2023年04月29日06時00分 / 提供:マイナビニュース
●「なんでワンコなの?」「いろんな動物を見たい」
フジテレビ系情報番組『めざましテレビ』(毎週月~金曜5:25~)が、この4月で30年目に突入した。ニュース、スポーツ、エンタメなど様々な情報を発信し続け、2022年度の番組平均個人全体視聴率は5年連続で民放同時間帯トップを記録(※ビデオリサーチ調べ・関東地区)。多くの視聴者にとって朝の時計代わりの存在となっている。
そんな同番組の初代女性メインキャスター・八木亜希子、番組スタートから現在に至るまでエンタメ一筋のキャスター・軽部真一アナウンサー、そして現在の第8代チーフプロデューサー・高橋龍平氏が、22日・29日に放送される同局『週刊フジテレビ批評』(毎週土曜5:30~ ※関東ローカル)で鼎談。テーマは「進化と果たしてきた役割」だが、大いに盛り上がった収録は、30分番組にもかかわらず1時間以上に及んでしまった。
そこで、放送でカットになってしまった部分を大幅に盛り込み、『めざましテレビ』30年の貴重なエピソードや、今後の展望などを語ったこの鼎談の模様をレポート。後編では、番組スタートから続く名物コーナーに八木が当初反対していたことを打ち明けた――。
○■わんこの目線から人間社会が見えてくるドキュメンタリー
――番組スタートから続いているコーナーとして「きょうのわんこ」がありますが、八木さんはどんな印象を持っていましたか?
八木:私、最初は反対したんです…(笑)
軽部:「なんでワンコなの?」って、ずーっとブツブツ言ってましたよね(笑)
八木:「いろんな動物を見たい」って言ったんですよ。
軽部:「“きょうの赤ちゃん”もいいよね」とも言ってましたよね。
八木:そうそう(笑)
――初回から現在に至るまで、同じ制作スタッフなんですよね。
高橋:2人のディレクターが30年担当しています。こだわっているのは、飼い主の求めに応じて芸をするわんこは取り上げないこと。服を着せているわんこも取り上げていません。あくまでもわんこの自然な姿を撮るようにしています。2人は、わんこの目線を通して、その時代の人間社会が見えてくるショートドキュメンタリーを作っているんだという気概で、30年やってくれています。
――だから「きょうのわんこ」は、30年変わらないんですね。
軽部:本当にわんこ目線で撮るんですよ。1回だけ「軽部がわんこの取材をやってみる」っていう企画を仰せつかって、僕がカメラを持って、京都のわんこを撮影したんですけど、まあ大変ですよ。常に低い姿勢でわんこと同じ目線でカメラを持たないといけないので、腰が痛くなりますし。でも、そうすることによって「きょうのわんこ」の世界ができ上がってるんだなということを、自ら体験して実感しました。
八木:「わんこ」のスタッフと話をしていると、本当に犬に対する愛情が深いんです。「自然な姿を撮ろうとしているので、特別なわんこじゃなくて、本当に日常にいるような姿を撮りたいんです」って、すごく優しいスタッフなんですよ。それが、西山喜久恵ちゃんの優しいナレーションとマッチして、今もずっとそれが続いているので、最初に反対していたことが本当に罪悪感で、見る目がなかったなって思います(笑)。私、7年前から犬を飼ってるんですけど、全然見方が変わるんですよね。「うちの子もする!」とか「こんなことする子もいるんだ!」って思いながら見てます。
――ただ、八木さんはコーナータイトルを「めざましわんこ」と間違えて紹介したこともありました(笑)
軽部:これは反対派だった証拠物件ですよね(笑)。でも、こういったミスや、ちょっとした「やっちゃいました!」みたいなことは、たくさんありましたよね。
八木:何かひっくり返しちゃうとかね(笑)。大塚(範一、初代男性メインキャスター)さんはNHKから来て初めての民放だったので、コマーシャルの時間をどうすればいいのかみたいな感じでしたから、「大塚さん、もう来ますよ」みたいなことも、しょっちゅうありました。
軽部:特に最初の頃は、ハプニング満載の2時間という感じではありましたよね。
○■占い師が続々拒否「順位なんてつけるもんじゃない」
――番組スタートから続くコーナーと言えば、「今日の占いCOUNT DOWN」もあります。
高橋:毎日5時58分、6時58分、7時58分に始まるんですけど、これを見て家を出るという人が多くて時計代わりになっているので、ここを変える理由はないと思っています。
――このコーナーはどのようにスタートしたのですか?
