2022年10月07日06時00分 / 提供:マイナビニュース
●『今日、ドイツ村は光らない』きっかけは佐久間宣行氏
業界で今最も注目を集めるグループ・ダウ90000にとって初の連続ドラマ『今日、ドイツ村は光らない』(地上波4話=10月8日13:50頃、15日14:50頃、22日14:50頃、11月5日14:50頃/Hulu11話=毎週水曜0:00最新話配信)。千葉県にあるテーマパーク「東京ドイツ村」の最大の目玉であるイルミネーションが始まる前日、いわば“1年で最も暇な1日”での男女9人の悲喜こもごもを描くショートドラマだ。
『有吉の壁』『でっけぇ風呂場で待ってます』などを手がける今作の総合演出・橋本和明氏は、なぜダウ90000に白羽の矢を立てたのか。そして、彼らの存在が象徴するように、演劇とコントのボーダーがなくなってきた現状を、どのように見ているのか――。
○■日テレのタイムテーブルに“5分の異物”
橋本氏がダウ90000と出会ったきっかけは、コント番組『東京03とスタア』『イザミと東京03』でタッグを組んだ佐久間宣行氏からのおすすめだった。「『橋本さん、ダウ90000って面白いですよ』と教えてくれて、その日に『旅館じゃないんだからさ』(21年9月)っていう第2回公演を見に行かせてもらったら、すごく面白かったんです。8人の知らない人が出ているのに、こんなに面白いんだということに感動しました」と振り返る。
そこから、「これから映像の世界に踏み出すときにしか見られない、彼らの演技や表情を撮りたい」と考えた橋本氏は、こちらもダウ90000を見て衝撃を受けていた鈴木将大プロデューサーと彼らの番組をできないかと思案していたところ、週末に5分枠があるという話が浮上。地上波の4話だけでストーリーを成立させつつ、Huluの11話で登場人物のバックボーンを描くことで、「セリフの意味がより深く分かるという構造にして、地上波だけ見てもいいし、Hulu単体で見てもいいという“二度おいしい”仕掛け」という今回の企画が生まれた。
5分という枠がマッチすると直感した理由は、「まだダウのことを知らない人もいっぱいいると思うので、パッとテレビを見た人が『何だこの会話劇。でもクセになるし、面白いし、この人たち誰なんだろう?』となるんじゃないかと。今のテレビって分かりやすいものを流しすぎていると僕らの中でも思うことがあるので、そういう“5分の異物”が日本テレビのタイムテーブルに突然流れると面白いんじゃないかと考えました」と明かす。
○■蓮見翔脚本の絶妙なドイツ村イジり
物語の舞台であり、実際のロケ地でもある東京ドイツ村は、『有吉の壁』でも2回ロケを行った、バラエティ御用達の地。ダウ90000主宰の蓮見翔による脚本は、「ドイツ村を絶妙にイジってきてて(笑)。『なんでドイツ村にそば屋があるんだよ』というツッコミだったり、“おもしろ自転車コーナー”という名前に『私が乗ってる様が面白いものじゃないですか、これ』っていうセリフがあるように、やっぱりすごくセンスのあるイジりで、結果としてドイツ村である意味があることになってる。『今日、ドイツ村は光らない』というタイトルも含めて、全体的に不思議な手触りのドラマになっていて、今の若い劇作家の中で圧倒的な脚本力を見ました」と、期待どおりのものとなった。
稽古では、蓮見とともにセリフの調整を行ったが、「トーンがすごく繊細で、分かりやすく大きく声を張るとか、ツッコミっぽくするっていうことじゃなくて、ちょっとした間やイントネーションの付け方で丁寧に丁寧に紡いでいくという作業をやっています」と、蓮見流の演出が生かされている。それを踏まえ、「なるべくその空気感を残すような作品にしたいので、あまり細かくカット割りしないほうがいいのかなと」と、編集方針を定めた。
主演には、「ダウの温度感にちょうど合う気がしたんです」という小関裕太を起用。「ダウはやっぱりチーム感があるから、最初からワンチームで作品を作れるのですごく楽なんですけど、小関くんはそこに本当によく溶け込んでいて。もう現場ではダウの人にしか見えなくて、素晴らしいです(笑)」と、うまくハマった。
こうした若い才能と仕事することによって、橋本氏は大きな刺激を受けたという。
