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九大など、高い電池性能をもつ厚さ約1μmのナトリウムイオン電池を開発

2023年01月10日16時56分 / 提供:マイナビニュース


九州大学(九大)は1月4日、イオン伝導度などの基本性能で優れた特性を有する結晶構造のナシコン型「Na3Zr2(SiO4)2(PO4)」(NZSP)のセラミック電解質に、同一の結晶構造と類似の化学組成を有するナシコン型「Na3Ti2(PO4)3」(NTP)の電極材料を接合した全固体ナトリウムイオン電池において、高い電池性能を得ることに成功したと発表した。

同成果は、九大大学院 工学研究院応用化学部門の林克郎教授、同・Jia Shufan研究員、同・大野真之助教、同・赤松寛文准教授、同・大学院 工学府のWang Jian大学院生、名古屋大学 未来材料・システム研究所の長谷川丈二准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行するエネルギー変換と貯蔵に関する学際的な分野を扱う学術誌「ACS Applied Energy Materials」に掲載された。

酸化物セラミックス系電池の優れた点は、熱的・化学的・機械的に極めて丈夫であることだ。従来の電解液を用いた電池とは異なり、液漏れや発火などの危険性がなく、極めて安全である。そして電子回路基板への実装性に優れ、なおかつ過酷な環境下での使用にも適する。また電解液型電池と比較して、高温・低温での特性劣化と低下が抑えられ、広い温度範囲での利用にも対応可能といった特徴も有する。

酸化物系セラミックス系電池としては、一体構造(モノリス型)の全固体リチウムイオン電池(LIB)が、すでに国内の複数の電子部品メーカーから市販が開始されており、小型電子機器向けの電源として期待されている。しかし、リチウムの埋蔵量や生産量が限られることから、ポストLIBの開発が活発に進められている。

電解液系電池としては、原料コストの低減や安全性の利点からリチウムをナトリウムに代替したナトリウムイオン電池が注目されている。それに対して酸化物セラミックス系においては、同電池の研究開発は比較的限定的な状況にあるという。

酸化物セラミックス系の場合、イオン伝導度などの基本性能において、ナトリウム系材料はリチウム系より優位にあることが認知されている。ところが、セラミックス製造に重要な焼結の特性では劣る場合が多く、それが酸化物セラミックス系のナトリウムイオン電池の開発を妨げる要因となっていた。

電池性能の向上のためには、焼結によって電極材料と電解質材料などを密に接触させる(緻密化)が必要であるが、焼結性の悪い材料を高温に晒すだけでは、意図しない反応により特性を損ねてしまうことが問題だったという。そこで研究チームは今回、ナシコン型のNZSPセラミック電解質に、同じくナシコン型のNTPの電極活物質を接合して高い電池性能を得ることにしたという。


これらの組み合わせで期待されるのが、焼結中の意図しない反応による影響を最小限にできる点だ。さらに通常の焼結法ではなく、NTP組成で一旦ガラスを形成し、その粉末を塗布して加熱することにより、より低温で緻密化させる「ガラス-セラミックス法」を検討したとのこと。通常、金属酸化物のセラミックス製造には、600~1700℃の温度範囲が適用されるが、今回の焼結に要した温度は約850℃だったという。

また研究チームは、焼結前の塗布層の厚みを制御することも重要であることから、将来の酸化物セラミックス電池製造で要望のある1μm水準の厚みを目指したとする。一般に、このような厚みを得るためには、大がかりな設備を要する物理蒸着法や極めて高精度な鋳込み法が採用されるが、今回の研究では、汎用性の高いスピンコート法で実現できることが示された。

今回開発された電池は2.2Vで充放電を行うことができ、非常に低い過電圧(0.1C(10時間での放電)条件において0.03V)と優れた繰り返し充放電特性を示したという。また、-20℃の低温では容量の低下はあるものの、その度合いは一般的なLIBと比較しても少なく、優れた温度特性が示されたとする。今回作成されたコイン型電池の内部で用いられている電極は、実際には1μm前後の厚みであり、磁器表面の絵付け程度に相当する微量だが、実験ではデジタル時計の駆動にも成功している。

研究チームによると、今回検討されたナシコン型材料にはさまざまな組成バリエーションがあるため、今回の手法を展開することによって、より高電圧の電池を設計することが可能になることが予想されるという。また、電池の高エネルギー密度化には、今回用いられたNZSP電解質もしくはこれに代わる材料にも膜厚を制御して低温で緻密化することが求められるため、その研究開発を継続していくとする。加えて今後の見通しとして、資源制約のない原料から製造される、完全に安全で堅固かつ過酷な環境でも動作する電池としての実用化を目指すとした。

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