2022年10月12日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●過去最多100人超出演で8時間生放送
テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第245回は、8日に放送されたTBS系バラエティ特番『お笑いの日2022』(14:00~)をピックアップする。
すっかり秋の風物詩となった『お笑いの日』だが、今年は過去最多の100人超が出演して8時間の生放送。その内容は、『お笑いプラスワンFES』『あらびき団』『ザ・ベストワン』『キングオブコント2022』という4コンテンツのリレーだった。
○■限定スペシャルユニットが続々登場
番組は、「今年もあの長い長い1日が幕を開ける。(『ダウンタウンと100人のお笑い芸人』の文字が表示され)暗いニュースばかりが続くこの世界で闇を照らすことができる唯一の魔法、お笑い。そんな笑いの魅力に取り憑かれた100名を超える芸人たちがTBSに大集結。『お笑いの日2022』」というナレーションからスタート。
思えば『お笑いの日』はコロナ初年度の2020年に、「その重苦しさを吹き飛ばしてほしい」という思いを込めてスタートしたという経緯がある。コロナ禍が長期化する中、局の都合というより視聴者ファーストの好印象があることも『お笑いの日』の強みだろう。
オープニングアクトとして、ダウンタウンの2人が登場。センターマイクの前で漫才にも見える“立ち話”を披露したあと、浜田雅功が「それじゃあそろそろはじめましょう!『お笑いの日2022』、いよいよスタート!」と開幕宣言した。TBS開局70周年記念舞台『ハリーポッター』絡みの演出こそ微妙だったが、偽物のダウンタウンが登場する凝った演出も含め、オープニングを見てワクワクした人が多かったのではないか。
最初のお笑いコンテンツは、人気芸人が「一緒にネタをやってみたい芸人」を1人指名して1日限りの新ネタを披露する『お笑いプラスワンFES』。
見取り図+おいでやす小田、ニューヨーク+ジェラードン・かみちぃ、アンガールズ+さまぁ~ず・三村マサカズ、鬼越トマホーク+ほんこん、ランジャタイ+ダイアン・津田篤宏、マヂカルラブリー+ピース・又吉直樹、錦鯉+キャイ~ン・ウド鈴木、さらば青春の光+TKO・木下隆行の8組がネタ披露した。
ネット的に瞬間最大風速的な盛り上がりがあったのは、因縁のある鬼越トマホーク+ほんこん、「ゴイゴイスー」乱発のランジャタイ+ダイアン・津田篤宏、「ペットボトルを投げ」を使ったさらば青春の光+TKO・木下隆行の3組か。制作陣と芸人たちの「何でも笑いに変えてやろう」という貪欲な姿勢と、何が起きるかわからない生放送の魅力があふれた1発目にふさわしいコーナーだった。
次に映されたのは、『あらびき団』のスタジオにダウンタウンが移動するシーン。ここに江頭2:50が乱入したが、今や“ネット側の人”と、いまだ“テレビ界のトップ”のダウンタウンの組み合わせは、3人とも50代後半ながらかなり新鮮だった。
○■ムチャぶり即興漫才のライブ感
2つ目のコンテンツ『あらびき団』は、「地上波初の生放送」で、カゲヤマ、禅、小林ゆう、ハリウッドザコシショウ、NARI、ポメラン、風船太郎、庄司智春、ビッグ小原健太が出演。途中からダウンタウンがスタジオに参加して、あらびき芸を見守る風景は、これも鮮度抜群だった。
ただ、ネタは収録済みであり、事前チェックが可能なのだろう。深夜時代と変わらないハジけた芸ばかりだったが、実はこの日、最も安全なコンテンツだったのかもしれない。
3つ目のコンテンツ『ザ・ベストワン』は、ほぼ通常営業。
霜降り明星「今年好きなベストワンネタ」、空気階段「キングオブコント王者の最もファンシーなベストワンネタ」、ニューヨーク「テレビ初披露! ゾクゾクするベストワンネタ」、ジャルジャル「テレビ初披露! 絶妙な間のベストワンネタ」、ロッチ「今のご時世を過剰に気にしすぎたベストワンネタ」、見取り図「大阪からの上京を後押ししたベストワンネタ」、ハナコ「テレビ初披露! 渾身のゴリラベストワンネタ」、NON STYLE「M-1王者 テレビ初披露! 石田の気分が良くなるベストワンネタ」が立て続けに披露された。
ここでダウンタウンがスタジオに現れ、3つのお題を即興漫才にするコーナー「ザ・ベストワンテイク」がスタート。錦鯉が「Wボケになる」「浜田雅功を意識したツッコミ」「長谷川が全力でツッコミ返す」、マヂカルラブリーが「ボケながらカミングアウト」「ボケながらカミングアウト2」「錦鯉・長谷川が漫才に加入」をそれぞれ披露した。
制作陣の「実力者にプレッシャーをかけて力を引き出す」という姿勢に、M-1王者たちがしっかり応えたことで、この日最もライブ感あふれるネタとなったのではないか。
その直後、江頭2:50が乱入してMCの笑福亭鶴瓶と今田耕司に噛みつき、さらにスタジオの女性客に体当たりするなど大暴れ。通常のネタは相変わらず「何のベストワンなのか」がファジーで強引な感があっただけに、錦鯉、マヂカルラブリー、江頭2:50に救われた形になっていた。