「本読みから一言一言に『どうやったら面白いか』『この言い方は違うな』とすごく考えて、翌日に舞台の稽古があったのに、そこでも細かく本読みをやってくれていたそうなんです。セリフの1つ1つをすごく大事にするのが、今のダウのすごさだし、劇団の草創期の雰囲気なんですよね。それを見て、やっぱり作品ってそういうことを大事にしなきゃダメで、1個1個何が面白いかの積み重ねなんだということを、もう1回教えられた気がしました。現場を楽しむことの大切さとかも含めて、初心を思い出しますね」
●面白いものを作るということに、もう境はない
演劇的なアプローチからコントを見せるダウ90000が頭角を現す一方で、近年は演技力の高い芸人が増え、演劇とコントのボーダーラインがなくなってきている印象がある。『有吉の壁』『笑う心臓』といったお笑い番組や、『寝ないの?小山内三兄弟』『でっけぇ風呂場で待ってます』などのドラマと、ジャンルを超えて手がける橋本氏は、どのように見ているのか。
「芸人さんの演技力がすごくなっているのは、今、学生お笑いがすごく盛り上がっているのもあると思います。僕が学生時代に作った『コント集団ナナペーハー』には、当時8人くらいしかいなかったのに、今のチラシを見たら30~40人いて、コントをやる裾野が広がってるんですよね。また、かが屋とかハナコとか、すごく分析して計算したセリフのコント作るタイプの芸人さんも増えてきてるし、彼らは作劇もできる。ダウも、『キングオブコント』にも『M-1』にも『ネタパレ』にも出るし、カテゴリーを超えている存在はカッコいいですよね。だから、面白いものを作るということに、もう境ってないのかもしれないです」
出来の悪いドラマを揶揄するのに「コントじゃないんだから」という言い方もあったが、コントがドラマより劣る作品という認識も、もはや過去のものだ。
「東京03さんのコント番組で、ゲストの俳優さんが『こんなにプレッシャーを感じる番組はないです』と言ってくださって、全部セリフを入れてきて、本番で真剣勝負されるんですよ。実はコントって、笑いを取らないとその芝居は意味がないというすごくシビアなステージなんですよね。そこに対して、俳優の皆さんがリスペクトしてくださるというのをすごく感じました」
○■世代を超えて取り組むことの意義
これまで様々な番組を手がけてきたが、「残りの人生はコントを盛り上げていきたい」という橋本氏。その真意を聞くと、「南原(清隆)さんが『結局、学生の頃にやってたことが一番やりたかったことなんだよね』と言ってたのに『なるほど』と思って、だから自分も最後はコントに戻るんだろうなと。だけど1人で戻るのも寂しいから、ダウ90000を巻き込んで一緒にやらせてもらってるんです(笑)」と答え、「今後、第2弾、第3弾とやれたら最高ですね」と構想を語る。
また、世代を超えて一緒に取り組むことによって、「クリアできる問題もあるし、もっと豊かになってくるし、もっと大きなことができると思うんです」と意義も強調。
さらに、「メディアやプラットフォームがいっぱいできて、“推し文化”と言われるように、好きなものをより楽しんで生きていける時代になってきた中で、『お笑いが好き』『コントが好き』という人が生まれて、それがずっと続いていくって、文化の継承として本当に素敵なことじゃないですか。僕はシティボーイズやジョビジョバを見て憧れて『コントって最高だな』と思ったので、ダウを見てまたグループを組んでコントをやる人たちが出てくるだろうと思うと、楽しみですよね」と期待を述べた。
●橋本和明1978年生まれ、大分県出身。東京大学で落語研究会に所属し、現在も続く「コント集団ナナペーハー」を立ち上げる。同大大学院修了後、03年に日本テレビ放送網入社。『不可思議探偵団』『ニノさん』『マツコとマツコ』『卒業バカメンタリー』『Sexy Zoneのたった3日間で人生は変わるのか!?』などで企画・演出、18年・21年の『24時間テレビ』で総合演出を担当。現在は『有吉の壁』『有吉ゼミ』『マツコ会議』といったバラエティ番組のほか、『寝ないの?小山内三兄弟』『ナゾドキシアター「アシタを忘れないで」』『あいつが上手で下手が僕で』などドラマ・舞台の演出も手がける。