2022年10月05日18時47分 / 提供:マイナビニュース
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新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、不二製油グループ本社、新潟薬科大学の3者は10月4日、産業用スマートセルの発酵培養により得られた油脂酵母から、パーム油の代替油脂を培養液1L当たり98gという世界トップレベルの生産量を6日間で実現したことを発表した。
同成果は、10月12日から14日までパシフィコ横浜で開催されるバイオテクノロジー展「BioJapan2022」のNEDOブースにて展示される予定だという。また同展示会の初日には、パシフィコ横浜ANNEXホールにおいてNEDOのセミナーが開催され、そこでも今回のテーマが紹介される予定だという。
植物や微生物などの生物を用いて物質を生産する技術「バイオものづくり」は、従来の化学プロセスによる生産技術と比べて省エネルギーであると同時に、原料を化石資源に依存しないバイオマスから生産することが可能な一方、菌株の選抜・育種、培養条件の最適化、生産のスケールアップ検討など、各開発段階の連携ができていないため、バイオ製品の社会実装が停滞気味となっていることが問題とされている。
このような背景のもと、NEDOが2020年度から2026年度までの予定で実施しているのが、「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発(バイオものづくりプロジェクト)」で、その一環として、企業主体で実際の産業用宿主をベースとして、遺伝子工学技術や情報科学技術を用いることで、これまで生産困難だった化合物などの生産を実現化する宿主を開発するテーマ「脂溶性化合物生産のための油脂酵母産業用スマートセル構築」が推進されている。
同テーマにおいて、不二製油グループ本社と新潟薬科大は、今後の供給不足が懸念される油糧作物の代替生産技術として、油脂高蓄積酵母による油脂生産の研究開発を進めている。
具体的には、より多くの油脂を生産できる油脂酵母を開発し、産業用スマートセルによる2030年ごろまでの実用化につなげるため、各参画機関と連携し、油脂の生合成経路設計の最適化、工学的手法による油脂高生産プロセス開発が進められている。同酵母による低環境負荷の油脂生産システムの実現は、食品や非食品用途の油脂の安定供給に貢献できる技術になると期待されている。
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油脂酵母によるパーム油代替油脂を生産するための実用化に向けた課題としては、主に以下の4点などが挙げられている。
油脂品質の向上
油脂生産性の向上(油脂生産速度、対糖油脂収率)
細胞増殖性の向上(比増殖速度、細胞密度)
培養から菌体回収・油脂精製プロセスの実用的な製造工程
今回のテーマでは、これらの課題を解決していく中で、より高付加価値な油脂組成のオレイン酸を高効率で発酵生産可能なスマートセル株を用いて、油脂酵母からパーム油の代替油脂の培養を5L発酵槽で実施したとする。その結果、6日間で培養液1L当たり98gの油脂の生産に成功したという(油脂生産性98g-Lipid/L/6days)。
また対糖油脂収率では20%と良好な成果が得られ、今回のテーマの中間目標(2022年度)「脂溶性化合物の生産性70g-Lipid/L/6days(油脂変換率:20%)」が達成された。この成果は油脂生産量としては世界トップレベルの水準で、パーム油代替油脂の実用化に向けた、2026年度の最終目標である「100g-Lipid/L/4days」、対糖油脂収率25%の達成に大きく近づいたとする。
さらに、この油脂生産に使用する産業用スマートセルについては、油脂合成が効率よく進むよう、代謝経路を改善した産業用油脂高蓄積酵母として継続して開発・改良しているとした。
NEDO、不二製油グループ本社、新潟薬科大は、油脂酵母による高効率な油脂生産技術の確立を目標とし、引き続き産業用スマートセルの開発を進めていくという。今後、油脂生産速度や対糖油脂収率を向上させ、最終的には2050年ごろ、世界最高水準の油脂生産性を持つ産業用スマートセルによる、カーボンリサイクル型の国内油脂供給システムの実現を目指すとしている。