その後、コサキン(小堺一機&関根勤)「40年ぶりに披露! アドリブ満載 ベストワンネタ」、おぎやはぎ「今日作り上げたベストワンネタ」、シソンヌ「Mr.ビーンのようなベストワンネタ」、爆笑問題「世相を斬りまくる最新時事ベストワンネタ」を披露して終了した。
●完全復調したコント王者決定戦
最後の『キングオブコント2022』は、「梅田サイファーのメンバー10人がそれぞれ出場10組のラップを担当する」というスタイリッシュなオープニングからスタート。一度きりしか使えないのがもったいないと思うほどのクオリティであり、ここまでお膳立てしてもらえるのなら、ファイナリストのみならず、来年に雪辱を期す敗退者たちのモチベーションも上がるのではないか。
出演順に点数のみをあげていくと……クロコップ:460点、ネルソンズ:466点、かが屋:463点、いぬ:459点、ロングコートダディ:461点、や団:470点、コットン:470点、ビスケットブラザーズ:481点、ニッポンの社長:455点、最高の人間:462点で、ビスケットブラザーズ、や団、コットンの3組がファイナルステージに進出。
ファイナルステージは、や団が473点で計943点、コットンが474点で計944点、最後のビスケットブラザーズが482点で計963点を叩き出して優勝し、そのままエンドロールが流れて番組は終了した。できればダウンタウンに『お笑いの日2022』の総括をしてほしかったところだが、それは望みすぎなのだろうか。
ちなみに、ビスケットブラザーズは歴代最高得点だったが、ネット上の反応では例年以上に「納得がいかない」という声が目立っていたのも事実。主にコットン、や団の支持が高かったが、その他にも、ネルソンズ、クロコップ、かが屋、最高の人間などと名前があがるコンビが多く、これこそ盛り上がったことの証だろう。
『キングオブコント』は2008年のスタートから15年の間に話題性、視聴率ともに低迷した時期もあったが、2年前に『お笑いの日』のメインコンテンツとなってから復調傾向が見られる。『R-1グランプリ』(カンテレ・フジテレビ系)や『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)もあるが、この2年の盛り上がりを見る限り、『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)との“2大賞レース”という位置づけに戻ったのではないか。
○■お笑い特番で激しく競うTBSとフジ
最後にあらためて『お笑いの日2022』全体を振り返ると、今回も「ネタコンテンツのリレー方式」という構成だったが、スペシャルユニット→あらびき芸→旬芸人の王道ネタ→賞レースと、その構成はバランスも緩急も抜群だった。各コンテンツのMCがクロストークするつなぎの時間帯も生放送らしい豪華さと臨場感があり、これこそがかつてテレビが持っていた魅力のようにも見える。
今後も1日限りのユニットやネタ、意外性や危険性を感じるゲストの出演、そして『キングオブコント』の盛り上がりをキープできれば、「ダウンタウンのトークを8時間生放送で楽しめる」というプレミア感も含め、国民的特番に近づいていくのかも……と期待してしまう。
その意味で比較せざるを得ないのが、9月10・11日に約9時間生放送された『FNSラフ&ミュージック2022~歌と笑いの祭典~』(フジテレビ系)。フジは『まっちゃんねる』『お笑いオムニバスGP』らの野心的な特番と、『新しいカギ』『千鳥のクセがスゴいネタGP』『ネタパレ』らのレギュラー番組があるにもかかわらず、それらを生かす「この日限り」の仕掛けは少なかった。予算やスタッフの調整など、難しさがあるのは分かるが、『お笑いの日』のような思い切ったお笑いフェス特番を仕掛けられないのがもったいないところだ。
今秋から『ザ・ベストワン』が特番化されたことで、ゴールデン・プライム帯からレギュラーネタ番組が消えてしまったため、「お笑い=TBSのイメージ」とまではいかないが、視聴者に向けたブランディングに成功しているのは間違いないだろう。
「唯一無二のお笑いフェス特番を俺たちが盛り上げるんだ」という制作陣の強い自負を随所で感じさせられたし、3年目の放送でその番組名にふさわしい風格が漂ってきた感がある。
○■次の“贔屓”は……マニアが熱狂する一日に密着!『熱狂! 1/365のマニアさん』
今週後半放送の番組からピックアップする次回の“贔屓”は、14日に放送されるTBS系バラエティ番組『熱狂! 1/365のマニアさん』(毎週金曜20:00~ ※14日の初回は19:00~2時間SP)。
その番組名を見れば、どんな内容なのか分かるのではないか。「あるジャンルのマニアが熱狂する1日に密着する」というコンセプトの番組で、初回は、さつまいもや北海道などのマニアをフィーチャー。
「マニアをフィーチャーした番組」と言えば、同局には『マツコの知らない世界』もあるが、どう棲み分けしていくのか。重要な1回目の放送にその制作スタンスが表れているだろう。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら