2022年10月04日17時32分 / 提供:マイナビニュース
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東京工業大学(東工大)は、「磁気光学効果」を活用して、量子コンピュータなどが動作する極低温環境用の光変調器を開発し、高速データ通信に成功したことを発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の庄司雄哉准教授、同・工学院 電気電子系の高村陽太助教、同・水本哲弥名誉教授、米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校 電気・コンピュータ工学専攻のパオロ・ピンタス研究員、同・ジョン・バウアーズ教授、レイセオン BBN テクノロジーズのレオナルド・ランザニ研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のエレクトロニクスの全般を扱う学術誌「Nature Electronics」に掲載された。
量子コンピュータや超伝導マイクロプロセッサなどは、絶対零度(-273.15℃)に極めて近い極低温下でのみ動作するものが多い。そのため、量子コンピュータで計算されたデータの取り出しなど、極低温環境下のシステムと既存の室温環境下のシステムとの接続において、いくつかの障害が発生してしまっていたという。
現状では、量子コンピュータが計算したデータは、電気信号として金属配線経由で取り出されているが、そこから熱が伝わってしまうため、信号を取り出せる速度が限られ、それがボトルネックとなり、量子コンピュータ本来の性能を十分に活かせていなかったという。
この課題の解決策として期待されているのが、石英ガラス製で熱の伝導を小さく抑えながら、従来の1000倍以上の高速伝送が期待できる光ファイバを経由したデータ信号の取り出しだという。
しかし、それには量子コンピュータから取り出される電気信号を光信号に変換でき、なおかつ極低温環境下でも効率よく駆動できる光変調器が必要であることから、研究チームは今回、そうした極低温環境と室温環境との間で高速な信号のやり取りを可能とする、磁気光学効果を活用した光変調器の開発に取り組むことにしたという。
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今回の研究で開発された光変調器は、電気信号が発生させた誘導磁界が、磁気光学ガーネットの光学特性を変化させるという磁気光学効果を利用した変調器だという。
この磁気光学変調器の構造は、光の通り道となるシリコン光導波路を挟む形で、マイクロリング共振器と磁気光学ガーネットが接合されている。金で形成されたコイルに電気信号(電流)が流れると、マイクロリング共振器がその上にある磁気光学ガーネットと作用。その結果、シリコン光導波路を通る光の強度が磁気光学効果によって変化させられ、それによって光信号が生成されるという仕組みだという。
従来の光変調器は、コンデンサのような構造を用いて電圧によって駆動するために高い抵抗を持っており、極低温で超伝導状態となった抵抗のない電気配線とは整合性が低かったというが、今回の研究で開発された磁気光学変調器は電流で駆動することから抵抗が低く、超伝導回路との接続性も良いという。
さらに、光通信でよく用いられる波長1550nmの光で動作し、シリコンフォトニクスを用いた光集積回路に搭載されているため、汎用性にも優れた構造となっており、測定の結果、2Gbit/sの信号伝送を達成したという。
なお、研究チームでは今回の研究成果について、量子コンピュータのような極低温を用いた次世代計算機の実用化に向け、重要な基幹技術の1つとなると考えられるとしており、今後は、磁気光学ガーネットに代えて新たな材料を用いることで、極低温下でのさらなる高効率動作が可能な光変調器の開発を目指すとしている。