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東大など、「クマムシ」の標的遺伝子を改変した個体の作製に成功

2024年06月17日17時09分 / 提供:マイナビニュース

東京大学(東大)と千葉工業大学(千葉工大)は、宇宙空間への曝露など、さまざまな極限的なストレスに対して高い耐性を持つことで知られるクマムシの一種である「ヨコヅナクマムシ」(Ramazzottius varieornatus)を用いて、標的遺伝子を完全に改変した個体をシングルステップで作製する手法を確立したと発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の近藤小雪特任研究員(現・千葉工大 助教)、同・田中彬寛大学院生(研究当時)、同・國枝武和准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」系の遺伝学とゲノミクスに関する全般を扱う学術誌「PLOS Genetics」に掲載された。

微小な水生無脊椎動物であるクマムシ類の一部の種は、乾燥や高線量の放射線など、さまざまな極限環境における高い耐性を持つことが知られる。動物の乾燥耐性に関わる因子としては「トレハロース」(グルコースが2つ結合した非還元型の二糖)がよく知られているが、クマムシの耐性には同分子ではなく、これまでの研究から固有遺伝子の「CAHS(カーズ)遺伝子」や「Dsup遺伝子」は、動物培養細胞に発現させると、浸透圧耐性や放射線耐性を向上させることが示されいることから、そうしたクマムシのみが持つ固有の遺伝子が重要であることが示唆されている(たとえば今回の研究対象であるヨコヅナクマムシの持つ全遺伝子のうち、約40%はクマムシ固有遺伝子であると推定されている)。

そうしたこれまでの研究から発見された、多数の耐性遺伝子が実際にクマムシの体内でどのように働き、どの程度耐性に寄与しているのかを明らかにするには、標的遺伝子を破壊した遺伝子改変クマムシを作製して耐性への影響を評価する必要があるものの、これまで遺伝子改変クマムシの作製に成功した例はなく、そのような技術の開発は長年の課題となっていたとする。

そうした中、研究チームはこれまでの研究にてクマムシ成体の一部の細胞において、ゲノムの改変を行う技術を開発することに成功しており、今回の研究では、昆虫用として開発された「DIPA-CRISPR法」を参考にしてそれを発展させ、ほぼ完全な脱水に耐えられる「乾眠」と呼ばれる特殊な乾燥耐性を持ち、乾眠状態では脱水以外にもさまざまな極限的なストレスに耐性を示すことが知られているヨコヅナクマムシをターゲットに、標的遺伝子を完全に改変した個体を作製する方法の確立を目指すことにしたという。

今回開発された手法について研究チームでは、高濃度のゲノム編集ツールを適切な時期の成体クマムシの体腔に注入することで、同ツールが生殖腺内の卵細胞に取り込まれてゲノム編集が起こり、ゲノムが改変された子個体が得られると説明しており、実際にいくつかの遺伝子を標的として、高濃度のゲノム編集ツールをさまざまな日齢のクマムシ個体に注入し、各個体から生まれた子のDNA配列が調べられたところ、7~10日齢で注入された場合に、遺伝子が改変された(ノックアウト)子個体が複数得られたという。

また、いずれの標的遺伝子の場合も、得られた遺伝子改変個体のほとんどは、改変された配列が1種類の「ホモ接合体」であったとしている。多くの動物はゲノム(全遺伝子のセット)を2つ持つが、ある遺伝子に注目した時、2セット共にまったく同じ配列を持つもののことをホモ接合体という(2セット間で配列が異なる場合は「ヘテロ接合体」)。これは、ヨコヅナクマムシがメスだけで繁殖する単為生殖という生殖様式を採っており、ヒトなどの多くの生物で採用している雌雄の二性による有性生殖とは異なり、遺伝情報の伝達様式が特殊であるために起きる現象として解釈されるとした。

研究チームでは、このようにシングルステップでホモ接合変異体を得られるようになったことで、その後の系統化や解析が容易になったと説明するほか、ゲノム編集ツールに、研究者がデザインした配列を持つ1本鎖DNAの「ssODN」を加えて注入することで、同様の手法でデザイン通りの改変を起こしたノックイン個体が得られることも確かめられたとする。

また、今回の成果を踏まえ、クマムシの耐性機構のみならず、進化発生学などの研究分野の進展も期待できるようになるともしているほか、クマムシの耐性機構の解明を進めることで、ワクチンや重要な生物材料の保存技術の開発にもつながることが期待されるとしている。

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