高橋:先輩方に聞いたところ、占いコーナーっていうのは、すでに他の番組にもあったそうなんです。そこに何をエッセンスとして加えるかということで、1位から12位まで順位付けをしてみようという話になったんですけど、「占いに順位なんてつけるもんじゃない」と様々な占い師の方に断られ、ようやくたどり着いたそうです。
八木:私はこれも反対しました(笑)。だから、常識的な私が反対するコーナーが人気になるということが、いかに常識を破るかが大事かという証明になっていると思います(笑)
――最下位を発表するときに「ごめんなさい」と言うのは、八木さんが始められたんですよね。
八木:スタッフに「私が伝えることになるから、何か救いのものとか入れてくださいね」って話をした記憶がありますね、すごく嫌だったから(笑)。だから、最初はその日の気分で「申し訳ないんですけど…」って言ってみたりしてたんですけど、「ごめんなさい」って言うのは1週間くらい経ってから定着したみたいです。
●「えっ!?」って思うことをあえてやっていた
――今では当たり前になっていることも、当時は挑戦だったものがたくさんあったんですね。
八木:そうですね。「えっ!?」って思うようなの企画がいろいろあったと思いますし、スポーツやニュースの伝え方に関しても、結構「えっ!?」って思うことをあえてやっていた気がします。
軽部:僕がやってるエンタメ情報だって、あの時間帯にやったのは、本当にうちが最初ですから、元祖っていう思いがありますよね。そうやって、『めざましテレビ』にはいくつもの元祖があると思います。
――初代の鈴木克明CPは、同じニュースを番組内で手法を変えて伝えるというのも、初めての試みだったと言っていました。
八木:これは私、大賛成でした(笑)。6時台は速報性を重視して、7時台は切り口を変えて工夫するんです。1つのニュースを違う形で伝えるというのは意義深いと思いました。
――それが、今も続いているんですね。
高橋:朝の時間帯は出かける準備をしながら見ていただいているので、1人が見る時間は30分から40分ぐらいが平均だと思うんです。その中で『めざましテレビ』として知ってほしい情報は集約されてくるので、1つのニュースでもポイントを変えながら、少しずつアレンジして伝えています。特に7時から20分間は、番組独自の目線をワンポイント加えて、それぞれのニュースを伝えていくスタイルでやっています。
○■「めざましじゃんげん」開始当初は苦情続出
――「めざましじゃんけん」も、10年続く長寿コーナーになりました。
高橋:2013年に当時の角谷(公英)CPが「データ放送のdボタンを使って何かしたい」という話になり、「クイズ」「あっち向いてホイ」などいろんなアイデアがあったんですけど、やっぱり一番シンプルで老若男女誰もが参加できるのは「じゃんけん」だろうということで決まりました。始めたときは、データ放送と相性が合わないテレビもあり、「じゃんけんに参加できない」と、視聴者センターに毎日大量に苦情の電話やメールを頂いて、社内でもこのコーナーをどうしようかという話にもなったんです。しかし徐々に落ち着いていき、今や毎年のべ2,000万人がプレゼント応募してくれる、めざましの看板コーナーになっています。
――「じゃんけん」に参加するタレントさんやアナウンサーのひと言が名物になっていますよね。
軽部:僕なんかめったに回ってこないけど、若いアナウンサーは、じゃんけんの後に何か面白いことや気の利いたひと言を言わなくちゃいけないので、みんなプレッシャーを感じながらやってますよね。その点、芸人さんはたった数秒で面白いことちゃんと言うので、あれはすごいなと思います。大泉洋さんも数秒でちゃんとボヤくし、さすがだなと思って見てます。
●軽部アナ、めざましくんとの共演に感激「30年かかったね…」
――近年の新たな試みとして、2022年にはアニメ『ちいかわ』が始まりました。
高橋:社内のアニメ制作部と原作のナガノさんのチームが、アニメ化に向けてご相談を始めた頃、『めざましテレビ』にお話がありました。すでにTwitterのショート漫画としてとてもバズっており、単にかわいい子ども向けのアニメではなくて、シニカルに大人の社会を描いた奥深さがあり、これは面白いと思い、1作品1分の尺で『めざましテレビ』でぜひやりましょうということになりました。「ちいかわ」たちを応援したくなる、誰もが感情移入できる物語で、『めざましテレビ』のテンポ感にもぴったり。正直、最初はここまでの社会現象になるとは想像できていなかったのですが、反響を受けてこの4月から週2回放送しています。
やはり時代をつかんでいるコンテンツとコラボレーションすることによって、『めざましテレビ』を新陳代謝させることはとても大切だと思うんです。30年も続くと、普通にやっているままではどんどん古臭く見えていくので、その中でどう新しいアイデアを入れていくかが大切で、『ちいかわ』はすごくハマったなと思います。
――この4月からもう1つ新たな試みとして、番組キャラクターの「めざましくん」が最新のモーションキャプチャー技術を使って、バーチャルでスタジオに登場するようになりました。
高橋:社内のCGチームが「今こんなのを開発中なんだけど…」と見せてくれたのが最初だったのですが、それが2月の話だったんです。でも、やるなら4月からやったほうがいいという話になって、急ピッチで精度を上げていただいて、ギリギリ間に合いました。これも『ちいかわ』と同じで、古い番組に見えないようにしたいということで導入しました。めざましくんは30年出演しているのに、これまで出演者と絡むことができなかったのが、有機的に軽部さんや三宅(正治)さんにツッコんだりできて、番組としてはとてもいい武器を持ったなと思っています。
軽部:30年一緒にやってきているのは、コーナーだと「わんこ」と「占い」、キャラクター的には「めざましくん」と「軽部」ですから、同期だと思ってるんです。一緒にやってきた同胞・親友と、やっと番組内でコミュニケーションが取れるんですから、もう感激ですよ。30年かかったね…。
――テーマソングもこれまでいろんな曲がありましたが、4月からはVaundyさんが書き下ろしたAdoさんの「いばら」が流れています。
高橋:毎年アーティストの方に、「視聴者に寄り添って心のスイッチを毎朝入れてくれる楽曲」を制作してほしいとお願いしているんですけれど、この3年はコロナ禍だったので、そっと背中に手を当てるような温かく優しいテーマソングになっていたんです。今年はいよいよ制限が解除されていく中で、みんなそれぞれ我慢していたことを始めるタイミング。そんな中でVaundyさんと直接やり取りさせていただいたのですが、「ただ優しいだけではなくて、強くて優しいメッセージの形もあるのではないか」というお話を頂き、今回は熱くロックで、視聴者の心のエネルギーになる、とても前向きな楽曲を制作していただきました。
○■“めざましらしさ”とは…
――改めて30年の節目を迎えて、今後どんな『めざましテレビ』にしていこうと展望されていますか?
