅人とナレーターの小日向文世との掛け合いも、見どころの1つ。これは、旅人が小日向と一緒に旅をしている感覚で話し、後で小日向がナレーション収録でそれに応えることで自然なやり取りになっている。旅人が「うんうん」と言う直前に、小日向がひと言呼びかけるなどして、会話の流れを作っているそうだ。

ナレーターは旅人と一緒に旅をするという設定だが、初代の滝口順平さんは「おやおや、おいしそうですね~」「いかがですか~?」などに代表されるように、呼びかけはするものの、掛け合いや会話という形式は採っていなかった。

番組の代名詞だった滝口さんが亡くなった際は、そのあまりの存在の大きさに「もうこの番組は終わりだと思いましたよ」と振り返る佐藤氏。いわゆるナレーター・声優で代わりを見つけるのは不可能だと判断し、大人の目線で目立たず、やわらかい語り口という条件に合致したのが、常に「さりげなく生きたい」と言っていた藤村俊二さんだった。

「いつ死ぬかわかんないけど、僕でいいんだったらやるよ」という藤村さんに、「ありがとうございます。一緒に長生きしましょう」と呼びかけ、2011年10月から15年10月まで担当。その藤村さんも亡くなり、3代目を探す中で、「以前、別の番組でお願いしたことがあって、それがすごく良かったんです。とても普通の人で、気さくで優しいから、ダメ元でお願いしてみました」と当たって快諾したのが、現在の小日向だ。

そこで、「コヒさんの良さを出していかないといけないと思って、会話みたいな形式を取り入れてみたんです。最初はやっぱりギクシャクしていたんですけど、本人がすぐつかんで、うまくハマるようになりました」と、現在のスタイルを確立していった。

●コロナ禍で最大のピンチも店に“恩返し”

30年という歴史の中で最大のピンチは、やはりコロナ禍だ。街ブラという特性上、最初の緊急事態宣言中はロケを行うことができず、2020年4月25日から6月13日まで「旅人が選んだ傑作選」と称し、現状のお店の情報を入れながら乗り切った。

「視聴者と同じように旅をする」をポリシーに、お金を払うシーンや、カバンを持って歩くという格好にこだわるだけに、出演者がマスク姿でロケをするスタイルも、コロナの流行が始まってすぐの頃にいち早く導入。主要ターミナル駅や人気の商店街など、なるべく人混みを避け、電車の中のシーンもやめた。

このため、入れるお店のハードルは一段と上がったが、自粛生活で困っていた店側は「わりと皆さん、快く受け入れてくれました」と歓迎。番組としても、これまでお世話になった恩を返したいという思いがあり、テイクアウトの情報も積極的にアピールしていった。
○■「真似されるのはいいけど、真似するのはやめよう」

長きにわたって番組が愛されてきた理由を聞くと、「やっぱりブレずに王道をいったからだと思います。“時流には乗るけど、流行には乗らない”というのを心に持っていて、“大人の一人旅”を変えない、コメントのテロップも入れないといった形で、他の旅番組さんとの差別化にもなっていると思います」と分析。一方で、前述の新たな旅人の起用や、インスタグラムの導入など、視聴者層の拡大に努めている。

また、旅番組が増えてきた中で強く意識するのは、「真似されるのはいいけど、真似するのはやめよう」ということ。お店に入って、<◯◯で取り上げられました!>といったPRが目につけば放送を避けるというが、「うちで紹介したお店が他の番組でもやってくれれば、またお店が儲かるんですから、僕らはむしろうれしいくらいです」との考えを持っており、その精神を“取材先ファースト”と呼んでいる。

「テレビ番組ですから、スポンサーファースト、視聴者ファーストではあるんですけど、出ていていただいた方々に『紹介してもらって本当に良かったね』『記念になったね』と思っていただけることが大事なんです。放送が終わったあとも番組を見続けてもらえると思うし、親戚や知り合いも『以前、この番組に出たんだよねえ』と覚えてくれて、そういうのが1回の放送で8軒あって長年やっていたら、大変な数になりますから」

取材先によっては、スタッフと密な関係になることもあるそうで、「エンドロールを見て、『あの時ADだった子がディレクターになったんだ』と知って、わざわざ『良かったね!』と電話してくれる方もいらっしゃるんです。そういう方々に支えてもらっていると思うので、この関係は大事にしていきたいですね」と強調。近年人気の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(中京テレビ)で描かれるような交流が、実は長年にわたって画面に映らないところで行われていたのだ。
○■新しい人にもどんどんお願いしたい

30年という区切りを経て、今後の展望を聞くと、“時流には乗るけど、流行には乗らない”、“取材先ファースト”というポリシーを守りつつ、「なぎらさんに怒られながら(笑)、旅人はいろんな人にやってもらいたいですね。1人で歩いているとわりと素顔が出て、それを楽しんでいただけているようなので、決まった人ばかりでなく新しい人にもどんどんお願いしたいと思っています」と構想。

10月15日16時からは、前日の鉄道開業150周年を記念して、『鉄道開業150年! ぶらり途中下車の旅特別編 東北新幹線の旅』を放送。「A.B.C-Zの塚田僚一くんと、プロスケーターの村上佳菜子さんがバトンタッチ形式で旅します。普段の『ぶらり途中下車の旅』とは一味違う、東北の魅力たっぷりの旅になるはずですので、僕らも今から楽しみにしています。ぜひご覧いただければと思います」と呼びかけた。

●佐藤一1957年、東京都生まれ。フリーディレクターを経て、99年日本テレビ放送網入社、エグゼクティブディレクターに就任。朝の情報番組『ズームイン!!朝!』では総監督として47都道府県全てを訪問し、視聴率トップに躍進させる。97・02年には『24時間テレビ』総合演出。『ズームイン!!サタデー』『スッキリ』を立ち上げるとともに、『全国高等学校クイズ選手権』などの総合演出を歴任し、現在は再びフリーディレクターとして活動。10年から『ぶらり途中下車の旅』の総合演出として、関東の鉄道を利用して旅人のタレントを気ままに旅させる独自の演出を確立。同時間帯での民放視聴率連続トップの記録を現在も更新中。

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