2023年01月23日13時00分 / 提供:マイナビニュース
NTT東日本、埼玉県本庄市および本庄市自治会連合会、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(以下、JUIDA)、筑波大学らが中心となって始まった「シニア受講生によるドローン操縦技術発表会」。この取り組みはドローンを中心に、地域のシニアたちが集い、笑顔で技術を学び、将来的には社会参画にまでつなげようという企画だった。2022年12月に行われた発表会の模様をお届けしよう。
○■シニアが軽快にドローンを操縦
八高線「児玉駅」に近いフィールドに用意されたドローンの操縦訓練場に集まったシニアたち。彼らが手にしているのはドローンを操縦するためのコントロ―ラーだ。ドローンの操縦技術と資格を管理しているJUIDAの職員らの指示で彼らが行なっているのは、パイロンに設置された写真をドローンで撮影するというもの。これまでに座学を含め7回の実技講習を経てきた彼らの腕前は強風の中でも十分に発揮できるものだった。
筆者の想像をはるかに上回るスキルを見せてくれるシニアたちの表情は明るく、仲間との会話も軽快そのものだ。「この取り組みはシニアがドローン技術を学ぶことで健康増進や、ドローンパイロットとして地域の課題解決や多世代が共生するまちづくりを実現していくことを目指しています」と、取り組みについて語るNTT東日本の林氏。
NTT東日本は、ドローンの操縦が、「思考」し、「野外で行動」し、「手先」を使い、「感情を動かす」ことになるため、シニアの健康長寿に役立つという部分に着目。継続的にドローン操縦を学びながら健康増進につなげるだけでなく、取得した技術を実社会の課題解決に役立て、地域におけるドローン活用の先駆者になってもらうことを最終目標とするのだという。
この仮説の実証のため参画したのが、実験場所ならびに参加シニアの取りまとめ先として積極的に活動した本庄市の市民活動推進課および本庄市自治会連合会、シニア向けドローン講習の運営や分析にJUIDA、シニアのフィジカルやメンタルに与える影響の測定や考察に筑波大学が集まり、2022年11月から実証実験という形で実施されることになったのだ。
○■シニアドローンパイロットの腕前は?
当日の訓練でシニアパイロットらが見せてくれたのはドローンを飛ばすテクニックはもとより、そのチームワークの良さだ。パイロット役と撮影のためのナビ役は持ち回りだが、誰の順番になっても声を掛け合い、方向を修正していく様子はベテランの領域ともいえるほど息がぴったりと合っていた。この取り組みを通じ、プライベートな日でも声を掛け合って、次回の講習に備えていた人も多かったというがとても納得がいくチームワークだ。
休憩中の彼らに声を掛けてみると「ドローンを飛ばすのは楽しい! 」と笑顔が絶えない。苦労した点を伺うとほとんどの人がコントローラーを使う指先だという。「細かな調整が多いので、大変気を使う」と言っていたが、カリキュラムをこなしている最中は集中力も途切れず、離陸から撮影、着陸までスピーディーだ。当日はやや風が強かったこともあり、時折想定以上にドローンが流れることもあったが、すぐに修正、対応できている。これは訓練時間が充実していた証でもあるといえる。
「この取り組みが終わったとしても、個人でドローンを買う予定です。ぜひ続けていきたいですね」と少年のように目を輝かせている様子は、シニアドローンパイロットたちがこれから地域で活躍する日も遠くはないだろうと感じさせてくれた。
当日はいくつも用意されているパイロンの裏側に貼られた絵や、バケツの底に掛かれた文字をドローンで撮影するというカリキュラムが用意されていた。
○■生活に密着したドローン活用を
「ご覧いただいたようにすでにドローンのシニアパイロットが生まれつつあると感じています。各自治会から参画したシニアがこうして集い、技術を学び、今度はそれを地域で活かしていくことに大きな期待を抱いています」と語るのは本庄市自治会連合会の岩上会長。本庄市には85の自治会があるが、それらを取りまとめているのが自治会連合会になる。同会長は最初に自治会へ話が来たときにNTT東日本の中でもこの取り組みは初めてと聞き、先駆者を生み出す良い機会ということで、取り組みへの参画を快諾したという。
「ドローンの免許や運行管理などの資格保持者は増えています。しかし、地方や地域が抱えている課題解決にはそれだけでは不足しています。地方においては生活に密着したドローン活用を進めていくことで積極的にドローンが活かされる社会になっていくのだと考えています。そのための第一歩がこの取り組みであり、本庄市がこれからの日本の地域を牽引していく存在になると思っています」と語るJUIDAの岩田氏。
高所や難所の点検作業などにドローンはすでになくてはならないものになっているが、地域においては見守りやひとの誘導、離れた場所にある植木などの写真撮影、さらには防犯のための監視や徘徊者の探索など、ドローンが地域の課題解決を担う余地は多分にあるという。今回の実証実験に用意されたカリキュラムはまさにそういった実際のドローン活用を想定したもので、シニアパイロットらも見事に期待に応えているといえるだろう。
「今回の取り組みでは全体のコーディネートを担当させていただきました。参加者のみなさまがこの取り組みを通じて身体あるいは心理的にどのような影響があるのか拝見していくなかで、新たな気づきや想定外だった部分もありました。この実証実験の結果を踏まえ、社会実装を目指していきたいと思いますが、最終的な成果物に関しては後日詳細を発表させていただきたいと思います」と語るNTT東日本の佐々木氏。
地域創生に力を入れているNTT東日本だが、本件をコーディネートしている佐々木氏らのチームは新技術を活用したビジネスモデルの創出を目的として活動しており、ドローンを始め、他にもさまざまな取り組みをしているという。今回の仮説の検証結果については最終報告を待ちたいが、佐々木氏は「シニアの方々が笑顔で取り組み、なおかつ想像以上のスキルを習得されているのを見て驚きました」と目を細めていた。
「本日は13名のパイロットがいます。自治会に声が掛かったことはとても重要で、彼らがいる地域にはさまざまな生活課題があります。ドローンで解決できることも多く、自治会の関係者でもある彼らが技術を学ぶことで、自治会そのものに革命が起きるのではないかと期待しています。これからはドローンを活用して自分たちの地域をよくするためのアイデアがどんどん出てくると思います。ドローンの技術を駆使して、日本の高齢化社会を元気に明るく過ごせるようにする、そんな未来の日本のスタートになればうれしいですね。本企画に尽力いただいた関係者の方々には心から感謝しています」と総括する本庄市長の吉田氏。
地域が抱えている課題は山積している。それら一つひとつの解決にドローンが役立つシーンは数多くあるだろう。この取り組みを通じ、技術を得たシニアが大いに活躍する日が待ち遠しい。