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東大、特殊な超伝導状態「FFLO」の空間変調性の証拠を発見

2022年10月05日18時35分 / 提供:マイナビニュース


東京大学(東大)は10月4日、有機超伝導体において弱磁場で均一だった超伝導状態が、約20T以上の強磁場中では、超伝導部分と金属部分が周期的に変調した構造を持つ特殊な超伝導「FFLO(Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov)状態」になることを発見したと発表した。

同成果は、東大 物性研究所(物性研)の今城周作特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

超伝導は現象としての発見から100年以上が経つが、現在も謎が多い現象とされている。基本的にはBCS理論で説明されるが、中には「磁場に弱い」という弱点の1つを克服できる特異なFFLO状態など、特殊な超伝導も存在していることが知られている。

FFLO状態ではBCS理論で説明される通常の超伝導と異なり、超伝導状態の電子対運動量が有限となる。この有限の運動量により、超伝導部分と金属部分が実空間上で周期的に変調した構造を持つという特徴を示し、磁場による破壊効果を免れているという。しかし、FFLO状態は理論として提唱されてから半世紀以上が経つが、その空間変調性を直接観測した例はなかったとされる。

FFLO状態の発現には、本来は超伝導の天敵ともいえる強磁場環境が必要であり、乱れが少ない綺麗な超伝導体でしか現れないことが予想されている。しかし、多くの超伝導体はその強磁場領域に到達するまでに超伝導状態が磁場によって破壊されてしまうか、原子欠陥や不純物によりFFLO状態自体が抑制されてしまう。また、FFLO状態を精密に観測できる手法自体が少ないという課題もあり、これら問題によって実験的検証が困難だったという。

そこで研究チームは今回、有機超伝導体の1つである、「κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2」を研究対象とすることにしたという。有機超伝導体が選ばれたのは、有機分子が持つ特異な分子形状のおかげで、以下の2点の理由からFFLO状態が現れる可能性が高いと期待されているからだという。

特定方向に磁場を印加した際の超伝導状態は磁場に強い
異分子混入や欠陥形成が起きにくい

実験では、パルス強磁場を用いてFFLO状態が現れると予想される強磁場領域まで超音波測定による音速が測定された。ここではFFLO状態が現れるとされる条件に合わせるため、温度は絶対温度1.6Kで、磁場は結晶のc軸方向に0.1度以内の精度で印加された。


その結果、21T以下では、どちらの方向でも同じような磁場依存性が示された。BCS理論に基づいた通常の超伝導状態では空間変調性がないため、結晶中で均一に超伝導状態が現れる。そのため、結晶に対して音波を印加する方向を変化させてもほとんど音速の磁場依存性は変化せず、音波方向に対して等方的な応答となるのが自然だという。

一方、21~25Tでは音波方向によって磁場依存性が異なり、異方的な応答が示されたとする。BCS理論では21Tがこの物質の超伝導状態が破壊されてしまう限界磁場であり、この21T以上の磁場領域こそがFFLO状態が現れると理論的に予想されている領域だという。

さらに25T以上までいくと、電気抵抗測定から通常の金属状態になることがわかっており、異方性は消失。つまり、FFLO状態のみで音波方向に対して異方性を示すことが発見されたとする。

空間変調した超伝導では、音波方向によって周期構造に沿って伝搬するか、またいで伝搬するかという差がある。これこそが異方性を示す原因であり、この振る舞いから空間変調している方向を決定することに成功したと研究チームでは説明している。この有機超伝導体の電子状態に基づいて、理論的に予想されるFFLO状態の空間変調方向が、今回の結果で得られた方向と間違いなく一致することが確かめられ、FFLO状態が現れている決定的な証拠となったとする。

今回の研究による異方性の検出によって、これまで実験的議論が困難だったFFLO状態の最大の特徴の1つである空間変調という性質の詳細について、遂に踏み込めるようになったという。実際、先行研究では間接的な議論が多く、空間変調に関する決定的な情報は得られていなかったとする。

なお研究チームでは、異方性を通したFFLO状態の正確な空間変調性の証拠が発見されたのは今回が初めてであり、画期的な成果だとしており、今後は、ほかの候補物質の測定も行うことで、固体中のFFLO状態の実験的理解が加速していくことが期待されるとしている。また、FFLO状態の電子対形成が示す空間変調性は固体物性物理だけの概念でなく、素粒子物理などの階層が異なる物理分野でも現れることから、今回の成果は多岐にわたる物理現象の理解に重要な基礎となることが期待されるとしている。

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