高橋:家族や仲間とシェアしてほしい新しい情報をどんどん発信して、視聴者にインプットしていただくのがやっぱり一番大事なことで、その上で皆さんの時計代わりとなって、『めざましテレビ』を見ながら朝の準備をしているうちに、徐々に心のスイッチが入っていくことが、“めざましらしさ”なのかなと思っています。めざましを見ながら「今日も1日頑張ろう」と思っていただきたい。そこにブレは一切ありません。その上で、30周年イヤーは思い出に浸り過ぎると、過去を振り返ってばかりになってしまいますし、Adoさんのテーマソングもすごくロックで前向きな曲なので、未来に向かって新しいことをガンガン始めるポジティブな1年にしたいと思っています。
軽部:最初に八木さんと大塚さんと一緒に作った“めざましらしさ”は、今も脈々とあるわけですよ。いろいろ変わってきてはいるけど、やっぱり残ってる。それを30年続けている僕は、唯一の証人として継承する役割を担ってるんだろうなと思います。
――八木さんは、どんなところを期待したいですか?
八木:“めざましらしさ”って出演者同士が仲良しでファミリーな感じかなと思ったんです。でも、今日こうやって話をして思ったのは、多少の反対があってもやり続けるとか、恐れずにやるっていうチャレンジが、秘伝のタレみたいに同じ味のようで時代に合わせてちゃんと変化してる、そういうところが“めざましらしさ”として続いていることなのかなと。その進化を、これからも頼もしく拝見したいと思います。
●八木亜希子1965年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学卒業後、88年フジテレビジョンに入社し、同期の有賀さつき、河野景子とともに“三人娘”と呼ばれて人気を博す。『めざましテレビ』で初代女性メインキャスターを務めたほか、『笑っていいとも!』『さんまのスポーツするぞ!大放送』『スーパーニュース』などを担当し、00年に退社してフリーに。その後、『BSフジLIVE プライムニュース』(BSフジ)、『久米宏のテレビって奴は』(MBS)などで司会を務めたほか、映画『みんなのいえ』で本格的に女優デビューを果たし、『あまちゃん』(NHK)、『カルテット』(TBS)などのドラマにも出演。現在は『八木亜希子 LOVE&MELODY』(ニッポン放送)、『八木亜希子のおしゃべりミュージアム』(BSフジ)、『AS-Lab(アスラボ)チャンネル』(東京大学エクステンション)、『明石家サンタの史上最大のクリスマスプレゼントショー』(フジ)などに出演する。
●軽部真一1962年生まれ、東京都出身。早稲田大学卒業後、85年フジテレビジョンに入社。『おはよう!ナイスデイ』を担当後、94年に『めざましテレビ』がスタートして以来、一貫してエンタメコーナーを担当する。現在はほかにも、『MUSIC FAIR』、『男おばさん!!』(CS・フジテレビTWO)、『日曜邦画劇場』(日本映画専門チャンネル)、イベント『めざましクラシックス』を担当。22年7月から役員待遇エグゼクティブアナウンサー。
●高橋龍平1978年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、01年にフジテレビジョン入社。情報制作局で、『とくダネ!』『スタメン』のほか、『椎名誠のでっかい旅!』『ザ・ノンフィクション』『NONFIX』『FNSドキュメンタリー大賞』などを担当し、『ノンストップ!』『アゲるテレビ』総合演出を経て、『めざましテレビ』でプログラムディレクター、総合演出、19年7月から第8代チーフプロデューサー。