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『ADHX』(エーディエッチエックス)を試乗レポート! Time初のグラベルロードの実力は?

2022年10月06日11時05分 / 提供:マイナビニュース

現在、いちばん入手困難なスポーツバイクと言えばグラベルロードだろう。アメリカでシクロクロス(テクニカルな未舗装路を周回する競技)人気に端を発し、ヨーロッパでも大人気となっている。

中には2年待ちのモデルも登場し、日本でもコロナ禍で一気に火が付いた。
○■高強度『ダイニーマ』

グラベルロードの特長はロードバイクよりも太いタイヤを履き、キャンプやツーリングにも対応できること。クルマに例えるとSUVのように、多目的に使えるため、ベテランから初心者まで人気がある。

似たようなコンセプトにMTBから派生したクロスバイクがあるが、ハンドル形状はストレートバー。グラベルロードはロードバイク(シクロクロス)をベースにドロップバーとスタイリングも異なる。また、車格も総じてグラベルロードの方が上でスポーティだ。

フランスの高級ロードバイクブランド『Time』は数少ない例外を除いて、ロードレース用のレーシングバイクを作り続けてきた。これまで数々の輝かしい戦績を残し、欧州ロードバイクが好きな人なら一度は憧れたことがあるはず。

そのTimeが初めて作ったグラベルロード用モデルが『ADHX』(エーディエッチエックス)だ。

特徴はパイプの接合部分にはスチールの15倍の高強度を誇る繊維『ダイニーマ』を採用し、転倒時にフレームが破断しないように強度を上げている。ダイニーマはDSM社が製造する超高分子量ポリエチレン繊維で、耐衝撃性・耐引裂強度に優れた素材だ。

しかし、融点が150℃と低く、一般的なプリプレグを使った内圧成形工法では使用できないのが弱点だ。だが、Timeは成形時の加熱温度が低いRTM(レジン・トランスファー・モールディング)工法を採用しており、ダイニーマの使用が可能なため、市販車としては初めてダイニーマとカーボンのハイブリッドフレームを開発・発売することになった。

○■ミニマムであることで、スポーティさが増幅

グラベルロードの守備範囲はロードバイク以上、MTB以下。しかし、MTB寄りのそれと、ロードバイク寄りのグラベルロードでは目指す方向が大きく異なる。ADHXは“ファストグラベル”用に開発されたので、未舗装路の走破性よりも軽快なロードバイク寄りの走行感を重視している。

どうせ買うなら…タイヤの幅40C以上のワイドタイヤを装着できるモデルを探す人は多い。メーカーにしても、最新のロードバイクは30Cぐらいまで対応したクリアランスが求められるので、差別化を図るためにワイドタイヤ仕様にする。そこに落とし穴がある。

低圧の太いタイヤは路面の凹凸を吸収するので乗り心地が良く、グリップ力も増すから、ブレーキもコーナーリング性能も向上する。それだけなら万々歳だが、それだけではない。太くなるほどタイヤは重く、加速性が悪くなる。さらに度を越せば転がり抵抗も大きくなる。

スポーツバイクにとって、軽さと摩擦抵抗を減らすのは永遠のテーマ。極太タイヤのファットバイクがブームで終わったのは、快適に走れる用途が極端に限られてしまうからである。

グラベルロードにしても、しかりだ。未舗装路に焦点を当てたセッティングなら40Cは極上でも、舗装路がメインでは太すぎる。

ADHXを走らせた第一印象はグラベルロードというよりも、ツーリング車としての素性の良さだ。試乗車は上限の700×38C(実測40㎜)が装着されていたが、一般道を走る軽装備ツーリングなら32Cで十分だ。

ハンドリングはアルプデュエズに準ずるように設計(トレール値)されている。グラベルロードでは直進安定性を高めにするモデルが多いので、ロードバイクと同じトレール値なのはユニークなポイントだ。

しかもヘッドチューブの長さや角度、フロントフォークのオフセット量など細部のアプローチを変えてトレール値を揃えているので、Timeの考えるハンドリングを維持するために腐心したのだろう。

なにしろハンドリングの良し悪しは、自転車全体の印象を大きく左右する。Timeはフロントフォークの剛性をできるだけ高く、ダウンチューブ&ヘッドチューブの剛性バランスを調整してハンドリングを演出してきた。それはヒラヒラと自在にラインを描くというよりは、オンザレールで曲がるような安定感を大切にしてきた。

ADHXは舗装路のヘアピンコーナーのようなシチュエーションで、タイヤが低圧で太い分だけ姿勢の変化が遅く、コーナーの入り口でノーマルロードバイクよりも曲がらない。

だが、きれいめの林道っぽい未舗装路では安定感があり、意のままに操れる感じとなる。この辺りの演出はアルプデュエズとは大きく違う。人と競う走りをしないなら、扱いやすくストレスの少ない走りができる。

トップチューブに直付け用台座はあるが、バッグやマッドガードを取り付ける拡張性は必要最小限だ。フロントフォークやシートステー、エンドにダボはない。テントなどキャンプ用品を持って旅する自転車が必要なら、他の選択肢もあると言わざるを得ない。

誰にオススメするバイクなのか。言葉にすると中途半端なバイクだと思われるだろうが、ADHXは多くの人にとってTimeの最適解だ。日本の多くのサイクリストは最高級レーシングバイクを偏愛するが、それは一般人にとってベストチョイスじゃない。

気の向く方向に、好きなだけ、自由なペースで走る。それが多くの人にとってのサイクリングであり、プロ選手と同じ機材が必要な人など、ほぼいない。わずかでも速く…という気持ちは分かるが、“プロごっこ”を卒業したなら、必要なのは軽量でフリクションロスの少ないバイクだ。

グラベル入門車と言ったら贅沢かもしれないが、Timeオーナーなら高いとは言わないだろうし、初めてのTimeとしてもいい選択になるだろう。

文/菊地武洋 写真/ 和田やずか

菊地武洋 きくちたけひろ 自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。 この著者の記事一覧はこちら

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