2022年10月11日18時39分 / 提供:マイナビニュース
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NTTと東京大学(東大)は10月7日、低環境負荷な材料のみで構成した電池と回路を開発し、それらを用いて概念実証のためのセンサ・デバイスを作製、通信信号を生成することに成功したと発表した。
同成果は、東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の渡辺和誉特任研究員、同・岡本敏宏准教授、同・渡邉峻一郎准教授、同・竹谷純一教授、NTT 先端集積デバイス研究所の共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
IoT機器が当たり前になる近い未来、一般ごみとして誤って廃棄された際の環境汚染や、人がなかなか回収に行けない場所に放置されたりし、周辺環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている。
こうした課題解決方法の1つとして、回収・分別の必要なく、使用後にはそのまま廃棄できる、環境への影響を最小限にしたセンサ・デバイスの開発が期待されている。NTTではこうしたコンセプトに基づき、低環境負荷な材料で構成したセンサ・デバイスの研究を進めてきており、2018年には肥料成分と生物由来材料から構成した「ツチニカエルでんち」を開発。低環境負荷電池のコンセプトを実証してきた。
今回の研究では、主に回路と電池で構成される低環境負荷センサ・デバイスの実現を目指すにあたり、回収・分別・廃棄の問題に対応するとしたら、どのような材料を低環境負荷な材料として選定することが望ましいかを、廃棄物に関連する有識者にヒアリング。その結果を踏まえ、以下の2点を低環境負荷な材料を選定する際の考え方として開発を行ったという。
資源性を考慮し、貴金属を使用しないこと
有害性を考慮し、原則、環境経由で人間や動植物に影響を与える恐れのある化学物質群を使用しないこと
具体的には、この2点を考慮した上で、回路および電池を構成する材料(元素)として、水素、炭素、窒素、酸素、マグネシウム、アルミニウム、硫黄の7種類が選定され、これらを用いた低環境負荷回路・低環境負荷電池が作製された。
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低環境負荷回路に関しては、有機半導体分野の研究を推進する東大・竹谷教授の研究室との共同研究で、カーボン材料で全電極を構成する有機トランジスタ作製プロセスを開発。カーボン電極有機トランジスタを用いて、CMOS構造のアナログ発振回路やデジタル変調回路が構成された。
一方の低環境負荷電池は、有機半導体で構成された低環境負荷回路を駆動するには電荷輸送に高い電圧が必要なため、低環境負荷材料として選定されたカーボンを電極として適用するための3次元の導電性多孔体構造の形成と、電池の直列化構造による高電圧化についての取り組みが行われた。
低環境負荷センサ・デバイスの構成は、低環境負荷電池と、低環境負荷回路と、市販スピーカ(またはオシロスコープ)、ケーブルがブレッドボード上で接続された構成となっている。低環境負荷回路は、発振回路や変調回路など、要素回路ごとに作製され、ブレッドボードを介して接続されている。
低環境負荷センサ・デバイスには、3bitの個体識別番号が付与されており、低環境負荷電池が液体を検出すると発電。通電した低環境負荷回路が、1bitの検出信号と3bitの識別番号を重畳した発振周波数140Hzの通信信号を生成し、スピーカで音波を発生するという仕組みが採用された。実験の結果、低環境負荷センサ・デバイスは、4bitの通信信号の信号を出力していることが確認できたとする。
研究チームでは今後、低環境負荷を指向したセンサ・デバイスに関する社会的コンセンサスの醸成に向けて、今回の成果を基に広く議論してもらうとしているのと同時に、低環境負荷な電池・回路に関する要素技術の高度化を進めていくという。また、社会実装を目指して外部機関・企業などと連携しながら、低環境負荷ならではのユースケースを探索し、これまでにない新しいサービスの創出を進めていくとしている。