2022年12月28日10時00分 / 提供:マイナビニュース
前回は新興企業が提供しているファイナンス手段について説明いたしました。今回は、筆者が2022年に読んだ本の中から財務担当者向けの参考文献を紹介いたします。新刊以外も含まれております。
○月刊「企業実務」公式サイト
1962年創刊。株式会社エヌ・ジェイ・ハイ・テックが運営(編集)し、日本実業出版社が発行している月刊誌です。経理•総務•人事の各領域について分かりやすく情報がまとめられており、若手の担当者のガイドブックとして活用できます。
○中小企業金融の経済学 金融機関の役割 政府の役割
2022年6月発売。『検証中小企業金融:「根拠なき通説」の実証分析』の続編にあたる研究書です。2019年頃までのデータを取り扱った定量分析が多く含まれており、コロナ禍の直前の状態を知ることができます。担保や保証についても議論されているので、昨今金融審議会にて検討されている事業成長担保権について考える上でも、欠かせない文献だと思います。
○スタートアップ投資のセオリー 米国のベンチャー・キャピタリストは何を見ているのか
2022年6月発売。第一線で活躍するベンチャー・キャピタリストが書いたスタートアップ投資の教科書です。第5章「米国のVCと日本のVCの違い」では日米の制度比較がなされているのですが、メディア報道とは異なる視点で書かれており、物事を多面的に見ることの重要性にあらためて気付きました。ベンチャー・キャピタリストを養成するカウフマン・フェローズ・プログラムについても紹介されています。
○ビジネススクールで身につける ファイナンス×事業数値化力
2022年9月発売。日本のファイナンス力を高めたいというメッセージが伝わってくる書籍です。財務担当者が業務を遂行する上で何を考えているのかを垣間見ることができる内容で、学生にもお薦めです。
○新解釈 コーポレートファイナンス理論 「企業価値を拡大すべき」って本当ですか?
2022年10月発売。スタートアップ界隈では語られることが少ない資本コストについて、理論と実務の双方の観点から理解を深めることができる本です。「第8話 コスト削減の努力は報われるか? キャッシュフローという現実性」の章では、会計とコーポレートファイナンスの相違点が分かりやすく説明されているので、経理職と財務職の差が何なのかを理解するための助けになります。
○金融マンのための不動産ファイナンス講座〈第3版〉
2021年12月発売。不動産を担保とする融資は、無担保融資では馴染みのない用語が頻出するため、未経験の財務担当者が全体像を把握することは難しいです。本書では不動産取引に関与するプレイヤー、不動産のデットファイナンスとエクイティファイナンス、担保価値の評価、会計と税務のそれぞれについて解説されているので、入門書として最適です。
○企業の多様な資金調達手法に関する実態調査 調査報告書
2019年2月に帝国データバンクがまとめた報告書です。動産・債権担保融資(Asset-based Lending、ABL)の実態について情報が集められており、担保として考えられる棚卸資産・機械設備・債権をどのように組み合わせて融資が実行されたのか、どの業態の金融機関が積極的だったのか、統計値が示されています。ローカルベンチマークやFintechの融資・審査への活用について触れている箇所もあるので参考になります。
参考文献の紹介は以上です。本年もデットファイナンスを巡る最新情報の提供と過去の連載内容の補足説明を中心に、11回に渡って連載させていただきました。2023年も引き続き書き続けたいと思っております。お読みいただきありがとうございました。
→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら
千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『~事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達~ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら