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“平成を象徴する漫画”とは?『ONE PIECE』『名探偵コナン』『うしおととら』…歴史に残る名作の魅力に迫る【漫画で振り返る平成】

2019年04月30日12時00分 / 提供:ニコニコニュース

 「漫画で振り返る平成」【※】と題したニコニコ生放送にて、数々の漫画雑誌に連載された作品から、出演者らが思う平成を象徴するであろう“漫画”について語り合われた。

 ここでは、『うる星やつら』『名探偵コナン』『うしおととら』 『ラブひな』『金田一少年の事件簿』『SLAM DUNK』『るろうに剣心』『ONE PIECE』について語られた部分をピックアップして紹介していく。

※「漫画で振り返る平成
番組の正式タイトルは「元サンデー編集者も出演【漫画で振り返る平成】~出演:さやわか、大井昌和、武者正昭~」。批評家・漫画原作者のさやわか氏、漫画家の大井昌和氏、元サンデー編集者・comico編集長の武者正昭氏らが出演。2019年3月31日に放送された。

平成のキャラ文化につながる『うる星やつら』文脈
さやわか:
 これ(『うる星やつら』)完全に昭和ですよね。

大井:
 始まったのも終わったのも昭和です。ただ、平成のキャラ文化っていうのは全部これに入っているってことが言いたくて。

さやわか:
 そうですよね。

大井:
 もし、平成生まれの方がいたら、『うる星やつら』だけは読んでほしい。

 『けいおん!』とか『涼宮ハルヒの憂鬱』、あと『AIR』(エアー)とかギャルゲー好きなのであれば、まずこの高橋留美子版の『うる星やつら』を読んでからそういう文化に触れてもらえると、日本のキャラ文化というのが80年代に1回、高橋留美子が“バンッ!”と作って、それを受けて90年代、平成のカルチャーが始まったんだってことをね、ちゃんとわかってほしいということだけを言いたくて。

さやわか:
 “わかってほしい”とか“言いたくて”って、魂でしゃべっている感じが。

大井:
 いや、これもまた押井守が悪くて(笑)。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は確かに超傑作なんだけど。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』
(画像はAmazon | うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー [DVD] | アニメより)
さやわか:
 いや、傑作傑作。もう、あれ人類史に残る傑作ではあるのだけれども。

大井:
 人類史に残る……。むしろ映画史を語るときには『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』が絶対に入る。

さやわか:
 出てくるんだけれども、しかし!

大井:
 『うる星やつら』っていうと難しくなってくる。

さやわか:
 難しいんですよ。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』はよくないよって話ではなく。

大井:
 そう、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は超最高であると。

さやわか:
 超最高なんだけれども。一方で、じゃあ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』っていうか、押井守が最高だとしたら、じゃあ高橋留美子はなにをやった人なの? ってことが見えなくなってくる。

大井:
 全部語られなくなるっていうか……だからアニオタが押井守を持ち上げすぎているのが悪いんですよね。

 押井守と高橋留美子、どちらが偉いかと言ったら高橋留美子のほうが偉いに決まっているわけなんですよ。

さやわか:
 それはそうですよ! そして「女性性の問題ですね」ってコメントがありましたけど、その通りだと思いますよ。

大井:
 だから俺は子供のころ、テレビアニメの『うる星やつら』はあまり入り込めなかったんですよ。

 「なんでかな?」って子供のころわからなかったんですよね。絵も綺麗だし、声優の平野文さんの声もすごく好きだったし、OPの歌とかも超最高だったのに。なんでダメだったんだろうって大人になってから見てみたら、あれは男のアニメになっているんですよね。

さやわか:
 うん、そうですね。

大井:
 『うる星やつら』は女性目線で描かれた少年ラブコメだったからよかったのに、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』は男性目線の男性ラブコメなわけですよ。むしろ『ラブひな』に近い、そこが俺の中でなんか……。

 アニメがちゃんと出来のいい二次創作とも言えるわけなんだけれども。

さやわか:
 出来のいい二次創作っていうのはいい言いかたですね。

大井:
 だから、その辺でみんなアニメ『うる星やつら』をわかった気になってもらわないで、ぜひ高橋留美子先生の『うる星やつら』を。

武者:
 オリジナルを?

大井:
 オリジナルを! というか原点。

さやわか:
 原点。これホントおもしろいので……しかしこの表紙ヤバいなぁ。

大井:
 ヤバいでしょ!

さやわか:
 この太陽とかね……。

大井:
 カッコよすぎだっていうね。日本の平成キャラ文化はこれで始まっているので。……わかるかなぁ。

さやわか:
 いや、これはおもしろいですよ。でも、中盤とかも結構儚い感じになってきて、それはそれで好きなんですよね。みんな嫌うんですけど、僕、因幡(いなば)君が好き。みんな嫌うんですけど。

大井:
 (笑)。さやわかさん因幡君好きですよね。

さやわか:
 因幡君、というか三宅しのぶが好き。

大井:
 まあ、あれはしのぶのために用意されているキャラですよね。

さやわか:
 僕の中では結局この作品は三宅しのぶの話なので。異星人が登場するような奇想天外な男性向けラブコメが始まってしまい、彼氏がそれにハマってしまったあとに、普通の人間はどう生きていったらいいか? という物語だと僕は思っていますね。

大井:
 確かにサクラ先生も日本の……普通の人間じゃないもんね。いやぁ、女性がエネルギッシュだよね。

さやわか:
 だから、いまや女性性みたいなことが言われるいまこそ、高橋留美子……いや、高橋留美子にフランス人とかが賞をあげてるべきではないでしょう。勲章とかをあげるべき、日本で。

大井:
 いや、そうなんだよ。日本人が評価していない時点で「この国終わっているな」ってわけなんですよ。

 いまでこそジェンダーの問題だって言ってるわけじゃないですか。この中に竜之介ってキャラがいるわけですよ。竜之介ってキャラは、女の子だけれども、男の子に育てられたみたいなやつで、自分は男だと思っているのに、女の体っていう。そんなのを80年代に描いてるわけですよ、しかも、これを重く描くわけでもなく、ギャグで描いているわけですよ。

さやわか:
 実際に高橋留美子先生は、あの竜之介とオヤジみたいなキャラができてから、この漫画もうちょっと続けようと思って楽しくなって描いたって言われてますね。

大井:
 あんなの昭和に描けないよ普通。

さやわか:
 平成のキャラ文化を準備していた。

大井:
 全部用意してくれたのが高橋留美子先生です。
殺人ラブコメ『名探偵コナン』で描かれる女性の強さ
さやわか:
 そして『名探偵コナン』。これも『うる星やつら』から始まっている話ではあるんですけども、完全なラブコメなんですよ!

大井:
 そう! これ、さやわかさんに言われて「確かに」って思った。

さやわか:
 そもそも『名探偵コナン』の映画って女性の視聴者がめちゃくちゃ多いとかって言われてて、それは「BL的な文脈だろう」とか、「夢女子が見てるんだろう」とか思ってる男性もいると思うんですけど、そういうバカにした考えかた自体が間違っている。そもそも映画って、どの作品を見ても観客動員数の6割が女性らしいんですよ。

 そう考えると『名探偵コナン』みたいな女性をメインターゲットとして据える作品、つまりラブコメですよね。それが映画のトップを取っていくというのはもはや当たり前の話で。

 かつ、これはラブコメなんだけれども、男性向けラブコメの起源としてよく言われる『翔んだカップル』と『うる星やつら』、つまりマガジン系列とサンデー系列という風に考えると、明らかにサンデー系列のやつなんですよ。
『翔んだカップル』
(画像は翔んだカップル 第1巻 | 柳沢きみお |本 | 通販 | Amazonより)
大井:
 完全にサンデー系列ですね。

さやわか:
 つまり、基本、「強い女の子」に許され、場合によっては守られるみたいなストーリー。柳沢きみおさんは、『翔んだカップル』の直前にチャンピオンでもラブコメの原型になる漫画を描いていて、それはどちらかというと『男おいどん』のような、ひとり暮らしモノみたいなやつ?

 で、どちらかというと「ひとり暮らしって辛いな」とか、男の自立みたいな話にプラスして、女の子との同居っていう要素が入ってくる。
『男おいどん』
(画像は男おいどん(1) (週刊少年マガジンコミックス) | 松本零士 | 少年マンガ | Amazon.co.jpホーム | Amazonより)
大井:
 他の作品(すくらんぶるエッグ)でも、そこに彼女がやってきて、なにかしようとするとお父さんがはしごから見ている……みたいなね。

さやわか:
 そうそう(笑)。だから、どちらかというと男の視点というか、男の強さみたいなテーマをマガジンのラブコメって根本では持っちゃっているのだけれども。

 ところが『うる星やつら』から始まるサンデーのラブコメ、いや正確にいうと『うる星やつら』とあだち充さんなんだけども、つまり『ナイン』や『みゆき』から始まるわけですけれども、もう少し女性性の感覚が強いんですね。男性的なリアリズムの感覚じゃない。だいたい、この女の子は、そもそもキャラクターなんだってところから始まるわけなんですよ。

大井:
 そうなんですよね。宇宙人だからね。宇宙人がトラのビキニを着て、空を飛べるんだからしょうがない。人間っぽさゼロなわけですよ。

さやわか:
 で、一方でおもしろいのが、高橋留美子さんとあだち充さんは、どっちも劇画っぽい絵柄だった人だったんですよ。それが、こういう絵柄を獲得したことによって、アニメ化されたときに爆発的に売れるんですよね。

大井:
 両方ともアニメ化でかなり……。その前から漫画でも売れてたんだけども。

さやわか:
 そのアニメで売れたものを、自分の作品にドンドン取り込んでいったことによって。

大井:
 高橋留美子先生は絵がアニメっぽくなりますからね。

さやわか:
 そうそう。オタクが好きそうなAラインのワンピースとかを女子キャラに着せたりとかね。

大井:
 ランちゃんとかね。

さやわか:
 だからサンデー系はアニメやアニオタとの親和性がすごい高くなっていくんですよ。その路線を引き継いで、青山剛昌さんだとか、椎名高志さんとか、ああいう人が出てくると。

大井:
 椎名高志先生の場合は、高橋留美子ラブコメの男性側の直系みたいな人だけど、青山剛昌先生の場合は少女漫画文法でのラブコメみたいな感じですよね。

さやわか:
 彼の初期作品とか読むと『まじっく快斗』とかは「女の子と大人しか読んでいない」って担当に言われて、「じゃあ男子が読むやつ描くよ」って描いたのが『YAIBA』だと。
『YAIBA』
(画像はYAIBA(1) YAIBA (少年サンデーコミックス) | 青山剛昌 | 少年マンガ | Kindleストア | Amazonより)
 『YAIBA』は男子に大当たりしたんだけれども、じゃあ男子も女子も、どっちもつかもうと思ったのが『名探偵コナン』で、だからこれは完全なラブコメなんです。本人が“殺人ラブコメ”って言うぐらいですから。しかも、90年代というか平成になってからラブコメ文化というのは、漫画に限らずものすごく伸びていて。

 ラブコメってなにか? っていうと、恋愛を「結果」ではなく「経過」で楽しむものなんですね。この時代からそういうものが日本中で、たとえばテレビドラマとかではやり始めるわけですね。なんていうか、王道ですよね。だから『名探偵コナン』は最高って話なんですけど、そして、だからこそ『名探偵コナン』こそ“平成”なわけですよ。

 しかしこれは逆に言うこともできるんです。女性読者にウケてる作品だから現代的だ、みたいな話ですけれども、よく考えるとコミケの参加者だって元々女性のほうが多かったわけじゃないですか。男性でも、24年組【※】の少女漫画とかが好きな人がたくさん来ていた。つまり女性作家とか女性向け作品のほうが、漫画文化とかいわゆるオタク文化では本来メインだった可能性すらあって。

※24年組
昭和24年ころの生まれで、1970年代に少女漫画を描いた日本の女性漫画家たちを指す。萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子、山岸凉子ら。別称「花の24年組」。

大井:
 二次創作的な物は女性的なのがスタートとしては多かったように思いますね。

さやわか:
 多かったわけですよね。キャラクター文化だって女性向け作品とか女性作家とか女性読者のほうがリードしていたところがあった。それの変形として萌え文化とか、男性の好きなエロティックなものだったり、ロリコン漫画とかってものが成立したわけだから。

 それなのに、いまになって『名探偵コナン』の映画とかを見て「まあ女子が騒いでいるだけだろ」みたいな言いかたをするのはおかしいというか、あんたの方がお客さんなんだから男性本位の目線で語るべきではないっていうか、これはむしろ女子目線で楽しむしかない、という風に僕は最終的には思いました。

大井:
 だから、コンテンツに「女子入って来るな」っていうのはよくわからないですよね。

さやわか:
 そうなんですよ。男女の関係については『名探偵コナン』って、原作の第5話ぐらいに本当にいい話があるんですよ。

 かいつまんでいうと、江戸川コナンが犯人から殴られそうになるんです。それを毛利蘭に助けられるわけですね。蘭は強いから、コナンを助けるわけですよ。しかし、そうするとコナンは「女の子に助けられるなんて、これじゃ立場があべこべだぜ、なんとかしなきゃ」って言うんですよ。蘭はそんなことべつに望んでいないのに。これはつまりパターナリズム、父権主義なわけですよ。

 ところが、結局コナンはこのときしかそれを思わないんですね。最終的にサンデー式のラブコメだったからこそ、助けられることをすぐに認めていくんですよ。

大井:
 1巻だからまだそういう“揺らぎ”もあるみたいなことなのかもね。

さやわか:
 1巻はあったんですよ。で、どんどん助けられるっていうか、女の子が強いっていうことを積極的に認めていくのが、サンデーラブコメだったことのよさ。

 だから女性ファンが多いのもうなずけるというか、“蘭ちゃんカッコいい”みたいな読者っていっぱいいるんですね。そして実際、蘭は最強ですからね。いまや劇場版では、至近距離から撃たれた銃弾を避けてますからね。

大井:
 そこまでレベルアップしましたか! さすが空手家(笑)。

さやわか:
 一方で、コナンは戦う力って、阿笠博士のキック力増強シューズぐらいしか持ってないんですね。そこがよかったんだと思います。「女の子のほうが強くたって別にいいじゃん、むしろ助け合ってなんとかしようよ」という漫画なんです。それがいまの時代を捉える理由はあると思う。

大井:
 だからそれを平成でやってたってことですよね。

さやわか:
 そう。多分、青山剛昌さんも気づいてなかったと思うんですよ。なんとなく「これじゃあべこべだぜ」って書いちゃったのもやっぱりそのせいだし。

 あと、もともとこの人は黒澤明監督が好きだったり、モンキー・パンチが好きだったりするんですね。だからやっぱり父権的なハードボイルド的なものがすごい好きなんです。だから唯一この作品の中で昭和的な男性像をもっている人として、毛利小五郎が出てくる。

大井:
 あれはほんとにダメな昭和親父だよね。

さやわか:
 あれは、ダメな昭和親父っていうのをやっているんですよ。

大井:
 だから使い物にならないと(笑)。

武者:
 ヒーローとヒロインの恋はいつも切ないでしょう?

さやわか:
 そうなんですよ。『君の名は。』みたいな感じですよ。
『君の名は。』
(画像はAmazon.co.jp | 【HMV・Loppi限定】「君の名は。」 Blu-ray スタンダード・エディション +ICカード付き DVD・ブルーレイ – 神木隆之介, 上白石萌音, 成田凌, 悠木碧, 島﨑信長, 新海誠より)
大井:
 『君の名は。』をずっとやってるかのようなね。

武者:
 そうそう、ふたりの恋は全然進展しなくて、いつもこう、ずっとすれ違いなんですよね。そこもまたうまい。

大井:
 うまいですよね。それで90何巻行けるってわけですからね。

さやわか:
 この間ようやく付き合い始めましたとかってネットニュースになってましたからね。おせーよって(笑)。

大井:
 (笑)。ようやくですよ。

少年漫画において一番完成度が高い『うしおととら』の特殊性
大井:
 『うしおととら』。まだサンデーのターンだ。

さやわか:
 『うしおととら』は1990年。

武者:
 平成初頭ですね。

大井:
 多分、少年漫画というジャンルにおいて一番完成度が高いのが『うしおととら』。普通、週刊連載というと話を破綻せざるを得ないわけですよね、どうやったって週刊連載だから。毎号アンケートで1位を取らなきゃいけないわけだから。

 おもしろくするのと綺麗にまとめるというのは難しいというか、無理なはずなわけですよ、論理的にね。これがなぜか、うまくいっているっていうのがすごいんですよね。

さやわか:
 でも『からくりサーカス』もそうだったけれども、藤田和日郎先生は本当にすべてを回収して、どのキャラクターも全部「よい形」にもっていくっていう感じがありますよね?
『からくりサーカス』
(画像はからくりサーカス(1) (少年サンデーコミックス) | 藤田和日郎 | 少年マンガ | 本 | Amazonより)
大井:
 そう。これ別にウェルメイド(上質、よくできている)だからいいって言っているわけではないんですよね。別にウェルメイドではないと思っているわけですよ。

 全体としてこれが完成なんだなって思わせてくれる漫画って言ったらいいのかな。伏線もちゃんと綺麗に回収しているんだけれども、キャラクター達が立っている場所みたいなのが全部正解っていうのを、連載しながら見つけられる漫画家って人類に何人いるんだろうみたいな。

 普通は『名探偵コナン』の1巻目みたいに、立ち位置みたいなのが揺らぐのが普通だと思うんだけれども、『うしおととら』を読んでると一度も揺らがない感じがするんだよね。

さやわか:
 キャラクターがしっかりしているんですかね?

武者:
 それは書いているのが藤田さんだから! 『うしおととら』に関しては、始めるまで半年ぐらいかかったんですね。

大井:
 十数回ネーム直したっていう。

武者:
 1ヵ月ぐらい直しをやっていたんですけれども、1話目がなかなかできなくて。半年ぐらい、毎週1回直しをやっていたんですよ。

 描き直していて、僕も何回やったか段々わからなくなってきていて、たくさんやったと思いましたけれども、本人はよく覚えていて「何回ですよ!」って言われてちょっとショックを受けたっていう。

 毎週一生懸命やってるからそんな覚えてなかったんですが、でもそうやっていろいろな可能性を最初に考えたからよかったんじゃないですかね?

大井:
 なるほど、1回そこで全部出してるから。

武者:
 それで多分、考えながら出すんじゃなくて、キャラにしてもこんなのがいてもいいんじゃないかとか、最初にブレインストーミングをやったのがよかったんじゃないかなと。

大井:
 最初に徹底的にブレストやったみたいな。

武者:
 だから始まってからは僕は全然苦労しなくて。

大井:
 だから武者さんが苦労していないということは、先生も苦労してないわけはないでしょうが、ある程度ビジョンが見れて作れたってことですよね。

さやわか:
 スピード感が。まっすぐに向かっていけるっていう。

武者:
 それがよかったのかなって。結構ボツになった最初のエピソードをちゃんとあとで使ってるんですよね。全部ではないですけどかなり使ってて、それも愛着あったのかなって。

大井:
 それはおもしろいですね。僕は新しい企画を作るときって、ネーム5回以上やり直したら別の企画やろうかなってなりますよ。

武者:
 普通はそうですよね。

さやわか:
 いや、だって普通は音を上げますよ。

武者:
 お互い段々空気が重くなっていくので。

大井:
 音を上げるっていうか、ビジョンがわからなくなるから一旦置いておこうって。

武者:
 迷路に入っちゃう。

さやわか:
 これないのかなってなるじゃないですか。

大井:
 最初に見えたビジョンと違うところに行ってるから、変なネームができるだけだからやめておいたほうがいいかな……みたいなのが経験上思うんですよね。

武者:
 そのときはやっちゃったんです。そんな意地の張り合いみたいなことを半年もやったんですよ。

さやわか:
 すごい。

大井:
 俺も本読んだとき、十数回直したネームがこんな傑作になるなんて!? って思いながら読んでたもん。

さやわか:
 ちなみに一番最初のネームとできあがった第一稿っていうのは全然違うんですか?

武者:
 全然違いますね。タイトルも違うし、主人公も違うし。

さやわか:
 主人公も違うんですか?

武者:
 だからホントに、ファンタジーってぐらいしかないくらい。バトルファンタジーってことぐらい。

大井:
 だからこういう作りかたでもたどり着けるんだってことにビックリもしたし、当時リアルタイムで読んでてもこんな漫画読んだことないって思いましたね。

武者:
 すべて藤田先生が頑張ったからですよ。

さやわか:
 だって、半年も直したら、それは多分一番最初にやりたいと思った要素すら取り外しているはずなんですよ。それやったら、正直作家は「これ、俺が描こうと思ったやつじゃないじゃん」って思うはずなんですよ。

大井:
 というか、わかんないから描けなくなるはずなんですよ。

さやわか:
 そうそう。なにがこの話の軸だったのかもうわからなくなると思いますよ。

武者:
 でも、そういうことはずっと話してましたよ。抽象的なことは話してました。

さやわか:
 結局これの話の肝はなんだろうねって話に最終的になっていくんですよね。

大井:
 でもそれがこんなことに……傑作になるとは……。

武者:
 ある日、トンネルを抜けたんですね。

さやわか:
 サンデーでこれだけダイナミックなバトルアクションっていうものをやるんだっていう。

大井:
 で、これもやっぱラブコメが入ってくるわけですよ。

さやわか:
 だってこれ、もう完全にギャルゲーみたいな話ですからね。

大井:
 そう、ギャルゲーみたいな。日本美少女巡りみたいな。美少女ゲームをやりながら、バトル漫画をやるっていう。こんなことが実際に可能なのかっていうね。(コメントを読み)「ご当地ヒロイン」ですよ。

さやわか:
 ご当地ヒロインですよ。センチメンタルグラフィティですよ。

大井:
 それをやりながら、こんなにハードな民俗学的な妖怪話をバトル漫画として展開していくわけですよ。

さやわか:
 そして、初期はかまいたちとか鬼とかが出てくるわけですが、途中からある程度、戦略というかいろいろな問題があったのかもしれませんが、オリジナルの妖怪なんですよね?

武者:
 そうですね。

さやわか:
 だからそれ、そういう怖いものをよく考えるなって。

大井:
 そうだし、グローバルになっていくのがすごくて、妖怪話なのに中国とかインドとか出てくるわけですよ。日本国内の妖怪を倒す話なのに、世界を救う話とはこういうことだなっていうのが綺麗に描けていて。

スタッフ:
 武者さんは設定などにどのくらい関わっていたのでしょうか?

武者:
 全体像はずっとしゃべってましたね。とらの最後のシーンも最初から言ってましたらからね。

大井:
 え、本当ですか?

さやわか:
 最初から言ってたんですか!?

武者:
 ええ。そして、その通りにやってくれたので、奥さんが反対したとかって話を聞きましたけれども、「いや、ちゃんとやったほうがいいと思って」と言いながらちゃんとやってましたね。

さやわか:
 いや、あれが、めちゃめちゃいいんですよね。

大井:
 あれがよかったですよ。

武者:
 最後は決めた通りにやってくれたので。ただ7年くらいやることになったのは驚きましたけどね。そんなに長くなるとは思ってませんでした。

さやわか:
 感慨深いですね。

大井:
 あれを計算して作れるとか……。

武者:
 割と計算づくだったと思いますよ。だんだん絞られていく流れも最初から。あと、ラスボスももちろん決まってましたからね。

大井:
 ラスボスは最初に出てきてたからわかってたけど。

武者:
 そのあたりもだいぶ初期に決まっていて、あとは何回ぐらいやるかっていうね。

大井:
 普通、漫画ってお話レベル、プロットレベルでこうするって決めておいても、要は絵の力で話って変わってくるべきで、とくに藤田先生の場合、弾みがいっぱいありそうじゃないですか。

さやわか:
 これだけの絵のダイナミックさで描いているのに。

大井:
 それなのにそんなプロット通りにいけるんだってことに衝撃を……。

武者:
 あくまで大枠ですよ。大枠。

さやわか:
 大枠って言ってもね……。

大井:
 中国の兄弟が槍作った話あたりでとらのエンディングって決まったのかな、ぐらいに思ってましたね。

さやわか:
 ああ、過去編に行って、とりあえずいろいろな因縁をあとから付け加えたのかなって思ったんだけど。そうではなかったと。

武者:
 僕も全部知っているわけではないですからね。

大井:
 あの絵でコントロールできるっていうのがすごい。

さやわか:
 そしてさっきも言いましたけど、サンデーならではの女の子との関係をメインに据えているのがホントにいい。だってこれ、メインテーマが母の話でしょ。そういうところもすごい好きなんですよね。ジャンプ漫画だったらこうはならないと思うし。

大井:
 ジャンプ、マガジンだとこの“熱さ”ができないんだよね。要は美少女達がたくさん出てくるからテンションも上がるし、敵も怖いから「美少女を守るため」っていうのは、一番原動力としてわかるし。

 ジャンプ、マガジンではありえないスタイルで、バトル漫画を作ったという意味では『うしおととら』は本当に歴史に残る名作だと思ってますね。もちろん諸星大二郎(SF・伝奇)的に楽しむこともできますからね。
“機能主義”赤松健の真骨頂! 『ラブひな』は自動的に風呂にも入る
大井:
 やっぱり、マガジンでなにか挙げろって言われたら『ラブひな』を入れざるを得ない。

  これはさっきの『うる星やつら』で始まった、平成のキャラ文化が一回到達するのがこれですね。

さやわか:
 やっぱりそうですよね。赤松健がいかに賢い人間かというのが。

大井:
 赤松健の頭のよさがここに集約されているという。彼の最大の傑作はこれですよ。

さやわか:
 そうでしょう。やっぱり、寮に温泉があるに決まってるだろう! という天才的な設定がいいですよね。

大井:
 温泉でハーレムをするということによってなにかをすべて省略させたみたいな。

さやわか:
 そう。いろいろなことを省略できる。ヒロインの風呂シーンとかも当然入るからっていう。。

大井:
 “機能主義”赤松健の真骨頂みたいなものですよね。(温泉があるんだから)自動的に風呂にも入る。

さやわか:
 もう1巻からこんな感じですからね。

大井:
 しかもこの人はちゃんとギャルゲーを研究して描いたって言ってますからね。だから頭のいい人がラブコメ描くとこうなるんだという。

 それがマガジンの編集主導の企画が多かったっていうこととなんかしら通じるところがあると思うので、大今良時先生とは違うタイプの作家の戦いかたっていうものを、赤松先生は見せてくれる感じがしていつもすごいなって。

さやわか:
 いやー、いいわ。いまパラパラって読んだだけなんですがやっぱりいい。このなに、泣き笑い?

大井:
 そうね、泣き笑い!

