2022年10月04日14時35分 / 提供:マイナビニュース
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早稲田大学(早大)、理化学研究所(理研)、大阪大学(阪大)、科学技術振興機構(JST)の4者は9月30日、ガンマ線を可視化できる高感度コンプトンカメラを開発し、雷雲から生じるガンマ線のイメージングに成功したことを発表した。
同成果は、早大 理工学術院の片岡淳教授、理研 開拓研究本部の榎戸輝揚 理研白眉研究チームリーダー、阪大大学院 工学研究科の和田有希助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球化学全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。
近年、雷雲中の強い電場で電子が加速され、X線やガンマ線を放出することがわかってきた。雷から生ずるガンマ線には、継続時間が数百ミリ秒と短く、稲妻の放電現象と完全に同期する「ガンマ線フラッシュ(TGF)」と、稲妻とは同期せず、継続時間が数分間にも及ぶ「雷雲ガンマ線(ガンマ線グロー)」が知られている。
雷雲ガンマ線は、雲の中で雪崩的に増えた相対論的な電子が起こす特殊な放射(制動放射)と考えられている。しかし、雷雲中の「どこで」「どのように」電子が加速されているのかについては、まだ十分にわかっていない。その理由は、従来の観測装置ではガンマ線を検出できても、雲の中の位置まで特定することができなかったためだという。
そこで研究チームは、2019年からシンチレータを用いた予備測定に続き、2021年冬季から独自に開発したガンマ線可視化装置「コンプトンカメラ」を導入することにしたという。
ガンマ線も電磁波(光)の一種だが、粒子としての性質が強いため、レンズや反射鏡を使ってイメージングすることは不可能とされる。しかし、その粒子としての性質を逆に利用し、まったく異なる方法でイメージングを実現するのがコンプトンカメラだという。
ガンマ線が検出器に入射すると、エネルギーの一部を電子に渡し、自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」と呼ばれる反応を起こす。コンプトンカメラでは「散乱体」と「吸収体」で電子と散乱ガンマ線、両方の運動学を同時かつ正確に解くことで、入射ガンマ線の到来方向を決定する仕組みとされている。今回開発されたコンプトンカメラは、縦横の大きさ10cm×10cm、散乱体3mm厚、吸収体5mm厚となっている。
日本海側の雷は冬季に発生し、しかも地形的な理由などから、雲底が1km以下になるときもあるほど低いことが知られていることから、今回の研究ではコンプトンカメラを、日本海沿岸から約25kmの内陸に位置する新潟県十日町市松代にある生涯教育センターに設置して観測が行われた。
コンプトンカメラは、視野中心から±70度という広い視野を同時に俯瞰することができ、これにより、いつ、どこでガンマ線が発生しても、感度良く捉えることが可能だという。さらに観測サイトは標高約410mと雲底に近いため、より観測がしやすく、未知の現象の発見も期待された。
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そして2022年1月14日、雷雲に付随した2回のガンマ線イベントの検出に成功。1回目は午前6時13分頃から約4分間、2回目は午前11時51分頃から約4分間にわたり、ガンマ線強度が増大。両イベントともに、典型的な雷雲ガンマ線であることが確認された。
今回得られたガンマ線画像の有意性(信頼性)についての綿密な検証が行われ、偶然(雷雲と関係なく)観測される確率はどちらも0.01%未満だという。さらに、描出したガンマ線画像の再現実験でも、観測時と同様な画像が得られ、今回の観測結果を強くサポートすることになったとする。
雷は身近でダイナミックな自然現象の1つでありながら、科学的にはまだ多くの謎が残されている。さらに、ゲリラ豪雨のような異常気象や落雷に伴う停電を含め、常に社会的な関心を集めるホットな現象といえる。最近では、理研を中心に一般市民参加型のシチズンサイエンス「雷雲プロジェクト:ふしぎな雷雲ガンモを探せ!」も開始され、現在金沢市内に50か所を超える多地点マッピング拠点が展開されており、今回の研究もその流れを汲む成果だという。
日本海側では冬季に雷が多いとはいえ、太平洋側の夏の雷と比べると発生回数が少なく、1つの観測点で1シーズンに1~2回しか期待できないという。研究を加速するためには、より多くのイベントを検出するには装置の数を増やすことが有効となるため、今後、研究チームではコンプトンカメラを毎年3個程度ずつ製作し、金沢市内を含むさらに多くの拠点展開を目指すとしている。
また、今回観測に用いたコンプトンカメラは、150keV以下のガンマ線に感度がないという。より低エネルギーのガンマ線を効率良く捉えるため、新発想の「広帯域ハイブリッド・コンプトンカメラ」の導入も検討しているとしている。一般に、ガンマ線の到来数は低エネルギーほどイベント数が多いため、この新型カメラであれば、より多数のイベントの検出が容易になることが見込まれると研究チームでは説明している。