2022年10月07日20時00分 / 提供:マイナビニュース
●念願のアニメーション映画のヒロインに「夢が叶いました!」
アニメーション映画『僕が愛したすべての君へ』(10月7日公開)でヒロインの声優を務め、「夢が叶いました!」と笑顔を見せる女優・橋本愛。中学生のときに芸能界デビューし、ドラマや映画で大活躍の橋本だが、子供時代からアニメのヒロインへの憧れがあったという。アニメとの関わりや声に対する強い意識、また、ここ数年で変わったという仕事との向き合い方について話を聞いた。
『君を愛したひとりの僕へ』と同日公開される『僕が愛したすべての君へ』。乙野四方字氏の小説を原作とする2つの作品は、“並行世界”を行き来することができる世界で、1人の少年がそれぞれの世界で別々の少女と恋に落ちるラブストーリー。『僕愛』『君愛』2作品の主人公・暦を宮沢氷魚が担当し、『僕愛』で暦と恋仲になるヒロイン・和音を橋本愛、『君愛』で暦と恋仲になるヒロイン・栞を蒔田彩珠が演じた。
橋本はこれまで、『劇場版 BLOOD-C The Last Dark』(2012)、テレビアニメ『なつなぐ!』(2020)でも声優を務めたが、「1作目は自分が未熟で至らなかったなという思いが強く、『なつなぐ!』は1作目より楽しめましたが、もっとやりたいという思いがありました」と再び声優に挑戦してみたかったという。そして、「特にアニメーション映画への憧れが強かったので、今回ヒロインを演じさせていただき夢が叶ったという気持ちです」と声を弾ませた。
アニメ映画に憧れを抱いたきっかけを尋ねると、「子供の頃からジブリ作品を見て育ってきて、ジブリのキャラクターの声をよく真似していました。ほかのアニメを見ているときも、声優さん独特の抑揚や声色の使い分けを自分もできないかなと思って真似していて、それがすごく楽しくて。自分もアニメーション映画の声のお仕事をやってみたいとずっと思っていました」とアニメ愛を語った。
ジブリのキャラクターで一番真似ていたのは『となりのトトロ』だそう。「メイちゃんは楽しみながらやっていて、サツキはけっこう真剣にやっていました。ほかにも『天空の城ラピュタ』のシータや、『借りぐらしのアリエッティ』のアリエッティなど、ヒロインの女の子をよく真似していました」
アニメ作品の経験を重ねても「声優さんの表現はなかなかたどり着けないです」とプロのすごさを痛感しているという橋本。
また、「周りが全員声優さんだとどうしても浮いてしまうというか、毛色が違うと感じてしまいます」と言い、「今回は俳優さんが多いので、声優さんのことを勉強してあまりにそういう表現に偏ってしまっても逆に浮いてしまうと思い、俳優だからこそできる表現と、アニメーションならではの抑揚など、バランスをとりながらやりました」と説明した。
『僕愛』の和音役では、制作サイドから「理系っぽい話し方、固い口調、抑揚をなくす」とリクエストされたそうで、「どうすればそこにたどり着けるのだろうと試行錯誤し、自分のできることと皆さんのイメージをすり合わせていきました」と語った。
●声から役作りした経験が大河にも『僕愛』にも生きた
本作のように「声から役を作っていくことは普段の演技ではあまりない」とのことだが、映画『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』(2020)では声から役を作ったという。「監督の成島出さんから『もっと声を低くしてほしい』とか『日本の昔の女優さんの声を出してほしい』という話があり、そのときにこんなに喉の奥の空間を使って出す声なのだと知りました」
そこから声への意識が変わり、「自分の声に興味を持ち始めました」と明かす。「それまでもボイストレーニングはやっていましたがどこか本腰ではなくて。そこから自分の体はどういう声が出るのか、興味を持って突き詰めるようになったので、そういった経験を持った上で『僕愛』を演じられたことは有難かったです」
昔の女優の声というのは、全体的なイメージとしてだけでなく、高峰秀子さんや原節子さんなど、具体的に昭和の大女優を参考に。その挑戦によって声の幅を広げることができたという。
「現代の人というか、特に私は空間が狭くて声が前にいってしまうクセがあり、奥行きがなかったり、響きがなかったり、低音が出せなかったり、声の範囲が狭かったので、イメージした声にたどり着くのが難しかったですが、そこから声の幅が広がりました」
その経験は、主人公・渋沢栄一の妻・千代を演じた昨年の大河ドラマ『青天を衝け』、そして『僕愛』にも生きたという。
「大河ドラマでは幼少期から40代まで演じ、見た目だけでなく声も年齢を重ねていかなければならなくて、ここでも昔の女優さんの声を練習したのが役立ちました。重心が低く、響きのある落ち着いた声を意識し、なんとか乗り越えました。今回の和音さんも38歳まで演じさせていただき、高校生から大人になるという年齢の変遷を声で表現したので、(その経験が)生かせたと感じています」