さやわか:
 あと、殴られてチュドーンって飛ぶとかね。それはもともと、サンデーのやるやつだろっていう感じ。サンデーというか、どちらかというと増刊サンデー的なやつをマガジンで堂々とやり始める。

大井:
 本来そうだったんですよ。このころに高橋留美子先生が『犬夜叉』を描き始めて、ラブコメ成分が薄くなったころに『ラブひな』が注入されたわけですよ。
『犬夜叉』
(画像は犬夜叉 (1) (少年サンデーコミックス) | 高橋 留美子 |本 | 通販 | Amazonより)
さやわか:
 だってこれ99年なので、つまりこれは『To Heart』とかが流行ったあと、キャラ属性重視のギャルゲー文脈が成立したあとのやつですからね。

大井:
 だからそういう新世代の、高橋留美子のキャラ文化をギャルゲーとかがバージョンアップさせたやつを、さらにバージョンアップさせてくるっていう。

 こういうすごいことを、赤松健は知能でなんとかするっていう稀有な漫画家だったと思うんですね。頭よく漫画を描くとはこういうことだと。
金田一少年の事件簿』が売れたことによる“ルパンシステム”の確立
さやわか:
 マガジンの『金田一少年の事件簿』。

 『名探偵コナン』を成立させた漫画で、この時期のマガジンの、つまりいまのマガジンの王道のコマ割りとか、話の作りかたとか、企画の組みかたみたいなものが、これで完成している感じが僕はするんですよね。

大井:
 まあ、確かに平成らしい講談社というかマガジンの樹林伸さんスタイルですよね。編集が企画作ってそれを作家に書かせるっていう。

 このころ、ニッポン放送のラジオをよく聞いていて、この漫画が始まる前に樹林さんがラジオに出て宣伝していましたからね。そういうマーケットに対する行動もやってる人だったので。

さやわか:
 さすが。

大井:
 そのころは伊集院光さん曰く、ただのヒョロヒョロしたおにいちゃんだったのにとか言われてましたね(笑)。

武者:
 その路線は、多分、五十嵐隆夫さんっていう編集長が結構作り込んでね。

大井:
 樹林さんの上(上司)がですか?

武者:
 そう、多分彼が集大成させたんじゃないかなとね。

さやわか:
 五十嵐編集長ってすごい有名な方ですよね。

武者:
 個性的な方ですよね。

大井:
 ちゃんと積み重なって……なんで出てきたのかなって思ってたけど、ちゃんと積み重ねだったんですね。

さやわか:
 五十嵐さん、結構長いことやられていた方ですよね。

武者:
 そうですね。

さやわか:
 確か五十嵐編集長に変わったときに青山さんはマガジンで賞をとっていたのだけれども、青山さんの絵はマガジンに合わないからって編集長に言われたって担当が言って、それでサンデーに行くんですよ。

武者:
 それが五十嵐さん!?

さやわか:
 そう。それが五十嵐さんだと思う。

大井:
 なるほど。

武者:
 歴史が紐解かれていきますね。

大井:
 つながってきましたね。そのとき青山先生がマガジンにいたら『金田一少年の事件簿』だけが残ることになる。

さやわか:
 ですよね。『金田一少年の事件簿』だけが残っていて、当然それに影響を受けた『名探偵コナン』はないという。

大井:
 それはやばいところだった。

 それで『金田一少年の事件簿』が売れたことによって、なんとかの昔の名作の孫って言いっちゃえばなんでもいけるんですよね。“ルパンシステム”だよね。思いついた樹林さんすげーなって思う。

さやわか:
 いろんな孫がありだと。

大井:
 そう、なんでも言えるんだと。アインシュタインの孫とかでもいいんだっていうね。なんでも行けるっていうことを教えてくれたのがこの『金田一少年の事件簿』だったよね。

最終的には負ける『SLAM DUNK』の美しさ
さやわか:
 つぎ、『SLAM DUNK』。 これ、なぜ挙げたかというと、最終的には負けるからです。

 平成のジャンプはなにか? って考えたときに『ドラゴンボール』が終わるのが95年くらいだったと思うのですが、それってつまり“バブル期の終わり”と重なっているんですね。

 あれってやっぱりすごいインフレの話というか、戦闘力がどこまでも上がって行ってしまうみたいな話じゃないですか。で、それが成り立たなくなった。そしてジャンプの部数も落ちる。
『DRAGON BALL』
(画像はDRAGON BALL 1 (ジャンプコミックス) | 鳥山 明 |本 | 通販 | Amazonより)
 そういう時代を迎えたときになにをやったのかっていうので、ひとつは『SLAM DUNK』は“負けたってドラマが描ける”みたいなこと。結果として残っているのは、負けということだけど、でもそれで美しかったからよかったよっていう。

 で、そういうドラマの作りとか人間の精神としてよい・悪いという、つまり気に入る・気に入らないは個人の好みとしてあるんだけども、いままでジャンプのシステムが突き進むかの如く好景気の波に乗っていたのに、この作品はそうじゃない時代に対応して終わったところが僕はいいなぁって思いますね。

大井:
 あの時代のジャンプの傑作として『SLAM DUNK』はちょっと抜けているというのは、僕も客観的にはよくわかる。

さやわか:
 あと、最初のうちはヤンキー漫画にするかスポーツ漫画にするか、どっちにでも行けるようにしといたらしいですよね。その結果、スポーツになっていったっていうのも時代に乗っていたと思う。つまり80年代的ではないように思えるんですよね。

大井:
 絶対に80年代的ではない。

さやわか:
 あとは漫画がうまくなっていくんですよね。しかもこの人。最初は別にそんなにうまいわけじゃないんです。

大井:
 最初あんま変わってないじゃんって思ってたら、ドンドンうまくなるんですよ。井上先生も僕はすごく真面目だと思うんだよね。

さやわか:
 真面目だと思います。

大井:
 すごく真面目に考えた結果、負けざるを得ないっていう感じ。

 あと、男の漫画で鎌倉が舞台っていうのは初めて見た気がする。

さやわか:
 なるほど。湘南……神奈川県ですよね。

大井:
 暴走族漫画の走る場所としてはよく出てたんだけどね。でも、湘南でラブコメしながらバスケしているわけです。あんまりラブコメはしていないかもだけど。

さやわか:
 でも確かに、マガジンとかチャンピオンとかでいうと、全部暴走族が走る場所だ、基本。

大井:
 だからバイクで荒らされている場所で青春しているわけですよ。

さやわか:
 ところがバスケをやるという新しさ。なるほど!

