2022年10月11日16時58分 / 提供:マイナビニュース
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群馬大学(群大)は10月7日、脂肪で産生される物質が膵臓の膵島にある「膵β細胞」を増殖させ、インスリンを増加させることを明らかにしたと発表した。
同成果は、群大 生体調節研究所の白川純教授をはじめとする、横浜市立大学、米・ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センター、カナダ・アルバータ大学らの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、ライフサイエンス全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Cell Reports」に掲載された。
インスリンは、人体で血糖値を下げられるホルモンであり、膵臓の膵島に存在する膵β細胞によって作られていることが知られている。血糖値が上がったときは、それを下げるために膵β細胞が増殖することでインスリンを補うと考えられているが、この作用がうまく働かなくなると、インスリンが相対的に不足し糖尿病を発症してしまう。そのため、どのようにして代償的に膵β細胞が増えるのかがわかれば、少なくなった膵β細胞を増やし、体内でインスリンを増やすことで糖尿病の治療につなげられると考えられている。
また、肥満やメタボリックシンドロームなどの内臓脂肪が蓄積すると、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」という状態になってしまうことも知られており、このインスリン抵抗性においては、脂肪組織の中で炎症などの変化が起こっていることがこれまでの研究からわかっていたが、膵β細胞にどのような影響を与えているのかまでは不明だったとする。
そこで研究チームは今回、人工的にインスリン抵抗性を作り出したとき、膵β細胞ではどのようなことが起こるのかを詳しく調べることにしたという。具体的には、インスリンの作用を特異的に阻害するペプチドである「S961」をポンプで持続注入することで作り出された「急性インスリン抵抗性モデルマウス」を用いて、膵β細胞への影響の解析が行われたという。
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これまでは、肥満状態や肝臓でインスリンが効かなくなったとき、膵β細胞が増えるために必要と考えられてきたのが、インスリン受容体だという。今回の研究では、膵β細胞はインスリン受容体がない状態でも、同受容体がある状態と同等に増殖することが判明したという。
そこで、急性インスリン抵抗性により、膵β細胞の中でどのような変化が起きているのかという遺伝子発現に関する解析が行われたところ、遺伝子発現を調節する転写因子「E2F1」と、細胞分裂の調節分子「CENP-A」が、急性インスリン抵抗性による膵β細胞の増殖に関与していることが判明したという。
また、E2F1やCENP-Aが、どのようにして膵β細胞で誘導されるのかの解析が行われたところ、血液中に膵β細胞の細胞分裂を促す物質が分泌されることで、多くのインスリンを作り出していることが判明。この循環因子による膵β細胞の増殖は、マウスだけでなく、ヒトの膵島でも認められたとする。さらに、急性インスリン抵抗性状態では、膵β細胞でE2F1を誘導し増殖させる物質が脂肪から出ていることも突き止められたという。
なお研究チームでは、これまで脂肪はエネルギーをため込む器官と考えられていたが、近年では血液中にほかの臓器に作用するホルモンを豊富に分泌する器官でもあることもわかってきており、今回の研究でも、脂肪から血液中に放出される物質が膵β細胞を増やすという、新しいホルモンなどの存在が示唆されたとしているほか、これまでの研究から、同物質は1つではなく複数で作用している可能性が考えられるともしている。また、今回の研究の成果は、今後、糖尿病患者の体内で、脂肪をターゲットとして膵β細胞を増やすような、新しい再生医療への応用に役立つことが期待されるとしている。