『僕愛』と『君愛』は並行世界をテーマにした物語で、2つの世界が絡み合い交差して、お互いがお互いの世界を支え合っている。
本作に感じている魅力を尋ねると、橋本は「円環のように2つの作品がつながっている骨格そのものも新しくて面白いし、私が一番感動したのが、『僕愛』の暦さんがほかの世界の自分の幸せを願うシーンがあって、それは『君愛』の暦の幸せを願う言葉でもあるんだけど、つまりは今の自分の幸せを願っていることに繋がるという、ここに大きな円環ができていて、壮大な宇宙を感じて鳥肌が立つくらい感動しました」と熱弁。
さらに、「並行世界の話なので現実ではありえないはずですが、この作品はものすごく身近に感じるんです。暦の話は並行世界ありきの言葉なのに、現実を生きている私たちにもちゃんと通じる言葉になっていると思います」と続け、「自分の潜在意識にあったものが具現化されたような作品で、自分の生き方や考え方とリンクした感じがしています。でもまだふわふわしていて、時間を重ねていくにつれて合致する気がします」と話した。
●“全シーン100%全力”で過剰な責任感と力が入っていた
本作で憧れていたアニメーション映画のヒロインを務めたが、これから声の仕事で挑戦してみたいことを尋ねると、「『君愛』の栞ちゃんをやってみたい」と告白。
「私が真似してきた声が栞ちゃんの声に近かったんです。かわいらしくて少女性がある、男性の理想像のような女の子。(栞を演じた)彩珠ちゃんの声もすごく素敵で、早速真似しています」と笑った。
そして、「栞ちゃんのようなかわいい女の子の声をいつか演じられたら」と言い、「実写だと私にはできないキャラクターだと思います。私はよくクールだと言われ、キュートなイメージはないと思うので、声だけでもやってみたいなと。もちろん実写でもいろんな役を演じてみたいですが、アニメーションのほうが演じられるキャラクターの可能性が広い気がします」と語った。
ここ数年で声への意識が強まったという橋本だが、仕事との向き合い方にも変化があり、「力の抜き方を覚えてきました」と明かす。
「3、4年前はガチガチに全部のセリフ、全シーン100%全力でやっていたんです。たった一言のセリフをものすごく時間をかけて考えていました。今は『感覚でやれるから大丈夫』と思えるようになりましたが、以前は全部頭で理解して腑に落ちないとやっちゃいけないと思い、過剰な責任感と力が入っていました」
最近は「80%が私の100%なんだ」という考えに。「抜いた20%の力も、抜いているというエネルギーを使っているわけだから、それも実は100%で、全力なだけが全力じゃないんだと。以前は一つでも至らなかったと思ったらものすごく落ち込んでいましたが、力を抜けるようになってからは自分に振り回されることが減り、強くなってきたと思っています」
何がきっかけで「80%が自分の100%」と気づいたのか尋ねると、「泣くお芝居のときに気合が入りすぎて泣けなかったんです。練習だとできるのに本番だとできないという、プレッシャーや緊張によって100%のパフォーマンスを引き出せなくなっていたので、これはダメだなと気づきました」と説明。
そう痛感した作品は日本テレビ系ドラマ『同期のサクラ』(2019)とのことで、「泣くのがすべてではないとわかっているのに泣けなかったことが悔しくて。涙が出なくても心さえ動いていればいいのですが、その心の動きまで筋肉で止めてしまっていたので、そこをほぐして演じるようにしました」と語った。
80%という意識は『僕愛』にも生きたそうで、涙のシーンで「前だったら泣かないとと力が入ってしまっていたと思いますが、今回は自然に出てくる感じのままでやりました」と話した。
経験を重ね進化を続けている橋本。今後の目標を尋ねると「ご一緒したい方々とご一緒したいということぐらいです」とし、「声優のお仕事もまた機会をいただけたら挑戦してみたいです」とも話した。
■橋本愛
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。2010年『Give and Go』で映画初出演初主演。同年映画『告白』で注目を集め、2013年映画『桐島、部活やめるってよ』などで数々の映画賞を受賞。同年NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し幅広い世代から認知された。近年では、NHK大河ドラマ『西郷どん』(18)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)、そして『青天を衝け』では主人公・渋沢栄一の妻・千代役を好演した。今年は、映画『ホリック xxxHOLiC』が公開され、主演ドラマ『家庭教師のトラコ』(日本テレビ)も放送された。さらに、コラム・写真・ファッションについての連載企画を担当するなど、幅広く活躍している。