大井:
 僕はむしろそこが風景の綺麗な漫画だなぁってイメージが残ってましたね。

さやわか:
 でも確かに、神奈川島民的なオシャレさん。神奈川県の荒々しさではない。
いまのジャンプの礎を築いた『るろうに剣心』の功績
さやわか:
 つぎに僕が持ってきたのはこちら。『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』。

大井:
 『スラダン』と『るろ剣』どっちが重要かって聞かれると、僕は『るろ剣』って言い兼ねない人ですね。

さやわか:
 いや、実際僕もそう思います。あらゆる意味で『るろ剣』は重要な作品です。

大井:
 漫画としての出来みたいな話になると『スラダン』のほうが当然すごいと思いますけども、文化全体と考えたときに。

さやわか:
 まったくもってその通り。

大井:
 なんだろう、漫画のコンテンツでやっていいこと、やっちゃダメなことの幅みたいなことを、さっきの『うる星やつら』みたいな感じで、素直に影響を受けていいんだみたいなことで。二次創作なぐらいのね。

さやわか:
 いやぁ、でもそうだよね。この人ね。そうですね。ガトリングガンとかね。

大井:
 そう。一時期それがジャンプで看板だったっていうね。

さやわか:
 なぜ僕が今回持ってきたかというと、ジャンプの看板漫画にならざるを得なくてなった漫画なんですよ。

 他の漫画がドンドン終わっていった結果、まぁこれももちろん人気はあったんですけども、どう考えても少女漫画の絵だったんです。当時の基準で行くと少女漫画的な絵なわけですよ。

大井:
 オタク絵ってやつですよね。

さやわか:
 オタクが描いたオタクの絵の作品がなぜか看板漫画になったんです。しかも、オタクの漫画だから屈折していて、これって最初からの設定が“人を斬らない”ことを前提とした漫画なんですよ。

大井:
 そう。殺さないっていう。

さやわか:
 つまりこれも、ジャンプ的なインフレのバトルのシステムからちょっと引いた、ズレたところにある漫画。

大井:
 「最初から俺はインフレに乗らないぜ」っていう。むしろ、これは最初からインフレ終わったあとのキャラクターですからね。

さやわか:
 そうそう、そういうことなんですよ。だからすごい時代っぽいなぁって。

大井:
 昔最強だったけど、いまは別に……みたいな。

さやわか:
 で、そういうものがこの時代のジャンプの看板をやるというのが非常に時代を反映していて、いいなぁと思った。

大井:
 『ドラゴンボール』が終わって、看板がこれですからね。

さやわか:
 逆刃刀っていうのは、一応反対側に刃はついているんですよね。だから斬ろうと思ったら斬れるんだけれども、でも斬らない……っていうところで。

大井:
 ガチギレすると殺すっていう。

さやわか:
 そうやって、無節操な暴力の否定みたいなことをやっている漫画だからこれはすごく平成っぽい。不況、そして多様性の時代に入ってから我々はどうする? みたいな。やっぱり『SLAM DUNK』はそこまでじゃないところで終わった感じがするんだけれども、『るろうに剣心』は、もっと深刻な時代の漫画ですよね。

大井:
 多分、オタクがいじめられなくなってくる時代とリンクしているんですよね。5、6巻目ぐらいから『新世紀エヴァンゲリオン』みたいな敵が出てくるんです。そのとき『エヴァ』ブームで。

 そのあと、一般の人達がアニメ見るようになっているので、そういうのとうまく並行して歩き始めたのが『るろうに剣心』だと思うんですよね。

さやわか:
 そう。大井さんが言ったことも共感できる。なぜかというと、変な漫画なんですよね。なんかわけのわからないモンスターみたいなキャラクターがいっぱい出てくる。

大井:
 まぁアメコミ好きな人ですからね。

さやわか:
 リアリティじゃないんですよね。90年代後半ってホントに『エヴァ』的な意味で荒唐無稽なフィクションがやりにくい時代に、なんとなくなってしまったんですよね。

 90年代の頭ぐらいまでだったらまだやれていたんだけど、段々みんな心理主義みたいなものが好きになったり、リアリティが好きになったりとかした。ところが和月伸宏は、この絵で、全力でそうじゃないものを描くんですね。この人がいないといまのジャンプはないと思う。

大井:
 オタク絵がトップを取るというのは多分これが初めてだった気がするんですよね。

さやわか:
 いまのジャンプってそれこそ異能モノっていうか、トンデモ世界みたいなものがいっぱいあるわけじゃないですか。それってこの人がその礎を築いたと僕は思うんです。

 コメント見ると、この時期のジャンプを読んでいなかったって人が結構いるわけですけれども、それは多いと思いますよ。だってこの時期のジャンプって……。

大井:
 『SLAM DUNK』と『ドラゴンボール』が終わってるんだから(笑)。あと『幽★遊★白書』も終わっているんだから。

一同:
 (笑)。
『幽★遊★白書』
(画像は幽★遊★白書 1 (集英社文庫(コミック版)) | 冨樫 義博 |本 | 通販 | Amazonより)
さやわか:
 終わってるんだから、読まなくてもしかたないっていう。でも『るろうに剣心』は支えてくれていたんだよ。

大井:
 そう。俺も連載中は楽しく読んでましたからね。やっぱ志々雄真実出てきたからおもしろくなってきた……みたいな感じで。(コメントを読みながら)
人類史に残る漫画『ONE PIECE』が目指しているものとは
さやわか:
 『ONE PIECE』!

大井:
 『ONE PIECE』はもう紹介する必要がないとはいうものの、『ONE PIECE』はなにがすごいかというと、この人は……どっから喋ればいいのかな?

 ……最初にいうと、僕はギリシャ神話がすごく好きで。というか神話がすごく好きなんですよ。

さやわか:
 (笑)。遠いところから話が始まった。

大井:
 (笑)。子供のころから世界中の神話みたいなものが好きだったわけですよ。ギリシャ神話、ケルト神話、北欧神話とか。それでギリシャ神話ってなにかっていうと、吟遊詩人が地方を回って、それぞれの神様の話を集めてきて、ひとつのギリシャ神話という世界観でまとめて歌うっていうのがギリシャ神話だったわけですよ。

 要するにディオニュソスとか別にギリシャの神様ではなくて、適当な蛮族のお酒の神様なわけですよね。そういうのを無理やり世界観を統合してギリシャ神話の神様ですよっていってまとめるのがギリシャ神話なわけですよ。

 ということを、尾田栄一郎は20世紀の人類の物語カルチャーを、要はディズニーとか、おとぎ話とか、ジャンプとか、昔のアニメとか、任侠ものとか、要は人類が考えたそういう小話みたいなやつを“海賊”っていうメタファーで全部まとめたっていう感なんですよね。

 要は、映画以降のカルチャーみたいなやつを全部まとめてみようという実験作として僕は『ONE PIECE』を読んでいるので、この漫画は人類史に残る漫画だという褒めかたをいつもしているんですよ。

さやわか:
 これはホントに大井さんが仰っていたとおりで、“冒険”っていうものにすれば、なんでも詰め込める。これは本当にすごくって、バトル漫画ではなく、実は冒険漫画なんですよ。

大井:
 バトル漫画としておもしろいところなんて、水の都編の最後ぐらい。

さやわか:
 そう。ジャンプの漫画ってバトルよくやってるよねって考えた結果、バトルだけでやっていくと、最終的にどれだけデカイ敵と戦うか、みたいな話になっちゃうから。

大井:
 そう。そして『るろ剣』みたいに最後は諦めるんだよ。

さやわか:
 だから『るろ剣』を経た後で、あらゆる要素をどんどん投入しても破綻しない物語をやろうとすると、こういう形になるんですよね。で、実はそれって『HUNTER×HUNTER』も同じことをやるんですよ。
HUNTER×HUNTER
(画像はHUNTER×HUNTER モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL) | 冨樫義博 | 少年マンガ | Kindleストア | Amazonより)
大井:
 それは日本のキャラクター漫画っていう文化がそれの懐が異様に深いっていうのが高橋留美子が発見した発明でもあるわけなんですよ。

さやわか:
 友引町という場所にいるということにすれば……。

大井:
 そう。友引町で宇宙人で女キャラ連れていればなんでもいけるっていう。これをやっているのが『ONE PIECE』なんだけれども。

さやわか:
 だから『ONE PIECE』はすごかったですよ。『ONE PIECE』は海賊っていう設定にして、旅するんだよ……って言ったら、いろんな場所に行けば、当然違うやつもいるよねって話になるわけで。

大井:
 この漫画は最初から魚人島という島があると。そこでは魚人が差別されているという話をしているのを、かなり話が進んだあとに魚人島編っていうのがあるんですよね。

 この魚人島編っていうのが完璧に描けたら、この漫画は本当にすごいことになると思ってたんだけど、魚人島編は本人も多分インタビューで答えているんだけれども「しくじった」って言ってるんだよね。実際読んでてもしくじったなって思ってたので、あのとき横に頭のいいやつがいればよかったのにっていうのが俺の後悔ですよね。

 要するに、差別の問題を描きたかったんですよね。でもそれが差別とはなんぞや? とかそういうところにうまく踏み込めなかったんだよね。あれがすごくもったいなかったなぁっていうのがここ10年くらいの感想です。

さやわか:
 そうですね。でもこの人が唯一うまくできるのか? っていうのがわからないのは、そういうセンシティブな問題ですよね。

大井:
 でも、センシティブな問題が描けないっていうのは日本人全体の問題ですよね。

さやわか:
 ディズニーとかは、まさにアメリカは現実問題としてそれに直面しているわけですから、見てきたようにというか、見てるままを描くわけじゃないですか。

大井:
 彼らも乗り越えるのに10年くらいいろいろ頑張ったわけですもんね。ピクサーの映像表現を極めてからみたいな。

さやわか:
 やっぱり『ONE PIECE』というか、尾田さんはそこを描かないといけないんだっていうのをすごく頑張ってはいるとは思いますけどね。

大井:
 だから政治性を受けて苦手になってしまったというコメントが出るくらい、日本のコンテンツの中で一番難しいところがそこなんですよね。でも『ONE PIECE』で踏み込めなかったら、相当厳しいと思います。

さやわか:
 厳しいでしょうね。だって『ゴジラ』ですら、あのくらいの「原爆の比喩でございます」みたいな感じだったわけじゃないですか。いまやちょっとでも政治的だってことになると「音楽に政治を持ち込むな」的な世論が沸くわけですよ。

 いろいろあっていいじゃない、みたいにも思うし、いまの海外のコンテンツとかを見ていると、政治性が普通に入っていますけど? みたいにもなっているので。もうちょっと、日本の漫画もナチュラルにやったらいいと思うんですけどね。

大井:
 おもしろい漫画としてね。

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元サンデー編集者も出演【漫画で振り返る平成】~出演:さやわか、大井昌和、武者正昭~

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